【人権フォーラム】職権による過去帳等記録の開示請求が増加


職権による過去帳等記録の開示請求が最近増加しています
迷わず「閲覧も開示もできません」とお断りください

 

職権による情報開示請求とは

それぞれの寺院では、寺院「過去帳」および檀信徒名簿等の「現在帳」を作成し、適正に管理されていることと思います。

本宗の人権擁護の取り組みの原点である「身元調査お断り」運動と寺院「過去帳」等の閲覧・開示禁止を厳格にお守りいただいていることに感謝いたします。

檀信徒が、宗教・信仰上の必要から、戒名等の記録を確認されることはまったく問題はありません。ただし、たとえ檀信徒といえども、供養とは関係のない先祖調べや家系図作成などの目的で、寺院「過去帳」等の情報の開示を求められても、本来の使用目的とは異なるため、応じるべきではありません。

最近、寺院「過去帳」等の情報開示について、新たな動向が確認されました。

それは、「職権による情報開示請求」が増加しつつあるということです。

檀信徒などの当事者が、寺院「過去帳」等の記録情報の開示を求めるというケースとは異なり、ある一定の公的資格や職権を有する第三者や公務員、官公庁が、職務上の必要から「寺院『過去帳』を閲覧・記録させてほしい」とか「檀信徒名簿の一部の情報を開示しなさい」というケースがあります。

たとえ職権・職務上での開示請求であったとしても、通常はこれに応じる義務はありません。

 しかしながら、「相手が相手だけに断りにくい」とか「断ったら何らかの不利益を被るのではないか」または「開示を拒否するだけの根拠がない」などの悩みや不安をお持ちの寺院関係者もいらっしゃいますので、実際にあったケースをもとに事例集を作ってみました。

 

ケース1 税務署職員による請求

税務署の調査官が、宗教法人の納税申告が適正に行なわれているかを調べに来る場合があります。

その際に、「葬儀、法事等の布施収入を確認したいので、寺院『過去帳』を閲覧させなさい」という請求があったとします。

寺院はあわてて求められるがままに、寺院「過去帳」等の証憑書類を見せる必要はありません。

まず第一に確認いただきたいことは、通常の税務調査は任意調査であり、素直に応じなければ即不利益を被るということはありません。強制力をもった調査は、国税当局による査察税務調査と呼ばれるものです。この種の調査は、税務署ではなく、所轄裁判所発行の令状によって実施されますが、よほど悪質な嫌疑や証拠がないかぎり、発動されません。

第二の対応として、「過去帳とはどういう書類かご存知ですか?」と逆に質問してみましょう。税務調査官は、寺院「過去帳」には、葬儀・法事等の布施収入を含む当該寺院の「過去」のあらゆることがらが書き込まれている万能の「帳」面だと勘違いしていることが多いのです。寺院「過去帳」には、葬儀が執行された檀信徒等の戒名・死亡日・俗名・施主続柄等は記録されていますが、布施の具体的な情報が載っていることはありません。ですから、税務調査官が知りたい布施収入の詳細は寺院「過去帳」からは直接知ることはできないことをはっきりと伝えるべきです。

ただし、布施等の収入が、会計簿や決算報告等で適正に処理されていない場合には、寺院「過去帳」等の記録によって、葬儀等の件数等を調査することはあるかもしれません。

しかし、寺院「過去帳」原本を直に閲覧させるべきではありません。なぜならば、税務調査とは直接関係のない檀信徒の個人情報を無制限に第三者の目にさらすことは、逆に秘密漏洩の罪に当たるおそれがあるのです。

税務調査官には、必要な情報を限定させ、税務調査に適正な範囲内で必要事項のみを抜き出して知らせればいいのです。それにもかかわらず、かなり強硬に寺院「過去帳」等の記録情報の開示を迫る場合には、書面による開示請求をするように反対に求めてみましょう。

ご心配の節は、遠慮なく曹洞宗宗務庁に問い合わせてみてください。

 

 

ケース2 行政書士等による請求

全国新聞には、しばしば「貴家代々の家系図をお作りするまたとない機会 毛筆家系図」というような全面広告が掲載されています。

発注者からの依頼によって、「あなたにかわって職権を有する行政書士が戸籍謄本や除籍簿の収集・調査を行い」、これらによっても判明しない場合には、菩提寺にある寺院「過去帳」等の情報の開示が求められる場合があります。

行政書士等による職権とはいえ、純粋に公共的な目的での調査というよりは、発注者が先祖や家系を知りたいという私的な目的での開示請求ですので、基本的に応じる必要はありません。

このような依頼があった際には、まず発注者が寺院の檀信徒なのかどうか確認しましょう。縁戚関係はあっても、直接の寺檀関係がないのであれば、第三者に檀信徒の個人情報を無断で漏洩することになります。

たとえ発注者との間に寺檀関係が存在しても、施主家の先祖探しや家系図作成等の世俗的目的のために、寺院「過去帳」等の情報を開示する義務はありません。

もし、その寺院の直接の檀信徒であれば開示可能ということであれば、たとえば被差別部落出身ではない証明に寺院が加担をすることに正当性を認めることになります。

発注者側の「先祖を知りたい」とか「家系図を作りたい」等の願いそのものを否定することはできませんが、守秘義務と個人情報保護の遵守が課せられている宗教法人が、かつての興信所や探偵社のような業務の一端を請け負うべきではありません。

ただし、寺院に開示請求をしてくる行政書士等は、その道のプロですので、巧妙な口実を駆使して、住職の誠意や善意に訴えてきます。

新聞広告だけではなく、インターネットのホームページ上で、行政書士自らが家系図作成サイトを運営しているケースも少なくありません。

その中では「人権問題や個人情報に関わることから、教団本部から『過去帳』閲覧に応じないように指示が出されている宗派もあり、最近ではお寺さん自体が見せることを拒否されるケースが増えてきています。」と断りながら、誠意をもってお願いすれば「思った以上にあっさり閲覧に応じて頂ける場合も珍しいことではありません」とあり、宗門としては非常に憂うべき実態を報告しています。

最終的には開示請求を受けた寺院の判断になりますが、宗教・信仰目的外の利用は丁重にお断りするというのが基本です。

 

ケース3 捜査関係者からの請求

最近、私どもが把握した非常に稀なケースを紹介しましょう。

警察署の捜査関係者が、ある宗門寺院を訪問して次のような開示請求をしたという事例です。

「ある刑事事件の捜査の一環で、町内近隣のお寺の寺院『過去帳』を見せていただきたい」という申し入れがあったというご報告を、寺院住職から当本部までいただきました。

税務署等からの寺院「過去帳」の問い合わせや、開示請求という事例は今まで沢山ありましたが、警察署からの閲覧の求めということは初めてです。当方としては、にわかに信じられないケースですので、警察官を名のる方に電話をかわってもらいました。氏名・身分と請求趣旨等を確認したうえで、警察署から直接、当本部まで電話と調査趣旨を記したファックスをお願いしました。当方から、警察署の正規の電話番号に連絡を入れ、次のような会話になりました。

「ある犯罪に関係した人物が、この町内での葬儀・法事に出ていたらしいという情報がある。ついては、このお寺でその様な法要があったかどうかを過去帳で知りたいのです」という趣旨でした。

それに対して、当本部から逆に次のような質問を投げかけてみました。

「寺院『過去帳』の現物をご覧になったことはありますか?」

警察官は当然そんな経験はありませんから、「ありません」という回答が返ってきました。

そこで、当本部からは「寺院『過去帳』は閲覧も開示も原則禁止ですし、警察が欲しい情報は、過去帳自体にはありませんので、開示する理由もありません」と、応対しました。

ただし、寺院「過去帳」へのアクセスは駄目だとしても、犯罪捜査を拒むことは適切ではありませんので、当該関係者の了解のうえで、可能なかぎり協力することになりました。

このように寺院「過去帳」の開示請求する相手の目的と入手したい情報の仔細を確認することによって、本来は必要のない情報開示をしなくても済むことがあります。

曹洞宗の「身元調査お断り」運動と寺院「過去帳」閲覧・開示禁止の取り組みは、ただ単に教団の方針としてそうしているのではありません。

1982(昭和57)年11月17日付の法務省人権擁護局長名による「過去帳等の取扱いについて(要請)」という通達によるものです。

この通達では、一部寺院で過去帳等が結婚や就職に際しての身元調査として利用されている現状を指摘し、「我々人権擁護機関としても……重大な関心を持っているところであります」とされています。そして、「過去帳等が身元調査に利用されることがないようその適正な取扱い」徹底を、全日本仏教会理事長を通して加盟教団・寺院に要請しています。

(人権擁護推進本部記)

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