【人権フォーラム】「差別戒名」改正と「差別図書」回収の現況


1979(昭和54)年「第3回世界宗教者平和会議」での差別発言事件をきっかけに、宗門における部落差別をはじめとするあらゆる差別の解消に向けた取り組みが始められ30年が経過した。特に、糾弾会を通して指摘された、「差別戒名」「差別図書」の存在、「身元調査」への加担の実態、これらへの取り組みは人権擁護推進本部設置以来の最重要課題である。しかし30年を経た現在、残念ながら「差別戒名」「差別図書」について100%の改正・回収には至っていない。

 

「差別戒名」改正について

現在の改正状況は、過去帳改正対象寺院218ヵ寺中207ヵ寺改正済、改正率95.0%、墓石改正対象寺院145ヵ寺中133ヵ寺改正済、改正率91.7%(未改正寺院数は別表の通り)である。

調査から、さまざまなケースが明らかになっている。まず、寺院と被差別部落との関係性の希薄さで、実際に住職自身が調査で初めて檀信徒宅へうかがったという現実もあった。 

また、墓地の形態については共同墓地、同族墓地がほとんどだが、山の斜面、竹藪の中という事例もあり、墓地の立地条件自体が差別的であるケース。さらに、宗門における直接的「差別戒名」は1947(昭和22)年まで付与されていたことが確認されており、調査段階まで被差別部落のみを別冊に記載した過去帳が使用されていたケースもあった。

反対に、差別事象のある過去帳を世代ごとに調査すると「差別戒名」を付与しなかった住職もおり、「封建時代だから当時はしょうがなかった」という問題ではなく、どのような状況にあっても、差別側に立つのか被差別側に立つのかが問われているのである。

過去帳の改正は寺院住職の責任において果たされる事柄だが「多忙である」「現在使っていないから良いのではないか」など、いまだに理解いただけない状況もある。

墓石については、当該檀信徒、関係者の深いご理解とご協力が不可欠であり、現時点で改正にいたらない状況としては、当該檀信徒が転檀・改宗をしているケース。また、檀信徒が「永年お参りしてきた大切なお墓なので、そのままにしておいてほしい」、これ以上差別を受けたくないという意味での「寝た子を起こさないで欲しい」というような状況等も実際に見られる。したがって、改正には、実際に何度も足を運び人間関係を構築し、ご理解をいただいた上で改正を進めている。

「差別戒名」は仏教に帰依した「仏弟子」に授けられるべき戒名とは言えず、「差別戒名」をそのままにしておくことは、一仏両祖の教えに背くことであり、僧侶としての社会的責任を放棄することに他ならない。今後も、完全改正を目指して、さまざまな状況に即した粘り強い督励を継続していく所存である。

 

「差別図書」回収について 

現在、人権擁護推進本部では、「差別図書」として以下の4種類を回収対象としている。

『禅門曹洞法語全集・坤』は、道元禅師や瑩山禅師をはじめとする各祖師方の名が著されている書籍だが、この中に「差別戒名」の付け方の手引き書である『禅門小僧訓』が収録されている。『禅門小僧訓』は、無住道人という人が著したとされ、「餌取―穢多之事」という項目で、一般の檀信徒と比べて被差別部落の檀信徒をはっきりと差別した戒名を付与するよう書かれている。

『洞上室内切紙参話研究並秘録』は、僧侶が師から弟子へ代々伝える「切紙」と「参話」をまとめ、解説を加えたものであるが、その中の「非人癩病狂死者引導法並符」と「非人引導因縁」と題する個所では、被差別部落の人びとや、ハンセン病者、障がいのある人びとに対して一般の人と比べて差別した方法で儀礼を行うよう指導しており、「留穢之大事」と題する個所において、性差別に関する表記が認められる。

また、『曹洞宗全書・拾遺』についても「非人癩狂病死引導文並符」という個所で「悪しき業論」に根ざした考え方の「切紙」を収録、差別儀礼を修行するよう指導しているが、この図書にはそれにとどまらない問題点も多く内在している。

『曹洞宗修証義説教大全』は、明治期の『宗報』第71号(1899〈明治33〉年)から第126号(1902〈明治35〉年)まで連載の『修証義』に関する説教を1冊にまとめたものであるが、部落差別だけでなく、身分、職業、性、民族差別などを助長するような説教が収録されていた。

回収率は別表の通りだが、いまだ完全回収には至っておらず、特に、『洞上室内切紙参話研究並秘録』は、刊行冊数の半分強しか回収されていない。

これらの書籍をそのまま放置しておくことは、差別を放置することである。「持っているだけなら差別にならないのではないか」「貴重なものだから取っておきたい」という考えは、差別の再生産に繋がる可能性がある。

回収本のうち『曹洞宗修証義説教大全』以外の3冊については、当該書籍に注意書きや解説を付けた『補訂復刻本』を交換本としてお送りしている。これは、「差別図書」ではあるが、曹洞宗の貴重な史料が含まれていることや、差別の歴史を隠ぺいせずに、二度と差別に繋がらないよう配慮の上、差別解消のための教材とするために交換本という方法をとっているのである。

宗門ではこれまで、本誌上や研修会等で「差別図書」回収のお願いを呼びかけてきたが、今一度、書庫等を点検いただき、見つかった場合は、人権擁護推進本部までお送りいただきたい。