【人権フォーラム】宗門主催被差別戒名物故者諸精霊追善法要


9月11日、愛知県東海市普濟寺を会場に、宗門主催による被差別戒名物故者諸精霊追善法要が、佐々木孝一宗務総長を導師に厳修された。
被差別戒名物故者諸精霊追善法要は両大本山とは別に、2008(平成20)年度から宗門主催の法要を開催。5回目となる本年は、東海管区役職員人権啓発研修会と併修で執り行われた。
内局をはじめ、東海管区内宗議会議員、宗務所役職員、教化センター役職員、愛知県第3宗務所内教区長・青年会・婦人会、人権啓発相談員など多くの宗門関係者、さらに、来賓として、部落解放同盟中央本部、愛知県連合会、「愛知同宗連」の各代表者など総勢150人での法要となった。
午後2時の打ち出しとともに、両班・後両班(内局・管区長・宗務所長・人権啓発相談員)と位に就き、佐々木宗務総長が七下鐘により上殿、はじめに「供養のことば」を奉読、続いて『修証義』後二章を遶誦し、参列者の焼香が行われた。
法要の後、主催者を代表して佐々木宗務総長から挨拶があった。参列者と会場主へ謝意を述べ、「差別戒名」改正の現況報告。そして「改正への取り組みをきっかけとして、継続的に地域社会で宗門僧侶が差別解消に向けた啓発活動を行うための環境作りを進める所存であり、引き続き、部落差別をはじめ、あらゆる差別解消のために一層の取り組みを重ねてまいりたい」と決意が述べられた。  供養の言葉を奉読する佐々木孝一宗務総長
続いて、会場主の伊藤道宣普濟寺住職より挨拶をいただき、その中で昭和54年の世界宗教者平和会議の席上での差別発言事件に触れ、「昭和54年、町田内局の秘書室長(現人事部長)であった弊師(故・伊藤襄爾師)は、私の結婚式がありアメリカへ同行できなかったことを悔いていた。それ以後、差別を知っているいないではなく、被差別者ではないがゆえに差別者だという立場から糾弾会も望んで出席したと聞いている。この寺の境内や墓地、堂宇のすべてが弊師の手によるが、最後に手がけた法堂で、遷化13年にこの法要が営まれる。弊師をアメリカに行かせなかった私がここで挨拶させていただくこと、この縁の尊さを思うものである。願わくば、弊師の願いが物故者各位に届くことを祈念します」と法要への思いを述べた。
さらに、来賓を代表して組坂繁之部落解放同盟中央執行委員長から「今日、改正率を聞くと90%をはるかに超える取り組みが行われており、皆さまの努力に敬意を表したい。あってはならない差別戒名。この世で残虐な差別と迫害を受け、来世ではなんとか極楽にまいりたいと思い一生懸命にお参りをしてきた私たちの先人たちが、死んでなお差別を受ける。このことがどれほど苦しかっただろうかと思う。曹洞宗さんは差別戒名物故者の追善法要を心を込めて行っていただいており、差別戒名の物故者の霊も、いささかでも慰められているのではないかと思う」と挨拶があり、その後、来賓紹介が行われ散堂となった。
休憩をはさみ、『部落差別をなくすための仕組み創り』と題して、部落解放同盟愛知県連合会加藤賢治氏にご講演いただいた。
加藤氏はまず、2つの差別事件の実例を挙げた。1つ目は、2007(平成19)年1月に発覚した土地差別調査事件。分譲マンションの建設予定に関して、その不動産が利益のとれる状況かどうかを開発業者が広告代理店に調査を依頼。依頼を受けた代理店が調査業者に契約書のない口頭の依頼をした。その調査報告書に、『同和』地区の所在地情報や、人権の町づくりセンターが近くにあるから敬遠される地域などを記載した、差別報告書事件である。確認会で、1960年代から業界の常識となって行われていることが発覚している。  加藤賢治氏

2つ目は、2009(平成21)年10月に発覚した精神障害者への入居差別事件。アパート、マンションの賃貸業者の契約書に『契約者、或いは同居人に精神障害者がいることが分かった場合、なんの催告、手続きを要せずに、直ちに契約を解除し明け渡しの請求をすることができる』という条項が契約書に記載されていた。アパート経営を行う家主からの依頼があり、2007年にわざわざ条項が加えられ、発覚まで、10万件を超える契約書を交わしていたが、それを指摘する社員は1人もいなかった。

この2つの差別事件について「部落差別や障害者差別を許す体質が社会にあり、企業は利益のために差別行為だと分かっていても社会意識に迎合している。つまり、同和地区の近くには住みたくない、精神障害者は何をするか分からないから関わりたくない、という社会の忌避意識に反応した結果」と2つの事件の共通点を指摘した。 
次に、プライム総合法務事務所による戸籍の不正取得事件を例に挙げた。これは2011(平成23)年11月に発覚した、戸籍や住民票を不正取得していた事件である。その取得に当たって自治体への提出が必要な司法書士会が発行している職務上請求書を2万枚以上偽造して、悪用することを繰り返していた。 
 「不正利用を可能にしているのは、現在の制度が大きく関係しています。いわゆる8業種(弁護士、司法書士、行政書士、税理士、海事代理士、土地家屋調査士、社会保険労務士、弁理士)は職務上必要とされる場合は、第三者の戸籍謄本や住民票を仕事の特権として取得できます。しかも、請求事由を身元調査と書くことはあり得ませんので、目的は窓口でも分かりません」と現状を説明した。 
1980年代以降、請求書の様式を1種類に統一し、その用紙には請求者本人名を明記する様式に変更、請求書に通しナンバーを打ち不正が発覚した場合には請求者を特定できる様式に切り替えるなどの対応がなされてきたが、運用の隙間を潜り抜けて悪用されている現状である。しかし、一番の問題は戸籍を取られた本人が、取られたことを知ることができない点にあるという。 
 「個人情報を知る権利だけ守り、知られた事実を保護しない。ですから、自覚なき被害者です。事件の多くの場合は被害者からの訴えで発覚しますが、身元調査の場合はそれができません。依頼者がいるから個人情報を流す闇のビジネスが成り立つわけで、今の状況は、私たち被差別当事者だけではなくて、すべての人が個人情報を不正取得される対象になっているわけです」 
不正取得を防ぐ取り組みについては「不正取得が明らかになった時に、被害者に通知をするべきだということです。現在、愛知県で19市町村が本人に通知する制度を制定しています。さらに、事前に自治体に登録すれば本人に所得された事実を知らせる、これを、事前登録型本人通知制度といい、現在、4市町が採用をしております。不正取得のほとんどが身元調査であることを考えますと、本人通知制度は抑止力になります」と主に2点を中心に進めていることを述べた。 
最後に「身元調査をなくす視点で言えば、戸籍や住民票などの法改正が必要ですし、身元調査を肯定する社会システムが存在する以上、それに迎合するような現象も必ず出てきます。したがって、社会システムを変えて、迎合しても意味のないような制度に変えていかなければいけないと思います。そして、人権に配慮した枠組みづくりを地域社会の中で築きあげるという、人権の町づくりの推進が必要です。昨年12月にあま市で、愛知県で初めての人権を尊重する町づくり条例が制定されましたが、共通の社会規範を作った上で、被差別当事者が抱えている課題を、市民や議会に共有してもらう必要があると考えております」と、差別を支えるシステムの変革と、人権の町づくりの推進の必要性を訴えた。 
講演終了後、伊藤謙允人権擁護推進本部事務局長より閉会挨拶があり、午後4時20分、全日程を終了した。 
 なお、開催にあたり、会場である普濟寺関係者を始め、管区内宗務所役職員、教化センター、愛知県第3宗務所青年会・婦人会の皆さまにご協力いただいたことに厚く御礼を申し上げる次第である。