シーバート慈証師

私たち人間の心は、学習するようにできています。気づきを得た人生を送るために、正規の学校教育が必要なのかというと、必ずしもそうではありませんが、教育を受けた人々の存在は、社会が抱えるそれぞれの問題を解決していく上で、とても重要な役割を果たします。仏教的な観点から見れば、私たち一人一人の持ち味(性質)を開花させ、生活や社会の中で知恵を培っていくことが、重要なのではないでしょうか。

質の高い教育は、健やかにより良く生きるための能力を高め、導いてくれます。その教育には、子どもたちの正規の学校教育と、人権が尊重される環境を維持するための生涯学習の両方があります。

私は普段はアイオワ州エイムズ市にある小さな禅センター「禅フィールズ」において、日々の修行のなかでSDGsを達成するための活動を行っていますが、今回は「質の高い教育と生涯学習の機会をみんなに」をテーマに、ハイチ共和国での活動をご紹介させていただきます。

ホストファミリー宅で

ハイチ共和国では教育現場で活動する機会が多くあります。ハイチの山村部の学校では、私がアメリカで通った学校とは非常に異なる経験をします。ここでの学校環境は、先生のイスがあり、黒板とチョーク、座り心地がよいとはいえない木製のベンチが、立ち座りが難しいほど密集しています。壁には何も掲示されておらず、インターネット環境もなく、電話も学校の建物の裏の特定の場所、石が積み上げられたような場所に立ってようやく通話できます。ときには雨が窓から入ってきて服が濡れてしまったり、雨の音が激しいときにはトタンの屋根の音で先生の声が聞こえなくなったりします。それでも、雨によって作物が育ち、食べていくことができるため、こうして授業が中断されることも喜ぶべきこととされているのです。

このような山岳地帯に学校があっても、そこに通うことができるということは私にも、生徒たちにとっても幸せなことです。国連の推定によれば2018年において世界中で2億5800万人もの学齢期の子どもたちが通学できていないとされており、問題は解消されないまま、2030年までには2億人の子どもたちが依然として学校教育を受けることができないと予想されています。学校に行くことができない理由としては、一般的に、親と離ればなれになってしまったため、学費や教材を買うお金がない、その他にも、児童労働、児童婚、通学途中の暴行の危険などの理由があげられます。

このように世界中で通学が困難である子どもが多くいる中で、幸運にも通学できる子どもたちや、その親たちの学習意欲は非常に高いことがうかがえます。子ども用の図書に、「Runningthe Road to ABC(日本語訳:いろはへの道を駆ける)」という、ここに書いたような教室で学ぶ子どもたちのお話があります。子どもたちは太陽が昇る前から、遠く離れた家から山々を越えて学校に間に合うように何時間もかけて走って通学します。靴をきれいにしてから、「あと一文字、あと一つの発音、あと一つの言葉」だけでも学ぼうと教室に入るのです。そして、日が暮れた後、雨の中泥道を走って下校し、次の日も同じ登下校を繰り返すのです。世界中の両親たちにとって大切なことは、食べ物や他の必需品、子どもの教育の機会を失わないようにすることです。

成人を対象にしたコミュニケーション実習

しかし、学習意欲を誰もが同じように持っていたとしても、国連が教育の不平等の排除を目標としていても、質の良い教育の機会を得られるとは限りません。世界には、女子児童が文字を習える可能性よりも、性的暴力を受ける可能性のほうが高いという国もあります。障がいを抱える生徒が、学校や社会の障壁によって教育を受け続けることができないこともしばしばあります。また、異なる文化的価値観を植え付けられるという誤解から、子どもたちを通学させることを躊躇する民族もあります。多くの国々では、高等教育に進むほど、主要な民族の裕福層から来る男子が徐々に多数派を占めるようになっていきます。

私のハイチでの活動は、性別による差別や学校や地域社会における不平等を排除し、SDGsの目標である「持続可能な開発」を進めるための知識や技術を学ぼうとする子どもや大人の支援をしています。

私たちは、地域社会との対話や教育を通して、社会全体と協働しています。具体的には、学校の教室やその他の地域、また普段の日常的な場で、若者や成人を対象とした、様々な実習や訓練、対話活動を行っております。日常生活や人間関係のなかで、権力がどのように用いられているかという質問や、人権や社会問題、例えば女性、少女、障がい者に対する暴力などに関する問題を通してお互いに話し合うことを促しています。これにより、各地域社会に暮らす人々がネットワークを活かして、平和や非暴力の種が育つ土壌へと変えていくべく、団結を図っています。

現地スタッフと(筆者 左から2番目)

また、学校全体で、暴力や抑圧に関するデリケートな内容の会話をすることができる環境づくりにも取り組んでいます。校長や教頭をはじめとする教員から清掃員にいたるまで、学校の全スタッフに対し、安全で暴力におびえず安心して学習できる雰囲気づくりや、人間として一人一人が持つ能力が生かされるように研修が行われます。これにより、強力な連絡・連携体制が構築され、学校職員は皆の規範になるように行動するようになります。

今回お話しをさせていただいた、知恵を育み人権を尊重することのできる環境づくりを目指すハイチでの事業は、世界中で多く行われています。生涯教育や質の良い教育の機会というSDGsの目標を達成するためには、こうした私たちすべての人の努力が求められます。「どのようにしたら自分の地域社会でも質の良い教育を促進する手伝いができるのか」このような問いかけを、自分自身にしてみても良いかもしれません。 無辺の衆生を度すという誓願の一つとしてSDGsに取り組み、今後もこの問いに対する答えを深めてまいりたいと思っております。

合掌

アメリカ合衆国アイオワ州 禅フィールズ北アメリカ国際布教師 シーバート慈証

 

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