卯月(四月) 凍り豆腐


凍り豆腐と筍の木の芽和え 筍、木の芽味噌、木の芽
凍り豆腐の野菜あん掛け 南京、木耳、牛蒡、人参、
独活、針生姜、蕨
凍り豆腐の巻繊鋳込み 豆腐、豌豆、時雨麩、人参、
青味大根、春子椎茸、針柚子
   

さて、四月は「凍り豆腐」です。春うららかな花見の季節になぜ「凍り」なの? とお思いになるかもしれません。しかし、春の行楽につきものは、なんと言っても手作りのお弁当ではないでしょうか。そして、特に精進料理のお弁当に欠かせないのがこの「凍り豆腐」です。茄でた豆腐を寒気にさらして凍らせ、その後天日干しにして作るのですが、「腐りにくく、ご飯のおかずに合い、栄養価が高 く、長期保存がきく」こんなすばらしい素材は、めったにないと言っても過言ではないでしょう。

この「凍り豆腐」は、「高野豆腐」あるいは「シミ豆腐」とも呼ばれており、なかでも「高野豆腐」と称されるとおり、もとは高野山で作られた物ではないかと思われます。ところで、凍り豆腐はたいへんおいしい素材ですが、おいしくいただくためには、戻し方と煮る方法をしっかりと覚えなければいけません。まず戻し方ですが、いろいろな方法がありますが、私の場合はぬるま湯で戻します。以前の凍り豆腐は粗悪品も多く、割れたり、戻しきれなかったり、カルキ臭さが残ったりしたものですが、最近の物は品質も向上したようです。最初に、ぬるま湯にほんの少量の重曹を溶かし、その中に凍り豆腐を入れ、浮かんでこないように落としぶたなどをかぶせ、軽い重石をのせて冷めるまで待ちます。ふっくらと戻ったら両手で軽く押し絞り、再度きれいなぬるま湯に入れます。これを白く濁った汁が出なくなるまで、四-五回繰り返し、最後にしっかりと汁気を絞れば戻しは完了です。

次にたっぷりめの昆布出し汁を鍋に用意し、凍り豆腐を入れて火にかけます。おいしく煮るこつは、一度に味付けをしないこ とです。一度に砂糖や醤油を入れてしまうと、甘辛いだけでおいしさを感じません。特に凍り豆腐は、すぐに水分を吸収してしまうので、最初にみりんを入れて少し炊き、次に「底味」を出すために、少量の砂糖も入れます。「底味」とは、食べてみてグッと感じる味わいです。甘味が凍り豆腐に浸みたら、次は塩を入れます。みりん、砂糖、塩でだいたいの味を付けたら、最後に醤油を加えてできあがりですが、入れすぎてせっかくの白い凍り豆腐が赤く煮えては見栄えも悪いので、醤油はあまり使い過ぎない方がよいでしょう。凍らせた豆腐ですので、味付けは「ちょっと甘いかな?」と思うくらいの塩梅に。

最初の一品は、木の芽和えです。日本料理では、烏賊(いか)と独活(うど)と筍(たけのこ)の木の芽和えが定 番ですが、ここでは凍り豆腐と筍を使用します。 筍は、糠と鷹の爪で茄でてアクを抜いてから、昆布出し汁でごく薄味に炊きます。凍り豆腐も前述のように炊いていいのですが、木の芽味噌との兼ね合いがありますので、味は少々控え目にした方がいいでしょう。普通は賽の目に包丁を入れますが、ここでは少々大きめの拍子木に。和えものというと、必ず和えてあるのが本来の姿ですが、筍と凍り豆腐が見えるように、あえて和え混ぜをしてありません。たっぷりと木の芽をのせて、季節感を出してあります。

二番目は餡(あん)かけです。ここでは南京、木耳(きくらげ)、牛芽、人参、独活を使用していますが、特に素材にこだわる必要はありませんので、お好みの材料を自由に使用していただいてけっこうです。針生姜と、季節的にはもう終わりですが、名残の蕨を添えてあります。最後の品は、精進料理の代表ともいうべき巻繊(けんちん)を高野豆腐の中に入れました。丸高野豆腐といって、中をくり抜いてある、こんな風変わりな凍り豆腐もあるのです。 巻繊の中には、豌豆(えんどう)と時雨麩(しぐれふ)と人参を入れました。どうしても色合いが五色に近くなった方が美しく見えるので、豆腐以外の具を必ず入れることが、必要です。豆腐だけではせっかくの切り口もきれいに見せることができなくなってしまいます。 前盛には、葉を色好く茄でた青味大根と、春に作られる椎茸です。丸い高野豆腐、いわゆる「凍り豆腐の筒型」が、「これ、なんだろう?」と興味をそそる逸品ではないかと思います。