キンテロ伝照師(筆者)

曹洞宗は1992年以来、「人権・平和・環境」のスローガンのもと、様々な活動を展開しています。そして2015年9月、ニューヨークの国連本部で開催された「国連持続可能な開発サミット」において、新しい持続可能な開発目標として採択された“誰一人取り残さない”を理念とするSDGsは、仏教における四摂法とも深い親和性があることから、目標達成に向けて積極的に取り組んでいます。

SDGsが掲げる17の開発目標はすべて、公平で包括的かつ尊重された社会を構築するために極めて重要ではありますが、特に16番目の目標である「平和と公正をすべての人に」は、私たちの大心寺が最も興味を覚えた目標の1つです。大心寺では、このコロンビア共和国における多くの苦しみを僅かでも軽減するための修行の提供、というコミットメントのもと、私たちの修行が健全な方法で人生と関わり、他の存在との関わり方を修正するための選択肢であることを周知するためのキャンペーンを開始しました。

大心寺での坐禅

コロンビアは、社会的不公平、経済的不均等、治安の悪化、教育資源不足、戦争、麻薬などのため過去何十年にもわたって大きな苦しみを体験してきました。そして、暴力は政治闘争、犯罪組織の利益、武力紛争に限定されるものではありません。私たちは、互いへの接し方、人種差別、階級差別、一般的に他の者や異なるものすべてへの侮蔑の中にそれを見ることができます。

多くの苦しみを経験する国に生まれた私は、80年代半ばに初めて曹洞禅に出会ったとき、釈尊から受け継がれたこの修行が、私たちを日常の苦しみから解放し、自分自身の不満を解消するための強力な要素を備えていると理解しました。悟りを願うのであれば、自分の欲求から注意をそらし、母親がすべての子どもを平等に世話するように、他人の世話をすることが必要とされます。

政府とゲリラ間の平和を訴えるデモ

2013年にペルー共和国リマで開催された曹洞宗南アメリカ国際布教110周年記念式典の際、様々な国からの修行者が参加し、自国に対する曹洞禅の敷衍を誓い“ラテンアメリカ禅の集い”開催に署名いたしました。そして、2016年はコロンビアの首都ボゴタで「第3回ラテンアメリカ禅の集い」の開催を迎えました。当時コロンビア政府は50年以上にわたるゲリラとの武力闘争を終え、和平協定の調印を終えたばかりでした。そこで、私たちは長年の闘争の苦しみを軽減するための具体的、かつ積極的な対応として、この“ラテンアメリカ禅の集い”を提案し、恒久的な平和の確立と健全な社会構築に向け、私たちの修行を紹介いたしました。

ラテンアメリカ禅の集いでの平和についてのディスカッション

現在、パンデミック、経済危機、戦争など、私たちは世界の歴史的な混沌の瞬間を経験し、不安定な状況を日々感じています。しかし、人類の歴史を振り返ると、太古の昔から、心の毒が欲や憎しみによって他国を侵略するように仕向けてきたのです。

お釈迦さまの時代にも、すでに多くの戦争がありました。釈尊は非暴力と平和を説くだけでなく、ロヒニー川の水の覇権を争うマガダ王国とヴァッジ族の戦争を防ぐために自ら戦場に赴き、釈尊の言葉によって、アジャータシャトル(阿闍世)王がヴァッジ族を攻撃するのを防いだと古い書物に書かれております。釈尊は国境問題だけでなく、王国の内情にも影響を与え、君主を説得し、民衆への虐待をなくすために、より慈悲深い政策を提案されました。釈尊は、民衆の不幸につけこんで、過剰な増税や厳しい刑罰を科す非人間的な君主による苦しみを知り、自ら、王と民衆の関係を改善することに関心を持ち、悪政によって民衆が腐敗、退廃、不幸にならないようにと十重禁戒を説きました。

これらは仏教が具体的に平和をもたらすことに関心を寄せてきたことの初期の証拠です。私たちは、平和は天候のような外的なものではないことを理解しなければなりません。これは仏教の非暴力、アヒンサー(ahimsā)の原則で、誰も傷つけてはならないという意味だけでなく、戦争的な対立や暴力や生命の破壊を暗示するものすべてを避け、動物や自然への敬意を含め、平和を促進する努力をすることが私たちの義務なのです。自分の存在に満足し、他者を理解し、多様性に寛容で、他者の考えを尊重する個人によって社会が構成されていなければ、平和を実現することはできません。

道元禅師は、私たちの坐禅の修行が、それ自体が安楽と喜びの法門であると示されています。しかし、私たちの修行は、坐禅を組むことだけにとどまりません。私たちは、この目覚めの理解を日常生活の中で表現するよう努めなければなりません。私たちが修行の中で目覚めた存在の法則に則って行動する限り、自己中心的な傾向に対抗することができ、健全で平和な社会の発展に創造的な影響を与えることができるのです。

道元禅師は、私たちが日常生活で誓いを実現するための具体的な手段「喜心」「老心」「大心」の3つの心を生み出すことの大切さについて『典座教訓』の中で示されています。これは、菩薩として、年配者のような心で、楽しく人を包んでいく姿勢です。

さらに、『正法眼蔵』の「菩提薩埵四摂法」では菩薩の四摂法、つまり苦しみを和らげるための心構えについて「布施」「愛語」「利行」「同事」を説かれています。私たちの行動が、他人を苦しめるのではなく、良い影響を与えることができると考えることで、自己中心的な注意を取り除き“他のすべて”に向けられるのです。

こうして私たちは、すべてのものとの相互関係を認識し、絶え間ない現実の流れに目覚めることができるのです。公正でバランスのとれた平和な社会を築くためには、他者を認め、自らの行動の結果に責任を持つことで平和を見出さなければなりません。

このように、コロンビアにおける曹洞禅はより多くの人々が安らぎと喜びの法門を見いだし、尊敬と寛容、そして寛大で包括的な非暴力的な社会の建設に貢献できるよう、この修行を提供することに一票を投じました。

私たちは“平和と公正をすべての人に”促進のコミットメントを表明いたします。