【人権フォーラム】いのちを救う~東尋坊の現場から


  

1月19日から20日まで、曹洞宗人権啓発相談員協議会が開催され、初日に、茂幸雄氏(心に響く文集・編集局代表)の講演が行われた。茂氏には現在制作中の人権啓発ビデオ第13作『いのち、つないで』にもご出演いただいており、今回は講演録として概要を掲載する。
 
人命救助活動
活動を開始して7年近くになりますが、今日まで岩場に立って飛び込もうという人を303人止めてきました。 私たちは、その人たちの話をお聞きして悩み事を解決する。そこまでしないとあの人たちは再出発できないんです。心がボロボロで、ひとりでは歩けない状態になっているから「あそこへ行ってこうこうすればいい」と言われても、相談所に行くことができない状態です。私たちはその人の話しをお聞きして、解決するために一緒に歩いて、再出発してもらっています。 自殺者が多いと言いますが「自殺者」という考え方が曲がっているんです。「死にたい人は死なせておけばいいんですよ」という人がいますが、あの人は1人も死にたくない、助けてくれという叫び声を挙げている。その人たちを助けることは、自殺防止活動ではなく人命救助活動だと訴えております。「助けてくれ」と川で溺れている人を助けるだけが「助ける」ではない。
 
心に響く文集・編集局
私の団体名は「心に響く文集・編集局」という名称ですが、なぜこういう名前なのかと言いますと、私は前職の時、東尋坊を管轄する警察署におり、21人の死体を検視しました。そして70人ほどの自殺未遂者。さらに家族の遺書も読ませていただきました。ところが周りの人たちが「この人は気が弱いから」と押さえ込んで、その人たちの声を世の中の人に届けていない。これはおかしい。 東尋坊の岩場に立った時には「もう死ぬしかない」と結論を出している一方で、この人はその前にこうして欲しいという叫び声がたくさんあったんです。「その叫び声を皆さんに知ってもらおう。それを本に書こう」という思いから「心に響く文集・編集局」という名前にさせていただきました。
 
誰が自殺を止めるのか
1998(平成10)年にWHOのジュネーブ会議で「日本は主要先進国の中で一番自殺が多いのはなぜか」と指摘されましたが、現在まで対策が取られて来ませんでした。つまり誰が自殺を止める責任者は誰なのかということなんです。 かつて1970(昭和45)年に「交通戦争」と言われ、死者数は1万6000人強。その責任者として据えられたのが警察です。交通事故を起こせば犯罪ですから、警察は官民一体で法律改正して、3分の1以下に押さえ込みました。 自殺者が13年連続3万人いても、誰も責任者が名乗りでない。自殺者を誰が食い止めなければいけないかハッキリ書いてあるんです。地方自治体がやらなければいけないんです。各首長さんが先頭を切って自治体の自殺者を食い止める責任があるんです。自分の地域を防ぐ第1責任者でありながら「国から言われたから何かする」という現実の体制であると思います。  「担当者は誰だ」と言っても、たらい回しなのが現状。国民も目を覚まさなければいけないと思います。ぬるま湯に浸かって知らん顔してそれに気づかない状況、それが今の自殺に対する国民の意識だろうと思います。 自殺者が3万人で、その遺族と未遂者を含めると、すごい数になります。この現状に対して、危機感の意識がまだまだ足りない。命に関して取り組んでいる人たちは、声を挙げて国民の皆さんに訴えるべきだと思います。
 
昨年の事例
10月下旬、80歳の母と60歳代の息子さんが、実は岩場から飛び込んでしまったんです。巡回していたら観光客の人が「今、飛び込んだ」と言ってきて、飛んでいってみたら、岩場から飛び込んでお母さんは亡くなっていました。息子さんが海の中で「助けてくれ」と叫んでいたので、119番して来てもらって引き上げて、一命を取り留めました。自殺の動機はお母さんの介護疲れで「もう、どうしようもない。ここで人生を終わろう」ということで飛び込んだんです。 自殺関与罪で現在、警察に入っていますが、当然、社会的に執行猶予になると思います。そういう人に対する保護の手が非常に少ないと思います。 また、昨年の事例で多かったのは大学生の就職氷河期による自殺者。 そして昨年までは、70歳過ぎのお年よりの方が東尋坊へ来ることはありませんでした。9月ごろ、70歳過ぎの方が岩場に立っていました。理由を聞くと「東尋坊は飛び込んだら死体が浮き上がらないと聞いて来ました。年をとっても子どもたちに迷惑をかけたくない。自分が健康なうちにという思いで岩場に立ちました」と言うんです。去年、5~6人が来ました。 今は、削除されるようになっていますが、インターネットの自殺サイトで「飛び込むと岩に引っかかって浮き上がらない」とかいい加減なことも書いてあり、それを信じて東尋坊へ来てしまう人がいるんです。
 
今年の事例から
1月4日は仕事始めでした。この時期は日没が4時半ごろで、私たちは日没時間を中心として巡回していますが、吹雪の中、岩場の先端にずぶ濡れになった若い女性が、もう飛び込む寸前でした。相談所で聞くと「集中して、どうやって飛び込もうかと…海を見ると怖くて飛び込めなかったので、目をふさいで飛び込むか」とか考えていたとのことでした。先ほどの親子の息子さんからも聞いてみると、やはり頭から飛び込めないんですね。海を背にして後ろ向きに飛び込むんです。 この人は以前に強姦の被害を受けており、以来男性が怖くて夜になると眠れなくて、人との付き合いができない。お母さんに遺書を書いて東尋坊に来たということで、思い切ってお母さんに連絡したら「絶対に目を離さないでくれ、警察に引き渡さないでくれ」ということで、両親が迎えにきてくれました。今後、PTSD(注1)の治療を受けるということでした。
 
電話1本で助かる「いのち」
昨年8月22日、茨城から来た女性がJR西日本の電車に乗っていたんですが、車中の切符確認の時に「東尋坊にはどう行くんですか」と車掌さんに聞いたらしいんです。そこで車掌さんが説明したのですが、その様子から見て「この人は自殺しに来たに違いない」と思い、金沢まで行って地元の警察に「ひょっとして間違っているかもしれないが、1回捜索してみてくれないか」と電話をして、岩場に捜索に行ってみたら、まさしく飛び込む寸前だった。電話1本で助かるんですよ。
 
悩み事の解決法
保護した人の悩み事は大体5つか6つなんです。ですから、その悩み事を解決してあげればいいんです。 多重債務の場合は、「法テラス(注2)」に一緒に行って弁護士さんを紹介するんです。「自己破産ができる」ことは本人もよく知っていますが、心がボロボロになって一緒に歩いて欲しい、一緒に来て欲しいんですよ。そして、書類なんか書くのをお手伝いしてあげるんです。20万円の借金で東尋坊に立った人もおりました。 生活苦は、生活保護の福祉官の家まで一緒に行って、そして確認をする。その人をどこでどうやって保護するのか確認しなければならないんです。 パワー・ハラスメントの場合は職場の上司と直談判します。「このまま放っておくとどうなるか知ってるのか」ということなんです。労災なんです。うつ病にもなって、ならせてしまうことが、場合によっては傷害罪にもなります。私は現職の時に刑事を27年務めていましたが、PTSDのことで検挙したこともあります。血を流すことだけが傷害じゃないんですよ。 家庭内での揉め事は家の中まで行って、1人ひとりに聞いて、家族の中で守らなければならないものは何か、絶対にしてはならない事は何か、その2点についてその場でキチッと整理してやればいいんです。あとは本人たちが判断して行動をとります。そこまで誰かがお節介をやかないと再出発できないと私は思っております。
 
「一緒に歩く」ということ
本人に「ああしろ、こうしろ」なんてもっての外です。死まで考えている人たちを助けるには、一緒に歩いてあげなければならないと思います。私もカウンセリングの勉強もさせてもらいました。「傾聴し共感しなさい」と言われましたが、そんなことで命を守れるはずはないと思っております。同伴してあげなければいけないと思います。悩み事を心の底から傾聴したら「この人は動けない、自分の力ではどうにもならない」と分かり、一緒に歩きたくなるはずなんです。一緒にその問題を解決したくなるはずなんです。で私たちは、2~3時間話を聞きます。そして、その悩み事の解決のお手伝いをさせてもらっているという状況でございます。
 
(注1)PTSD…心的外傷後ストレス精神障害。地震・交通事故・または虐待など、強いストレスの後に起きる精神障害。精神的後遺症。
(注2)法テラス…日本司法支援センター。刑事・民事を問わず、法的トラブルの解決に必要な情報やサービスの提供を受けられる法務省所管の公的な法人。