葉月(八月) 岩茸(いわたけ)


岩茸の清流寄せ 白滝素麺、はじき豆、
美味出汁、針山葵(わさび)、
紫蘇(しそ)の花
岩茸の湯葉饅頭 生湯葉、豆腐、笹掻き牛蒡、
人参、銀餡、
卸生姜、繊絹さや
岩茸と冬瓜の
落花生和え
小角(こかく)冬瓜、
霰(あられ)煎り落花生
 

「岩茸」と言っても、あまり一般的ではなく、ご存知ない人が多いと思います。正確には地衣(ちい)類の一種で、茸(きのこ)ではありません。 関東の秩父地方や愛媛県が産地としては有名で、主に切り立った岸壁などに自生しており、その採取には危険が伴うことが多く、貴重品です。ほとんどが乾燥品として販売されていますが、一般の家庭ではあまり使われることはなく、高級料理店で、おさしみのあしらいや、お椀の具などに利用される場合の方が多いようです。

乾燥させた岩茸はパリパリ状になっているので、丁寧にあつかう事が大切です。戻 し方は、たっぷりめのぬるま湯に乾燥した岩茸を静かに入れます。岩茸は軽く、浮いてくるので、落とし蓋やサランラップなどで十分に水分を含ませられる状態にすれば、 早く戻すことができます。

次に中心の石づきを取り去り、表面のホコリや裏面の砂粒をもみながら洗い落とし、 再度茄でこぼして冷水に落とし、それから調理します。

精進料理では、特に和えものを作るのに適した材料ではないかと思います。

さて、写真の料理ですが、八月の暑いときにサッパりしたものをと思い、「岩茸の清流寄せ」と酒落てみました。水の流れは素麺です。その中に、はじき豆という、板豆の薄皮までを取り去ったものと主役の岩茸を入れ、流し缶に寒天で寄せてみました。

そのままでも食べられるように味はつけてありますが、美味しい出汁を作って、 少々器に張り、山葵(わさび)のごく細く刻んだものを天盛りにしてあります。シャリッ、ピリ ッとした食感の山葵と一緒に食べていただきます。きっと口の中で清涼感が漂う一品ではないかと思っています。ピンク色の花 は紫蘇(しそ)の花です。少しだけ彩りに添えてあ ります。

二品目は「岩茸の湯葉饅頭」です。 生湯葉をミキサーにかけ、その中によく 水を切った豆腐と少量の大和芋を入れ、サ ランラップで茶巾にとり、いったん蒸し上げて、煮含めたものです。

もちろん、主役の岩茸は戻して味を付けて饅頭の中に入れてありますし、他に笹掻き牛蒡を茄でて味付けしたものと人参が入っています。饅頭そのものにも味付けはしてありますが、昆布出汁・塩・味醂・薄口醤油にて美味しい出汁を作り、その出汁の中でジックリと煮含めてあります。湯葉豆 腐は白い素材ですので、このときの出汁はごく控え目に醤油を使い、なるべく色がつかないようにいたします。

ふっくらとした湯葉豆腐の中に黒い岩茸、 ご法事などの煮物にはとても喜ばれると思います。湯葉饅頭を煮た出汁に葛を溶き入れ、餡(あん)を作ります。色の付いていない餡ですので「銀餡」といいます。この餡をたっぷりめに饅頭の上にかけ、卸した生姜で食します。

前盛りに絹さやの繊切りしたものを添えてあります。

残りの料理は「岩茸と冬瓜の落花生和 え」です。冬の瓜と書いて「トウガン」と 読みます。何で夏の野菜なのに冬の瓜とい うのでしょうか? 俗説には、霜が降りて冬にわたって熟するのを良しとするところからこの名がついたと言われますが、定かではないようです。また食べごろになると外皮に白い粉がつくので、それが霜がおり たように見えるところがら、冬の瓜と言われたのかも知れません。

さて、冬瓜の話は置いておき、落花生和えの作り方を説明しましょう。 まず、落花生はよく煎って、油が出てくるまで十分にミキサーにかけ(昔は摺り鉢で摺ったものですけど……)ペースト状に します。次に昆布出汁を用意し、少しずつ昆布出汁を入れて、かき混ぜます。いったん少々硬くなりますが、徐々に昆布出汁を入れていくうちに、段々と柔らかくなってきます。あまり伸ばしすぎてもいけません。 砂糖・醤油・少量の塩にて調味します。この時の醤油は濃口醤油の方が良いと思います。冬瓜の小角(こかく)に切って色出しをしたものと、柔らかく戻して味を付けた岩茸を、見栄え良く器に盛り、落花生衣をかけます。 落花生和えと称してはいますが、混ぜ合わせてしまいますと、冬瓜の色や、岩茸の色が落花生の衣で汚れてしまいますので、あえて混ぜ合わせておりません。以上が三品の作り方です。是非おためしください。