【人権フォーラム】 ハンセン病に対する差別や偏見をなくすために~「らい予防法」の廃止から20年~


 

はじめに

国の隔離政策の根拠となった、「らい予防法」の廃止から今年で20年になります。

今回は、ハンセン病差別について、また、現状の課題や仏教者が加担してきた過ちなどについて改めて考えたいと思います。

 

ハンセン病とは

ハンセン病は、「らい菌」という細菌によって起こる慢性感染症の一つです。1873年に「らい菌」を発見したアルマウェル・ハンセン博士の名前をとって、現在ではハンセン病といいますが、かつては「らい(癩)病」または「らい」と呼ばれていました。らい菌は純粋培養ができない微弱な菌であり、例え感染しても、発病するのはごく稀です。事実、現在日本においてハンセン病を発病する人はほとんどいません。たとえ新患と診断された場合でも、早期に発見し適切に治療すれば、後遺症もなく治る病気です。

ですから、これまで療養所で働いてきた職員が感染したことはありません。感染し発病する要因としては、よほど身体の抵抗力が落ちている場合、戦争や飢餓状態などで栄養、衛生状態が非常に悪いなどの社会的環境が大きく起因しています。

また、療養所に入所されている方々も完治しているのが現状であり、当時の日本においても隔離する必要性があったわけではありません。

 

ハンセン病に対する偏見

この病気の治療法が分からなかった時代には、「不治の病」「遺伝病」として恐れられ、なおかつ「らい病」「らい」という病名に対し、「恐ろしい」「忌まわしい」というイメージがつきまといました。

国の隔離政策は、法律第十一号「癩予防ニ関スル件」(1970年)に始まり、全国に5ヵ所の療養所を設け、寺社仏閣などに浮浪する者のうちハンセン病患者のみ収容をはじめ、さらに「コレラなみの恐ろしい伝染病」であると国民に宣伝して世論を巻き込んでいきました。

「癩予防法」(1931年)そして「らい予防法」(1953年)へと法律が強化されたことにより、在宅の患者を含む全患者を療養所に隔離収容し、一人たりとも残さないという「無癩県運動」が全国で行われました。市民は無批判に加担・協力し、患者を見つけ次第、警察や保健所に密告していったのです。

また、収容する際には家の周りに荒縄を張り巡らし、家屋に土足で踏み込んで、患者がいた場所、触った物、通った道、子どもがいれば学校なども、「真っ白になるくらいに」消毒されたため、その光景を目にした人々、伝え聞いた人々に、「恐ろしい伝染病」という偏見がより強く定着してしまいました。

こうした隔離政策が、ハンセン病やかつて患者であった人々への偏見や差別を助長し、現在においてもなお払拭されていない現状にあります。

 

仏教とハンセン病差別

近世、江戸中期以降に寺請制度によって宗教統制がなされると、仏教各宗は民衆教化に進みはじめます。そこでは難解な仏教教理や思想を用いず、『善悪因果経』や『因果和讃』による易しい解りやすい差別的な「業論」を展開していったのです。

人となり癩を病むは、三寶を破壊する中より来る。……

(『善悪因果経』)

悪病業病煩うは、三寶やぶりし大罪よ。……  (『因果和讃』)

 

『善悪因果経』や『因果和讃』はハンセン病のことを三寶を破壊する極悪人の末路として捉えています。転じて民衆にとってハンセン病とは「現世」の良い行い次第では、その「難から逃れられる」ことを示唆するものだったのです。

ハンセン病の原因や治療法が分からなかった時代に「ハンセン病になったのは、過去の悪しき行為の報いに対する罰」という意味で、当時ハンセン病は「業病(ごうびょう)」や天の裁きによってかかる、「天刑病(てんけいびょう)」などとよばれ、仏教において「業罰」の恐怖とハンセン病に対する差別意識を定着させてきました。

曹洞宗において「差別図書」として回収本となっている『洞上室内切紙参話研究並秘録』は、僧侶が師から代々伝える「切紙」をまとめたものですが、その一つ「非人癩病狂死者引導法並符」の中に、

「其ノ屍(しかばね)ヲ導師ノ風上ニ置クベカラズ」とあり、その遺体を「穢れたもの」として見ています。これは、部落差別をはじめハンセン病患者や障がい者差別を助長するもので、「癩病」や「不具者」を持ち出し、「一般」と異なった葬送儀礼をせよと指示し、「業罰」の恐怖とハンセン病に対する差別意識を定着させたのです。

この切紙は、ハンセン病患者等に「汝元来不生不滅、無父無母無兄弟、此土身去再不来、輪廻顚倒直断絶」とハンセン病の病気の原因を「業報」や「因果」によるものと断定し、この世の一切の者と縁を絶ち、二度と生まれてきてはならない、輪廻さえも許さずと、極めて差別的な絶滅・断絶思想をも伝承してきたのです。

また、1953年に曹洞宗の僧侶が著した『家庭訓』という本にも極めて差別的な箇所があります。

―さらに厳重に血統をまもらなければならぬうえからは、精神病、癩病、悪質の伝染病等に注意し、不純な血を警戒し防止せねばならぬ」

ここでは「血統」を重んじ、不純な血を警戒防止しなさいと、従来の仏教で「業病」とされたハンセン病をはじめ精神的疾患者を排除するという考えが記されています。

「不治の病」「恐ろしい伝染病」であるという意識を人びとに植え付けた背景には、仏教の間違った解釈・理解があり、「らい予防法」をめぐる歴史に大きな影響を与えたことは否めないのです。

 

宗門の取り組み

曹洞宗では、その事実を深く受け止め、これまでの重大な過ちを率直に認めて、2001年6月の第86回通常宗議会において「ハンセン病患者及び元患者とその家族及び親族に対する謝罪と人権回復のための啓発活動に尽力することの決議」を採択し、宗門を挙げてこの問題に取り組むことにいたしました。

ハンセン病の正しい理解と、過去の歴史から仏教とハンセン病の関わりについて学び、後世に教訓として歴史を残し、同じ過ちを繰り返さないためにも、自らの差別解消の誓いとして、地域社会に広めていくこと、ひいては、現存する「ハンセン病差別」をなくしていく行動として、全国の国立療養所13ヵ所を公式に訪ね、謝罪と追悼のために物故者の追善法要を修行させていただき(2001年8月~2004年3月)、研修などを通してハンセン病差別解消につながるよう取り組みを行ってきました。

現在でも、東海管区の宗侶を中心とした曹洞宗駿河親睦会の活動や、熊本県管内宗務所による継続的な支援など、療養所入所者との交流が各地で重ねられています。

1996年にようやく「らい予防法」が廃止され、違憲国家賠償請求訴訟が提起されました。また、2001年熊本地裁で原告勝訴の判決が下され、国は早期に全面解決する必要があると判断し、原告の主張を受け入れ控訴をせず、「ハンセン病補償法」が制定施行されました。さらに2009年には今後のハンセン病政策の指針となる「ハンセン病問題の解決の促進に関する法律」が施行され、療養所の周辺住民とも広く交流が図られています。

しかし、かつてハンセン病患者であった方たちは「人間回復」を基軸に提訴された裁判を勝ち取ったにもかかわらず、名誉の回復は未だ不十分であるのが現状です。いったい何がそのようにさせているのでしょうか。それは90年という長きにわたる「らい予防法」がその要因の一つであることは明らかです。それだけに止まらず、ハンセン病患者の方々を排除し、社会に恐怖をかき立てるような間違った教えを広め、曹洞宗はじめ仏教教団が加担してきたことを至心に懺悔しなくてはなりません。仏教が「救済」を説いてきたのも、前世の悪業の罰を認めるという前提があるのです。

 

絶たれた家族との絆

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平沢保治さん

本年7月17日、東京都東村山市の国立ハンセン病資料館にて「平沢保治さんのお話し会」が行われました。平沢さんは、隣接する多磨全生園に14歳で入所し、今も療養所で暮らし、資料館の「語り部」として、団体で研修に来た学生や一般の方など年間7000人以上を対象に講演をしています。隔離政策に翻弄された自らの人生、療養所での戦中戦後の過酷な日常を紹介すると同時に、今日もある厳しい差別の現実について語りかけています。

「私は茨城県の出身です。知事から県のいばらき大使を任ぜられました。しかし、8年前までは生まれ故郷での講演は避けていましたが、80歳を超えるとどうしても故郷が恋しい。ある時、地元の市長の働きかけで72年ぶりに母校の小学校を訪れて講演をさせてもらった。この模様はテレビで全国放映された。でも、母校で講演しても実家にはいまだに行くことができない。親の墓参りさえ『昼間にはするな』と言われ続けている。これを糺(ただ)すには私の身内、平沢家と闘わなくてはならない。ところがこれができない。ですから、母校は私の実家であり、校長先生や生徒が私の肉親なのです。一年に一度、帰れる故郷はここだけです。これが現実なのです。」

社会との関わりだけでなく、家族との絆まで絶たれた理不尽さが胸を突くお話です。

 

 

私たちにできること

全国に14ある国立(うち私立1ヵ所)のハンセン病療養所の入所者は戦前は13000人だったと言われていますが、2016年5月1日現在では1584人です。平均年齢が84歳を超え、高齢化もあり介護サービスの充実が求められています。

私たちは、入所者とその家族が再会できるような社会を実現させるために、ハンセン病とはどのような病気なのか、過去にどのようなことがなされてきたのか、仏教者はどのようなことをしてきたのかを正しく後世に伝え、二度とこのような間違いがおきないように広く呼びかけ、差別解消に繋げていく必要があることを決して忘れてはなりません。

(人権擁護推進本部記)

【参考文献】

『ハンセン病の差別や偏見をなくすために』曹洞宗人権擁護推進本部

 

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