臘八摂心と成道会


 12月1日から8日まで、曹洞宗の多くの寺院では、「臘八摂心(ろうはつせっしん)」が行われます。
「臘」というのは、12月を意味する「臘月」の略で、「八」は「8日」のことです。また、「摂心」というのは「心をおさめる」ことで、つまりは坐禅のことですが、特に一日中坐禅することを指します。
このような長い時間、まとめて行われる坐禅修行は海外の曹洞宗寺院でも、「Sessin」として、1つのリトリート(修行)に数えられています。

 臘八摂心は特に、12月8日に仏道を成就されたお釈迦さまの坐禅を追慕する期間として行われます。普段、忙しくて、なかなか坐禅修行ができないという人であっても、この時期には諸々の仕事を止めて静かに坐るのです。この時期だけは、門戸を開いて坐禅をする寺院もありますので、ぜひ菩提寺などにお問い合わせください。 曹洞宗では、この修行は大本山總持寺御開山・太祖瑩山禅師さまの頃から行われています。

七日夜、九日夜、山僧住裏一衆長坐す。発心以来、四十余年、此に於いて両夜、未だ打眠せざる故なり。住裏二十六年、多く一衆を率い、堂の裏に打坐するは、蓋し恒規の如し。 『瑩山清規』

 瑩山禅師さまは、仏道修行への志を抱いて以来、40年以上にもわたって毎年、必ず7日夜と9日夜には「長坐」といって、一晩中坐禅をされた様子を伝えています。なお、9日夜というのは、中国に禅宗をお伝えになった達磨尊者の弟子である慧可さまが、雪中にて立ち尽くして、達磨尊者の坐禅が終わるのを待ち、その後達磨尊者に弟子入りする際に自らのヒジを断った故事(慧可断臂)を追慕して行われる坐禅修行です。

 戦国時代には、現在のように12月1日から行われる修行となり、更に昼間も続けて坐禅を行うようになりました。1日7~14炷(1炷は約40分)程度坐る場合があります。朝起きて夜寝るまで坐禅です。臘八摂心はこれを一週間続けるのです。

 そして、12月8日を迎えますと、三仏忌(お釈迦さまに因む3つの法要)の1つである「成道会(じょうどうえ)」になります。お釈迦さまが12月8日の朝、明星を見て仏道を成就された故事を讃え、我々も同じように仏道を成就することを願って行われる法要です。 大本山永平寺御開山・高祖道元禅師さまは、成道会の大切さについて、次のように仰っています。

日本国先代、曾て仏生会・仏涅槃会を伝う。然而ども、未だ曾て仏成道会を伝え行わず。永平、始めて伝えて已に二十年。自今已後、尽未来際、伝えて行うべし。『永平広録』巻5-406上堂

道元禅師さまは、三仏忌の中、仏生会(花まつり)・涅槃会が行われていることを評価しつつも、「成道会」がないことを問題視し、今後曹洞宗では、未来の果てまでも続けるように弟子達に遺誡されました。両祖さまの時代には、成道会に合わせて、修行僧を相手に「上堂」という説法を行い、お釈迦さまが仏道を成就された意義を、各々よくよく考えてみるように促されています。

 お釈迦さまが仏道を成就された様子を、曹洞宗では次のように伝えています。釈迦牟尼仏大和尚、菩提樹下に在って金剛座に坐し、見明星、悟道して云く「明星出現の時、我と大地有情と同時成道す」と。 『永平広録』巻3-240上堂

 かつてお釈迦さまは、明星を見て仏道を悟られた際、「明星が出現した時、我と大地に生きる生きとし生けるものが、同時に仏道を成就した」(訳)と仰いました。この「大地に生きとし生けるもの」から逃れる人は誰一人おらず、つまり我々はお釈迦さまの悟りの中に生きているのです。よって、現在であっても、我々が坐禅修行をする、まさにその時には仏道を成就していると、曹洞宗では伝えられているのです。

 自ら必死になって悟りを開こうとしなくても良いのです。ただ、既に悟りを開いてくださったお釈迦さまを追慕し、その悟りの中に生きている事実を信じ、そして坐禅することこそが、仏道の成就であるのです。これを、「本証妙修」といい、曹洞宗では大切な教えとしているのです。