第3回曹洞禅フォトコンテスト 入賞作品

曹洞禅フォトコンテスト

最優秀賞

テーマ:お寺での光景
「荘厳」
佐竹 吉廣

審査員 石橋睦美先生より(以下 石橋先生)
選評を書き始めてふっと気づいたのですが、三回とも最優秀賞に輝いたのは東北地方の寺院や祭事を題材にした作品でした。もちろん作者も東北の方です。偶然そうなったのですが、なぜだろうと考えてみました。やはり東日本大震災の影響によるのだろうか・・・。東北人の心の中に共通する地震によって引き起こされた津波への恐れが記憶されていて、それを和らげるのは神仏への信仰であり、作者も気づかぬままに己が心に宿る思いを映像づくりに反映させているのかもしれません。
作品ですが、色彩表現の素晴らしさによって仁王様の存在感を露わにしています。一枚はブルートーンを際立たせた那羅延金剛像[左指定]、もう一枚は黄金色に染まる蜜迹金剛像[右指定]、この二枚の色調の対比によって仁王様の荒々しさが見事に表現されました。作者は、それを意識して作品の並びを実際と同様にしたのでしょう。しかし二枚組の写真効果としては、左右を逆にした方が画面構成上では、仁王像の姿形が上広がりになって迫力とスケール感がでたでしょう。
ところで、この二体の仁王像ですが、山形県寒河江市の慈恩寺にあります。神亀元年[724]、この地を訪れた行基に由来する古刹です。その山門に被写体になった二体の仁王様は納められているそうです。

 

キヤノン特別金賞

テーマ:お寺での光景
「忘れもの」
西 正幸

石橋先生より
撮影場所に真如堂とありますから、京都極楽寺にあるお堂の近くで出会った光景だと思います。そのお寺で秋の盛りになると、「稚児のお練り」と呼ぶお参りが行われるのでしょう。作品は石段を登るときに、片方の草履が脱げてしまったお稚児さんの小さなアクシデントを即座に撮影しています。一瞬の出来事を撮影した感性が素晴らしいのですが、画面構成が見事です。画面の左にお稚児さんを配し、右の空間は背景となる紅葉を暈して埋めています。一見するとバランスの悪い構図なのですが、お稚児さんの姿形の可愛らしさを引き立てるための余白となり、構図を整えているのです。

 

優秀賞

テーマ:ふるさとの情景
「祈り」
小出 由美

石橋先生より
沖縄では琉球創世の神に仕えるのは女性とされ、御嶽[ウタキ]で祈りを捧げるのはノロと呼ぶ限られた巫女がおこないます。神聖な御嶽へは男子は立ち入ることができません。作品は、その御嶽で祈りを捧げる二人のノロをクローズアップしています。一人は老齢に達した巫女、もう一人はまだ若い巫女です。ノロは世襲とされ、祭祀を受け継ぐ立場にある方なのでしょう。モノクロ画像によって、二人の顔から真剣さが滲み出ているのが強調されました。もう少し画角を広げ周辺環境を写してもよかったと思いますが、ベストは組写真だったと思えます。

 


 

テーマ:お寺での光景
「安らぎ」
後藤 桂子

石橋先生より
日々行われる禅寺の僧の行いを淡々と追った組写真です。四枚で構成された映像からは禅寺の厳粛さが伝わってくるようにも感じられます。作品コメントによれば、作者は「人々の心の惑いに手を差し伸べるために、お務めを成す僧の姿を表現したいと考えた」とあります。その作者の思いが、作品の一枚一枚に反映した組写真になっています。多分、このような撮影条件を得るには、よほどお寺に近しいのか、もしくはお寺の身内の方だからなのかもしれません。いずれにせよ自然体な目線で撮えた映像から、この寺の僧の動きが感じ取れます。

 


 

テーマ:ふるさとの情景
「雪道の風」
城田 祥男

石橋先生より
寒風吹きすさぶ雪道をゆく二人の修行僧をモチーフにした作品です。この作品の素晴らしさはシャッターチャンスと、画面構成の的確さによります。二人の修行僧の姿がよく、画面上での配置がベストです。それにより一枚の画面の中に時間経過が表現されており、ストーリー性が描き出たのです。しかし、この作品を撮影した作者の努力にも感心します。修行僧は寒さに耐えながら山野をゆくのでしょうが、撮影するカメラマンもまた、寒風に晒されてこの場面が生じるのをジーと待ったのです。その努力が実った傑作です。

 


 

テーマ:お寺での光景
「わがもの顔」
秦 保博

石橋先生より
撮影地が山口県宇部市の千仏寺とありますから、石仏が多数安置されているお寺なのでしょう。この作品の主役は一匹の猫です。このお寺の飼い猫なのでしょうか。いつも遊び場にしているテリトリーなのでしょう。猫は慣れた足取りで石仏の頭上を渡り歩き、あちこちに興味を示しているようです。その様子を撮影しました。画面いっぱいに写し込まれた石仏群の中に点景としての猫がいます。その猫が振り返った時にシャッターを切ったことが、作品を成功に導きました。動かぬ石仏群の中に動きがある猫の存在感が際立ったのです。

 


 

テーマ:お寺での光景
「夕刻」
宮田 哲志

石橋先生より
夕日によって樹影が映る障子格子を背景に、仏像に手を合わせるお坊さんを撮影した作品です。横長にトリミングした画面によって風景に広がりが出て、映像としてフォトジェニックになりました。さらにセピアカラー調にプリントした効果が実によく、異空間的な雰囲気も表現されました。それらすべての効果が融合したテクニックにより、お寺の夕刻時の空気感が醸し出た作品になりました。また画面構成がシンプルです。主となるお坊さんと仏像を画面中央に配置したことで、構図が安定し表現意図も顕著になりました。

 

キヤノン特別賞

テーマ:お寺での光景
「猫のお参り」
こでまり

石橋先生より
ご本尊の前でジーと動かずにいる猫、作者は我が家の猫の様子にまるでお参りしているようにも見えたと記しています。その感じたままを素直に撮影したことで、猫の思いが伝わってくるようにも思える作品になりました。画面内での猫の位置がよく、猫のいる場の環境が描き出されています。

 


 

テーマ:お寺での光景
「勤行」
木下 滋

石橋先生より
高野山壇上伽藍の西塔で、読経する僧侶たちを撮影した作品です。おそらく、時刻は早朝だと思います。秋色に染まるモミジを前景にしたことで、秋の清々しい空気感を写し取ることができました。スケール感のある風景の中に、読経の声が響き渡ってくるようにも感じられる映像です。

 


 

テーマ:ふるさとの情景
「代田潤す最上川」
菅原 善明

石橋先生より
米どころ庄内平野を潤す最上川をモチーフにした作品です。遠く日本海が見え、水の入った田んぼの中を蛇行する最上川の流れ、それらすべてが夕日に輝いて庄内平野の豊かな自然が描き出されています。シャドー部のグラデーションが失われずプリントされていて、構図の良さをさらに引き立てているのが印象的な作品です。

 


 

テーマ:お寺での光景
「観音様とアジサイ」
竹内 修

石橋先生より
神奈川県鎌倉市にある大船観音をモチーフにした作品ですが、映像から感じられるのは白と緑による清々しさです。作者も、それを表現しようと思い構図を描いたそうです。そのコンセプトが見事に成功しました。アジサイの緑葉で画面を引き締め、白花と観音様の白が淡く浮き立って、癒しの世界へ誘ってくれるように思える作品になりました。

 


 

テーマ:お寺での光景
「おつとめ」
千葉 栄作

石橋先生より
降雪の中、一人の僧が鐘撞堂で鐘を突いている光景を撮影した作品です。撮影地は神奈川県にある大本山總持寺ですから、常に雪が降る場所ではありません。作者は雪の降るのを待ちわびていたのでしょう。そして雪が降る日、カメラを携え總持寺へ向かった。映像イメージを事前に描いていたからこそ撮影できた秀作です。

 

入選

 

テーマ:お寺での光景
「忍耐の輪」
阿部 仲甫

 


 

テーマ:お寺での光景
「生き十一面観音」
伊部 敏雄

 


 

テーマ:ふるさとの情景
「風に揺れる」
大鐘 康夫

 


 

テーマ:お寺での光景
「初詣を見守る僧侶」
大谷 繁一

 


 

テーマ:お寺での光景
「強い思いと祈り」
鴨野 昭夫

 


 

テーマ:お寺での光景
「試し撞き」
川口 喜美惠

 


 

テーマ:お寺での光景
「托鉢僧」
岸 孝則

 


 

テーマ:お寺での光景
「苦行の足跡」
木下 正治

 


 

テーマ:お寺での光景
「花まつり」
工藤 茂雄

 


 

テーマ:お寺での光景
「盛夏」
城田 清延

 


 

テーマ:ふるさとの情景
「走る僧侶」
坪倉 義英

 


 

テーマ:ふるさとの情景
「山の神信仰」
戸塚 喜八

 


 

テーマ:お寺での光景
「押す」
苫米地 朋哉

 


 

テーマ:お寺での光景
「慈しむ」
アロエ

 


 

テーマ:お寺での光景
「吉備路のシンボルを照らす」
難波 成史

 


 

テーマ:ふるさとの情景
「有明海 春景」
藤松 政晴

 


 

テーマ:ふるさとの情景
「吊るし柿の古民家」
松井 清

 


 

テーマ:お寺での光景
「修行僧の帰還」
松山 進

 


 

 

テーマ:お寺での光景
「雨の参道」
室田 曻

 


 

 

テーマ:お寺での光景
「幽玄の灯び」
広田 和夫

 


 

■石橋睦美のワンポイントアドバイス

応募作品のなかから、次の2作品を例にして、画角についてみてみましょう。

 

 選外A「秋の鐘楼」

朱色に熟したつるし柿が鐘楼に干されています。とても素敵な写材を見つけたのは良かったのですが、周りを入れすぎたために雑然な画面構成になってしまいました。そのため、つるし柿の存在感が薄まってしまったのです。梵鐘とつるし柿だけで構成すれば撮影テーマが際立ちました。

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選外B「修行中の一休さん」

境内で拭き掃除に勤しむ修行僧をモチーフにした作品なのですが、緑葉が茂る木立を入れた構成にしたことで、とても爽やかになりました。ただ、そのせいで周辺の写り込みが多くなって焦点が薄まってしまいました。画角を狭め緑葉の存在感を失わない程度にすれば、とても良質な作品になりました。 


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このように、画角によって作品の印象は変わります。場合によってはトリミングを効果的に行い、主題を際立たせることも大切です。
次回のご応募も楽しみにしております。