【人権フォーラム】寺院「過去帳」等記録情報の取り扱いについての事例報告


これまでも当連載のなかで、宗門における人権問題にかかわる原則的課題として、「過去帳」「檀信徒名簿」等の記録情報の厳重な管理と運用についてお願いしてまいりました。

この人権啓発の取り組みとして、昨年度は「身元調査お断り」プレート、小冊子「『過去帳』等の管理の徹底を」、「過去帳」等管理の基本原則を周知するための下敷きを制作し、全寺院に配布いたしました。また、小冊子を用いて教区人権学習会の開催を依頼し、さらに、今年度も教区人権学習会において、曹洞宗人権啓発映像第18作「『過去帳と人権』―情報管理の徹底を―」を視聴いただき、意見交換を通して認識を深め、「過去帳」等の情報管理の徹底を呼びかけております。(本誌4月号「人権フォーラム」参照)

今回も、「過去帳」等の記録情報の適切な扱いを学ぶことを目的に、最近の事例をご報告申し上げます。

 

一、寺院「過去帳」開示事例 ―博物館発行書籍から―

昨年5月、人権擁護推進本部(以下、人権本部)へ「過去帳」の開示について、住職より相談がありました。

「寺の『過去帳』情報が外に出てしまった可能性がある。十数年前になるが、某教科書会社が『過去帳』の開示と利用を求めてきたことがあった。結果的には断ったが、一般には知られていないはずの『過去帳』の内容をなぜ知ったのかを会社に尋ねると、そのときは『博物館発行の書籍で知った』という回答であった。このたびの教区人権学習で『過去帳』開示の問題点を認識できたので、まずは当方から『過去帳』が掲載された書籍の所在を博物館に照会してみる」との報告でした。

同日、住職より再度連絡があり『某県立博物館総合案内』という書籍が寺から発見され、「過去帳」の写真が掲載されていることが明らかになりました。また、博物館に問い合わせたところ書籍は絶版であり、展示パネルの所在は不明でしたが、写真原版は後日寺院へ返却されたとのことでした。

1987(昭和62)年に、某県立博物館が当該寺院「過去帳」の写真パネルを展示し、図録に掲載していたことを確認しました。

しかし、曹洞宗では既に「閲覧禁止」であるはずの「過去帳」の写真図版が、どのような経緯と手続きによって展示・掲載されたのかについては現住職も記憶しておらず、先代からの申し送りもなかったということです。

以上の報告を受けた人権本部では、博物館や当該寺院住職への聞き取りを行いました。調査過程で明らかになったのは、この「過去帳」情報は1987(昭和62)年某博物館発行の図録掲載、および実際の常設展示が初出ではないこと。その典拠としては「県史」や「郷土史」が複数存在し、さらに原典とも考えられる「論文」があるということです。

その原典とは、1960(昭和35)年に地元の郷土史研究者から発表された、天保の大飢饉の惨状を伝える「論文」です。当該寺院「過去帳」にある天保年間の戒名の一つに注視し、「この戒名を書いた和尚さんは、あまりにも数多くの人々が死んで行く様相を眼前にし、来世は豊かな時節に生まれて来いよ」と餓死者への無念をあらわすものだ、と推定的に紹介されていたのです。

当時、どのような経緯で情報提供されたのかは今となっては不明ですが、「過去帳」の開示があったことは、宗門の取り組み方針に抵触する行為であることは否定できません。しかしながら、当住職が、教区人権学習会を契機として、あえて過去の事象を問題提起したことは不幸中の幸いといえます。

今日なお、地方郷土史等の歴史調査などにおいて、「過去帳」等の開示・展示・公開禁止の原則がいまだに周知されていないことを重く受け止め、可能な場面と機会をとらえて、この原則の伝達と説明を継続していきます。

 

二、寺院「過去帳」開示事例 ―教育委員会ホームページから―

次の事例は、県の教育委員会が文化財を紹介する目的で、同会のホームページに歴史的人物の戒名が記された「過去帳」を掲載したものです。

当本部員が参考のため、仏教寺院における「過去帳」画像を検索していたところ、偶然、気になる情報を見つけました。

この情報源を調べてみると、宗門寺院の「過去帳」と思われる画像がインターネット上に公開され、不特定多数の人が常時閲覧できる状態にありました。江戸時代の著名な浮世絵師の戒名を記した「過去帳」が、県の有形文化財に指定され、当該戒名を含めた見開きのカラー写真が掲載されていたのです。画像では細部までは判明しませんが、複数の戒名の隣に俗名・享年などが書き込まれていることは確認できます。一般的には「過去帳」の体裁をとっている文書に違いありません。紹介されている文化財の所有者は、たしかに宗門に所属している寺院です。なぜ当該寺院が「過去帳」と思われる帳簿を教育委員会に開示し、文化財登録がなされ、ネット上に公開されたのか経緯は分かりませんが、明らかに「閲覧禁止」の原則に矛盾します。

早速、聞き取り調査を行い判明したことは、次のとおりです。

一、住職は、当該寺院「過去帳」が県教育委員会のホームページに画像公開されている事実は一切知らず、また、掲載の許可を与えたこともない。(当該住職より委員会へ申告し、画像削除)

二、先代住職のときに、当該寺院「過去帳」が、1981(昭和56)年8月に町の文化財登録指定がされ、その後、県の指定を受けた。以前の無住の時代に、寺院運営を含め「過去帳」の管理を総代が行っていたようだ。

三、当該寺院「過去帳」画像情報が、某浮世絵師「記念館」に常設展示されていた。(当該住職より記念館へ申告し、撤去)

四、当該寺院「過去帳」の複写写真を、「某町史」「某県の文化財史」の2冊中に確認した。(双方とも絶版)

その後、人権本部がこの記念館や教育委員会などを訪問し、「過去帳」等の管理の基本原則を説明してはじめて、問題の所在が展示者側に認識されました。

先の「某博物館発行書籍」事例と同様、現物写真掲載の妥当性について議論の余地は残りますが、人権擁護上の問題やプライバシー保護などは、十分に尊重されているとは思えません。このことからも、私たちの「過去帳」等の情報管理が重要になります。

「過去帳」は単なる古文書記録ではなく、あくまで供養のための精霊簿です。閲覧展示に供すること自体、宗教的に見ても大いに問題があります。

この事例の課題は、「過去帳」管理の原則を知らないこと。無住の時代に総代に「過去帳」が預けられていたこと。さらに、教育委員会などの公共機関の依頼に応え「過去帳」情報を提供したことです。

ここで、「あの指示要望以前の『過去帳』開示は問題にはならないでしょう」、「昔の住職は知るはずもない」という疑問もあるかも知れません。

確かに、宗門で部落差別等に関わる身元調査の問題から、全国の寺院住職に向け、過去帳の閲覧・開示禁止の指示要望を発表したのは1981(昭和56)年12月です。しかし「指示要望」(1981年)以前であっても守秘義務・プライバシー保護は寺院として当然の務めです。

現代に生きている私たち僧侶は、宗門や寺院を含めた社会の歴史的・文化的継承者です。その意味で過去の事象と未来の行動とは全く関係がない、責任もないということはあり得ません。繰り返しとなりますが、私たちには、過去と未来に対する責任があると考えます。過去の責任とは、曹洞宗教団・僧侶が行ってきた数々の差別の事実に正面から向き合うことであり、未来に対する責任とは、これらを曖昧にすることなく、次の世代に継承することではないでしょうか。

それぞれの寺院住職の能動的な取り組みは、仏教を継承する宗教者として、「万に一つでも差別や人権侵害には加担しない」という、姿勢の表れといえます。

 

三、『過去帳』は準備書類なのか。 ―税務調査に際して―

最後に紹介するのは、先の「過去帳」開示事例とは異なります。

人権本部への相談件数として最も多いのは、宗教法人への税務調査の際に「過去帳」の開示請求です。しかし、今回は多少様子が違いました。

昨年10月にある人権啓発相談員から「税務署からの寺院に対する税務調査に際し、事前に準備書類の用意が求められた。この通知書に『過去帳』が含まれている」という趣旨の情報提供がありました。

早速、当該の書面を確認したところ「源泉所得税関係準備書類」の標題において、8項目の指示があったのです。

一、寺院のパンフレットなど(概況のわかるもの)

二、諸規程集

三、給与台帳、各種年末調整関係書類

四、法定調書合計表、支払調書、源泉徴収票(各控)

五、事業報告書、収支決算報告書など決算のわかる書類

六、総勘定元帳、現金出納帳、請求書・領収書などの証憑類

七、財産目録

八、寺や住職の通帳・「過去帳」

 

これまでも、税務調査時に寺院「過去帳」の開示が求められるという相談は多数ありました。しかしながら、書面で事前準備書類として各種会計証憑と併せて「過去帳」の用意を通知されるということは初めてです。

今回はすでに、当該寺院には人権啓発相談員より取り扱い原則などの説明がされ、基本的な理解はされているとのことでした。

2015年の本誌7月号において、「職権による情報開示請求」が増加しつつあることを注意喚起いたしました。これは税務調査官など、公的資格や職権を有する第3者から、職務上の必要から「過去帳」等の閲覧を請求されるケースがありますが、たとえ職権・職務上での開示請求であったとしても、通常はこれに応じる必要のないことを申し上げました。

なぜなら、調査官の中には、「過去帳には布施収入等が書き込まれている」と勘違いしている場合もあり、知りたい布施収入の詳細は、「過去帳」からは知ることはできないからです。

ここまで、「過去帳」開示事例など紹介し、重ねて「再度のお知らせと要望」をお伝えしてきました。

「過去帳」等の文書記録には、檀信徒の方々のプライバシー情報が記されています。寺院住職以外の「閲覧禁止」はもとより、たとえ檀信徒からの依頼であっても宗教目的以外の、たとえば単なる先祖探しや家系図作成等の求めは、お断わりください。また、学術的な調査研究の依頼についても原則に忠実に対応してください。

自らに潜む「自分とは関係ない。人権問題は理解している」という姿勢から問題は惹起します。決して「過去帳」等が差別に利用されることのなきよう、寺院住職の適切なご判断と行動を要望するものです。

(人権擁護推進本部)

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