【人権フォーラム】平成22年度第2回全国人権擁護推進主事研修会報告


2月28日から3月2日の2泊3日の日程で、栃木県小山市内を会場に全国人権擁護推進主事研修会が開催された。昨年12月、新たに人権擁護推進主事が任命されたことを踏まえ、曹洞宗の差別撤廃へ向けた取り組みの原点とも言える、部落差別問題をテーマにカリキュラムが組まれた。
午後1時半、開講式が行われ、開講諷経に続いて主催者を代表して、齋藤裕道人権擁護推進本部次長が挨拶した。次いで、オリエンテーション、宗門の取り組みと現況報告と続き、新たに完成した、2011年度教区人権学習会の人権啓発映像第13作『いのち、つないで~無縁社会から有縁社会へ~』を視聴、制作監督である大岩佐壽氏に、視聴を含め90分に渡りご講演いただいた
その後、7班に分かれて分散会が行われ初日の日程を終了した。
 
2日目は、まず和田献一部落解放同盟栃木県連合会執行委員長に「被差別部落の歴史と現在」と題してご講演いただいた。和田氏は、被差別部落に対して植えつけられた「マイナスイメージ」が部落問題を生む大きな原因であると指摘。
 「私はこれを、『観念の世界で形成された部落問題』と言います。事実ではありません。これが実は大きな問題で、例えば、結婚となるとそのイメージが湧いてくる。あるいは、土地単価10万円の所が、被差別部落の境界線を越えると5万円になる。被差別部落の土地の色が変わっているわけではないんです。このマイナスイメージという観念を克服するためには、事実に出会わなければいけない。事実に基づいてマイナスイメージが克服されていくという作用が重要です」
そして、部落差別問題を引き起こす原因の1つに戸籍制度があり、近年、興信所と一部の悪質な行政書士や司法書士などによる不正戸籍取得事件を例に挙げ、その不備についても言及。
「戸籍を公開原則にしている制度が間違っている。戸籍情報をお金を払えば手に入れられることは『どうぞ差別をしてください』という制度です。戸籍は出生と本籍によって個人を特定するものですが、現在、インターネット上では、この本籍地と出生で被差別部落を特定することが横行しているわけです」
さらに、部落差別問題を考える上で、成立の歴史的経緯も含めて、戸籍制度の再考と、1人戸籍制度の必要性について、「戸籍制度は出生による差別を生み出す制度です。この子は事実婚の子、この人は本籍地が被差別部落、この人は外国籍ということで差別が起こります。差別を基本的になくすためには、出生による差別を禁止しなくてはならない。そこで、個人として尊重されるということで、すべての人が1人戸籍になれば問題は解決するのです」と訴えた。 
また、現代社会における人権侵害の克服について「現代は、力のある者が実力行使をすれば、力のない者は人権侵害にさらされる、力が支配する社会です。親の子どもに対する虐待も力が支配する社会。しかし、子どもの権利条約や児童虐待防止法が介入することによって、これが抑制されるのが人権が機能する社会です。企業と労働者の立場でも『もっと働け』と言われて無理をすれば過労死になります。しかし、この国には労働基準法があります。人権の法があっても、学んで機能させなければ何にもならない。したがって、人権をしっかり掲げて、これを学んで機能させていくことは、人権侵害を抑制させていくためには極めて重要です」と述べた。 
次に、戸田眞部落解放同盟栃木県連合会事務局長から、午後からのフィールド・ワークの事前学習として、小山市近隣の被差別部落の産業と歴史、また、栃木県が実施した部落差別に関する意識調査の集計結果、さらに、同和対策事業の状況の説明を受けた。
昼食をはさみ、4台のバスに分乗して、栃木市・傑岑寺に移動、境内の三界万霊塔の前で、被差別戒名物故者諸精霊追善法要を修行した。引き続き、約2時間半に渡りフィールド・ワークを行い、栃木県連の方がたの説明を受けながら実際に現地を歩き、同和対策事業の状況などを確認した。終了後、各班に栃木県連の方がたにも入っていただいて分散会を行い、さらに学習を深めた。
 
最終日は、「宗門僧侶としての人権啓発のあり方」と題して、篠原鋭一人権啓発相談員にご講演いただいた。篠原師は、人権啓発映像の制作委員会座長を務めたことから、講演の中でこの映像にも触れ、僧侶が果たすべき役割について、次のように強く訴えた。 
 「日本は無縁社会と言われているが、元々、無縁社会だったのか。そうではなくて無縁化してしまった。3万2千人がひっそりと亡くなっているが、その方には両親や兄弟がいて、その存在が分からなかっただけで、無縁ではないはず。この無縁社会をどうするか。答えを持っているのは我われ僧侶です。無縁を有縁化していく。これが、今やるべき人権問題です」
 引き続き全体会が行われ、分散会での議論を集約、各班からの発表があり、正午に全日程を終了した。
 
部落差別問題は、日本における最も根深い差別問題であり、宗門でも「差別戒名」附与という差別に加担した歴史があり、現在でもそれが身元調査に利用されている今日的な問題である。
今回、新たに人権擁護推進主事が任命されて最初の研修会ということで、部落差別問題をテーマに企画したのは、この問題を観念ではなく、事実に触れ、正しく理解する必要があったからである。
今後も、部落差別を始めとするさまざまな差別問題の解消、人権の確立に向けて、宗門として取り組みを進めなければならない。