ふくしま故郷再生プロジェクト現地聞き取りレポート(2)  人権擁護推進本部


寺院住所   福島県福島市東部
協 力 者   住職(代表役員)・総代(責任役員)
訪 問 日   2011(平成23)年10月4日
同 行 者   福島県宗務所2人
位  置   東京電力福島第一原子力発電所から約56㎞
放射線量    室内 0.769マイクロシーベルト毎時 年間推定積算値  6.74ミリシーベルト
    屋外 1.539マイクロシーベルト毎時 年間推定積算値 13.48ミリシーベルト
備  考   近隣地区が特定避難勧奨地点指定、福島市行政が除染活動を継続実施中
     

 ふくしまの声―聞き取りまとめ―

―お寺の現在の家族構成は? 
 「東堂とわたし住職と寺族との3人で生活しています。事故前には他の家族もいました」
 
 ―総代さんのご家族は何人ですか?
 「お寺から4km離れたところに住んでいます。現在は私と家内と長男そして父親の4人で生活しています」(総代)
 
 ―放射線の影響で、避難地区に指定されていますか?
 「ここの放射線量は高いのですが、避難地区には指定されていません。近隣が特定避難勧奨地点の対象となっていて、当寺の檀家は5世帯・4軒が避難しました。その中、1世帯は遠くへ避難しています。お母さんが妊娠中だったそうです。このお宅は近畿や北関東に避難して行ったのですが、その落ち着いた場所がまた放射線量が高いとのことです」
 
 ―地震の被害を教えてください。
 「寺院の建物と墓地等が壊れました。建物では倒壊こそありませんが、壁にひびが入ったり、基礎の亀裂とか瓦屋根の〝ぐし〟が崩れたりしました。駐車場の一部も破損しました。墓地は100くらいの石塔・灯篭等の倒壊や破損があり、各戸で単発で直すと費用がかさみますので、寺から檀家さんに呼びかけて、集中的な修復工事の手配をしました。新たに事を起こせば、住職の心労も多くなります」
 「個々の檀家ではなかなか踏み出せなくて、住職さんから護持会へ諮らせてもらい、たいへん有り難かったです」(総代)
 
 ―震災や原子力発電所事故による放射線の影響で、当地区へ避難してきたということはありますか?
 「あれば対応しようとも考えましたが、避難所の設置や避難住民の受け容れはありません。ここの地区は発電所から50㎞以上の距離はありますが、放射線量は高いですし」
 「原発立地近隣の町村の住民が、何箇所か転々として、福島市街へ避難してきましたが、避難所の線量がかえって高くて困っていると。福島市も当初は放射線量を測りませんでしたから」
 
 ―放射線のだいぶ強い地域とお聞きしていますが、ご家族の健康状態への影響は?
 「今は特別にはありませんが、ストレスで精神的にだいぶダメージ受けています。寝ても起きても、放射線のことが頭から離れない。放射線からどんな影響があるのか、わからないのです。放射線で病気になるよりも、ストレスで先に病気になると家族の者とも話しています」
 「農家の父が、桃の摘蕾(てきらい)といって、花咲く前に余分な芽を摘む作業をずぅーと2月頃からやっていたんですが、事故以来、屋外に出ないほうがいいということで、家に閉じこもりになってしまいました。それまでは、真冬でもお正月3が日以外は出て仕事していたのですが、今はもう欝のような状態です。」(総代)
 
 ―震災と原子力発電所の爆発事故以来、お寺の活動にはどのような変化がありますか?
 「つい数ヵ月前までは、子どもと孫も一緒に生活していたのですが、放射線量が高いので避難させています」
 「このような状況ですので、現在東京に住んでいる息子を寺院後継者として呼んでもいいのか気持ちがゆれています」
 「住職は寺から避難するわけにいかない。避難勧告でも出れば別ですけれど、特定避難勧奨地点とか、その場所に限っての放射線量が高いといって、私は逃げるわけにいかない。私と東堂はここで心中だなーと話を最初からしていた。寺族も同じ思いです」
 
 ―お寺とお檀家さんとのつながりは?
 「ご法事等の檀務は確実に減少しています。寺の生活基盤は、供養やお葬式というかたちでお布施を頂戴して維持されています。近い将来、当寺だけではなく、この教区のお寺では後継者がいない等の寺檀関係の崩壊で、結局は成り立たなくなることも予想され不安です」
 「檀家さんも気持ちが落ち着かない状態で、一周忌などの比較的近い仏さまの年回法要を合同法要というかたちで行う方もいます」
 「こんなこともありました。ここの地区以外の檀家さんから法事の依頼がありました。『ただ、寺のある地区の放射線量の値が高いので、和尚さんがお寺で拝んでください。塔婆を後で取りにいきますから……』と言うのです。ここに24時間生活している私たちのことも考えてよ! と愕然としました。ですが、放射線に対する不安を考えると仕方がないのかなと思います」
 
 ―檀家さんのご家族の生活にはどのような変化が?
「若い世代や子どもさんの人口流出が大きいです。事故以前は、近隣小学校の児童は30人いたのです。ドンドン少なくなって、夏休みまで30人中8人避難しています」(総代)
「今避難されている8家族が、生活基盤となる仕事見つけて、4年、5年生活するとします。子どもさんが中学校になり、高校になり、そうしたら戻れないですよ。これが現実です」
「放射能汚染が家庭不和の原因です。離婚にいたるケースもたくさんあります。たとえば親子と祖父母の3世代で生活している。そうすると、息子の奥さんは1日も早く避難したいんですよ! 旦那さんは自分の生活がありますし、ましてや親もいますから、いろいろと板ばさみになる。痺れを切らした嫁さんは、離婚届にポンとはんこ押してドンと出て行った。これが現実です。世帯に亀裂が走るのです」
 
―地域の人間関係はどうでしょうか?
「当寺の近隣には、特定避難勧奨地点に指定されているお宅があります。どちらかが避難勧奨地点になった、ならないとすると、極端な言い方すれば、家族6人も7人もいる方では、100万円くらい違うんだそうです、年間で。税金の免除などがありますから。これがもとで、それぞれの世帯でも感情の亀裂が入り、交際がなくなって喧嘩状態になったり、地域内で軋轢があとで出たりします。住民がストレスの固まりになって、言わなくてもいいことをつい言ってしまう」
 
―檀家さんや地域での経済的な被害はどうですか?
 「農作物の放射能被害とくにお米の場合は深刻です。この地域は、福島県内でも有数の米の品質のよい地域だったものですから、東京の鮨屋さんとか、直接販売が4割近くもあったのです。ですが、今年はゼロ! それどころか縁故米も差し上げられない。風評被害ではなくて実害!」(総代)
「お中元でちょうど桃の時期に、今年は送ってもいいよという親戚にだけ贈らせてもらったわけですが、箱ごと送り返されました」(総代)
「それと正反対でありがたかったのは、JAの桃の販売で、長崎県と大阪府、特に大手のCOOP神戸マートさんが、以前の阪神淡路大震災の時に、福島県からたくさん援助を頂いたから、福島県のをドンドン送ってくださいと」(総代)
 
―この地区ではポイント、ポイントでずいぶん放射線量の数値が高いということですが。
「おかげさまで宗務庁から線量計を借りまして、測ってほしいという檀家さんには測ってあげますよと。自宅の具体的な線量が分からないでいて、屋内で1.3~1.5マイクロシーベルト毎時《年間推定被曝量13.14マイクロシーベルト 一般人の年間許容量の約13倍以上》というお宅があって、家の中ならだいじょうぶだと思っていたのに、『こんなに高いんですか!』と」
「いち早く、住職さんが個人的な関係で、集落ごとや公共の場の放射線量を測ってくれました。おかげで市内の中では部分的な数値としては掌握できて、それなりの対応を若干取らさせていただいたこともあります」(総代)
「寺院の屋内でも、測定開始当初は0.7~1.1マイクロシーベルト毎時もありました。境内の駐車場は洗浄前は5~6マイクロシーベルト毎時《一般人の年間許容量の約53倍》という高い数値でした。おそらく放射性物質が屋根から流れて溜まったのだと思います」
 
―お寺の除染活動や放射線対策はどうされていますか?
「すべてが試行錯誤の手さぐりです。畳やカーペットにも放射性物質がしみ込んでいるから放射線量が高いんだと。そろそろ替え時でしたから、畳もカーペットも全部替えました。その結果、除染効果はゼロ!」
「カーテンをクリーニングしても、これも効果ゼロ! 効果があったのは網戸の洗浄です。これは効果ありました。あと、窓を拭くこと。サッシの下の部分を綺麗にするのです。これで放射線量は0.2~0.3も下がります。畳とカーペットとカーテンは効果ゼロでしたよという話を檀家の皆さんにして、無駄にお金かけないようにしています」
「屋外の駐車場は線量がとても高かったものですから、あわてて中性洗剤まいて業務用の高圧洗浄機で洗ってみました。それで、かなり下がりましたが、日にちや天候によって揺れ幅が大きい。雨が降ると放射線量高くなる傾向がありますね」
 
―檀家さんや地域の除染はどうされていますか? 行政でも積極的に取り組んでいると聞いたのですか。
「地域住民が中心になって、行政もボランティアも一緒になって、除染を継続的に実施しています。学校や通学路から始まって、宅地内の屋根や側溝から除染していきます。福島市の中では当地区がトップです。当初の除染目標は、外で年間1ミリシーベルト以下、家の中で0.6ミリシーベルト以下を全世帯の目標にしています。それをクリアしたら、外で0.6ミリシーベルト、屋内で0.2ミリシーベルト以下を目標にして、ローラー作戦で除染活動していくことになっています」
 
―除染で集められた放射性物質の処理には各地で悲鳴が上っているようですが。
「除染物の仮置き場を設置することは、本当は誰も賛成ではないのです。説明会では反対する人がたくさんいた。ですが、ここでは仮置き場が決まったんですよ!『仮置き場がなかったら、除染ができない。賛成しなくてもいいから、どうか反対だけはしないで』と電話したり、戸々にお願いしてようやく理解いただいたということです」
 
 ―このお寺に限らず、山林や森林が周囲にたくさんあるのですが、そこまで除染するというのは不可能だという話を聞いたのですが。
「いや、できないと考えてしまうと何もできません。今、住宅地を中心に除染を行っています。住宅の屋根であるとか、庭からやっています。市の方へ提案しているのは、住宅地から周り75mの山林原野の除染を進めましょうと」
「福島市長は『市内全域の山林を除染する!』と明言していますので、これはやっていかなければならない」
 
―原子力発電所の爆発事故に対する地元の皆さんのご意見をお願いします。
「若い頃に福島の原発の施設に研修というか観光も含めて、見学させてもらったりしました。『原子力発電は安全でコストが安い』ということで、洗脳されていたのです」(総代)
「今、『原発どうですか?』と聞かれたら、もちろん『NO!』です。ですが、われわれは、放射線の影響を排除して、今現在の生活をもとに戻してもらうというのが一番大事なことなのです」
「放射線問題では事故以来、すぐに『原発反対だ!』という運動に利用されてしまうのは本意ではないのです」
「よく原発反対の方が福島へいらっしゃいます。その人へ私が聞きたいのは、『あなたはここまで何で来ましたか?』と。『新幹線で来ました』『新幹線は何で走っているのでしょうね?』と。原発等で作られた電気で走っているんですね。そういうことを理解してほしいのです」
「原子力発電は危険なものであるということはキチンと認識しなくてはいけない。さらに、核燃料の最終的な処理の仕方を考えないままに、ここまできてしまったことがやはり間違いなんです。そういう全体像でとらえていかないと、今ある原発を潰したってその核燃料処理問題は残るのですから」
「今回の発電所爆発事故は、これは明らかに『人災』です。電源施設の立地や操作ミスが重なった人災です」
 
―この地域の放射線情報はどのように知らされていたのでしょうか?
「当初は何もありません。それどころか、この福島市が原発立地町村の避難地区でした。ところが、3月16日時点で24.4マイクロシーベルト毎時《一般人の被曝限度量の126倍》だったということが、事故後半年以上後で発表された。私たちは事故当初、まったく無防備で高濃度の放射線にさらされていたのです」
「ホールボディカウンター、内部被曝検査を受けてみようと思っています。私自身はそんなに心配していないのですけれども、私の検査の結果によって、他の方の内部被曝量の目安にもなりますので」
 
―お寺として賠償や補償を求めるという動きはありますか?
「宗務所単位で東京電力へ損害賠償や慰謝料請求する予定ですが、単純に金額に算定することは難しいのです」
 
―曹洞宗への要望やご意見をどうぞ。
「宗務庁へ被災申請しても、手続きが煩雑な割には、少額なので、寺院として上乗せしてお見舞いをお渡ししているという現実です」
「『原発事故が福島でよかった』と言っている人もいます。『東京だったら、大パニックだった』とも。ものごとを点でしか見ていないのです。今はたいへんだと騒いでいますが、いずれ静かになるだろうと。多少、お金をくれとけやと。騒いでいるのも、2年と見ているのではないですか。それが1番心配です。」
 

ふくしま余韻 矜持(きょうじ)という人間力に

放射線の胎児への影響について話題がおよんだ時、住職さんの言葉「よく放射線被曝で、『障害のある子どもが生まれる危険性がある』と言われるが、これこそが問題です。この世の中にはいろいろな障害もった方がたくさんいらっしゃるわけですよ。障害もって生まれて悪いのか!」と。いい加減な知識を鵜呑みにしていた私たちは静かにたしなめられました。たしかにその通りです。住職は地元の放射線量測定や除染活動、精神的よりどころの中心的存在です。
この地区は、県内有数の良品質米の産地でした。今回の原子力発電所爆発事故による放射能汚染によって、総代さんの地区の玄米からも、暫定規制値500ベクレル毎キログラムを超える放射性物質が検出されました。その報道を知り、電話を差し上げたところ、総代さんは地区の会長として、産出米の全袋の検査を行政に掛け合い、その方向で動き始めたという連絡をいただきました。
深刻な放射能汚染にもかかわらず、地元に張りついて故郷の再生に挺身されているおふたりに、原子力を超えた矜持(きょうじ=ほこりと高い品位)という名の人間力を感じました。
この人間力に学ばなければならないと思います。