【人権フォーラム】断絶から再結合へ 朝鮮出身者の無縁遺骨の現在と展望


「無縁」に留め置かれている遺骨

安石枯さんの遺骨

東北地方の宗門寺院には、日本名「安田石枯」(本名は安石枯)さんのご遺骨が、70年以上も遺族や故郷に帰れないままで安置されている(NHKクローズアップ現代「なぜ返還されなかったのか~遺骨をめぐる日韓外交史~」2007年8月23日放送でも公開)。

本宗調査で確認された個別性を保っている遺骨(骨箱・骨壷保管)の中でも、詳細な身元や韓国内の遺族が判明している稀有な遺骨でもある。

しかし、この安さんの遺骨はいまだに遺族にも故郷にも戻れないでいる。「無縁」に留め置かれている遺骨だ。

どうしてこのような状態にあるのだろうか?

返還は本当に困難なことなのか?

最近の東アジアとの関係性とりわけ近代日本の「歴史認識」等をめぐる問題の影響なのであろうか、「遺骨返還も困難になったでしょう」とよく聞かれる。

だが、これは問題のすり替えまたは怠惰な言い訳にすぎないと曹洞宗は考えている。そもそも日本の寺院や墓地に眠っている朝鮮出身者の無縁遺骨の返還は、仏教界や寺院が無理矢理に陳情している事業でもなければ、日韓・韓日政府の事務方が勇み足で始めてしまったことでもない。

2004年末の鹿児島県指宿市における小泉純一郎首相と盧武鉉大統領のあいだの合意が始まりである。

本宗を含め、無縁遺骨調査は遺骨の存在が確認されていない死亡者情報の痕跡も含めて、その実績は相当蓄積されているはずだ。再調査を要する一部のケースを除いて、遺族が判明している数少ない事例もある。調査途中だから返還にいたらないという理由は当たらない。

要は、日韓両政府が実行を決断して、遺族や故郷への返還のために寺院が差し出している遺骨と御霊を真心を込めて返還すればいいのである。

ところが、両政府は「歴史認識」とか領有権問題を利用した「国家の威信」などの果てしない戯論にかまけ、「人道問題」として遺骨返還に協力するとした原点を忘れているのである。

遺骨返還を難しくしているのは、無縁遺骨当体でもなく、宗派・教団の協力不足でもなく、依頼主である国家・政府自体である。

国家や植民地支配等の歴史によってつくられてしまった無縁遺骨が、またもや国家の論理によって、返還の路が塞がれているのである。

歴史認識問題と無縁遺骨

このようなことを書くと、曹洞宗は過去の植民地支配や歴史認識を軽視したままで、遺骨返還をしようとするのか! という叱正が宗内外から返ってくるかもしれない。

当初、私たちは1992年の「懺謝文」の精神に則った歴史の再認識と、謝罪と和解の取り組みにするつもりでいたし、今でもその原則は間違っているとは思わない。

ただし、現在私たちが直面している宗門寺院・墓地にある無縁遺骨の実態は、前述のとおり、遺族の存在どころか、詳細な身元すら判明していない遺骨(中には名前記載すらない)なのである。いわゆる徴用や強制動員で使役されたのかどうかも確認できない遺骨が大部分を占めている。

遺族や係累の親族があれば、関係企業や政府の謝罪やなんらかの補償もありうるかもしれない。しかし、私たちがお会いした遺骨のほとんどは、謝罪も補償も受けられない、遺族にすらたどりつかない御霊である。

これは敗戦後60年以上の時間の経過もさることながら、歴史によって忘れ去られ無縁化しようとしている遺骨なのだ。

何ができるのか

2004年末の日韓首脳会談によってスタートした「朝鮮半島出身の旧民間徴用者等の遺骨」返還に向けた調査事業は、東アジアの政治情勢の緊張に加え、韓国政府の専門委員会の今年末閉鎖によって、停滞どころか頓挫の危機に遭遇している。

宗門寺院のご理解と全面的なご協力によって、予想以上に順調に積み上げてきた本宗の「東アジア出身の強制徴用者等の遺骨の所在および関連情報についての調査」が、政府の約束不履行で雲散霧消してしまうのであろうか?

遺骨の御霊の尊厳に鑑み、そんな不敬と怠慢を許してはなるまい。

私たちは、この調査事業に着手する際に、今日のかかる困難な状況を予想して、「日本政府の方針と関係国との政治関係および民族ナショナリズムの動向にかかわりなく‥‥最大限の敬意をもって、遺族の意向に従って遺骨を奉還する」との基本原則を立てている。日韓両政府が本事業を停滞させ放擲しても最後まで、遺骨のみ霊と遺族とご遺骨を安置してこられた寺院の真心に報いるべくその出口を自ら開くつもりだ。

朝鮮出身者の無縁遺骨についてさまざまな反応や考え方があることは承知しているし、本宗の方針について疑義を呈する僧侶もいるかもしれない。しかし、遺骨のみ霊の第三者である私たちが、遺骨をどうあつかうかを指図するなどは、傲慢というものである。政治的に遺骨問題を利用などせず、み霊と、遺族と、遺骨を預かってきた寺院の当事者に判断を委ねるべきだと考える。

本宗が無縁遺骨をお預かりできないか

北海道発掘遺骨

私たちは、無縁遺骨をめぐる日韓間の動向を無為無策で座視しているわけではない。

当初の趣旨どおり、無縁遺骨のすべてが日韓両政府の責任において、遺族と故郷にお帰りいただくのがもっとも望ましい。しかし、そのような進展が期待できないのであれば、民間・宗教間での返還の可能性も模索している。しかしながら、拙速な返還ではかえって無縁遺骨が政治問題を惹起しかねないし、韓国・朝鮮の宗教感情にも留意するなどの難題もある。

そこで私たちは、長い目でこの遺骨返還を見直し、本宗の無縁遺骨調査で判明した30数ヶ寺、100数十体のご遺骨を、詳細な身元情報も含め、本宗がお預かりし、来るべき政府返還に備えるというものである。すでに半数弱の関係の寺院を訪問し、大方のご理解ご賛同をいただいている。

すべては遺骨のみ霊と遺族と安置いただいている寺院のために微力をつくしたいと願うことしきりである。

 (人権擁護推進本部)