復興支援活動紹介(2)「音楽の力で地域を盛り上げたい」


今年8月4日、岩手県大槌町吉里吉里(きりきり)において、岩手県吉祥寺住職の高橋英悟さんが校長を務める「くらぶ海音(うみのおと)」と、世界的指揮者で兵庫県立芸術文化センター芸術監督の佐渡裕さん率いる「スーパーキッズ・オーケストラ(SKO)」による合同の大コンサートが開催されます。

住職の高橋英悟さんにお話を聞きました。

――最初のきっかけは一通の手紙だったのです。東日本大震災発生後、佐渡裕さんの大ファンである釜石市の旅館の女将さんが、「佐渡さんの音楽で被災地を勇気づけてほしい」と手紙を送ったところ、佐渡さん率いるSKOが駆けつけてくれたのです。

釜石だけでなく大槌町にも来てくださることになり、日頃から親交のある女将さんの紹介もあって、吉祥寺本堂でのコンサートが実現しました。

その際、私が会場主として「今、被災地の子どもたちは(SKOの)みんなのように自分の好きなことをやれる状況にはないけれど、今日みんなが私たちを励ましてくれてことを胸にとめて、いつかこの町にいる子どもたちが、みんなと同じように、好きなことを一生懸命やれるような環境にするために頑張るからね」と挨拶したことを佐渡さんが憶えていてくれたのです。

佐渡さんは知り合いの音楽家に声をかけてバイオリンを集め、10挺届けてくれました。そこから、将来この被災地からオーケストラの一員が生まれたら良いですねという話になり、大槌町や釜石市で避難生活を送る子どものバイオリン楽団「くらぶ海音」が誕生したのです。

また、佐渡さんが2回目に吉里吉里を訪れてくれた時に、こんなことを言ってくれました。

「自分も阪神・淡路大震災を経験しているから何とか力になりたい。阪神・淡路から10年後に、兵庫県立芸術文化センターが開館して芸術監督に就任し、SKOの育成も含めて、音楽も芸術も力を入れていこうとしたとき、実は自分もすごく批判された。先のことも分からないのに、何が音楽だって批判もされたけど、自分は心折れずにやってきた。だから、ここのみんなにも、負けないでやってほしい。自分も一生懸命協力しますよ」と。

佐渡さんは、世界中でタクトを振る非常に多忙な方なのに、「8月のコンサートが楽しみだ」と言ってくれていることがありがたいですね。

 

しかし、なぜ住職の高橋さんが音楽を通した復興支援活動をしているのでしょうか。

――うちのお寺も避難所になったのですが、被災したみんなが同じ状況で、大切な人を亡くしたり、財産を亡くしたりした中で寄り添って暮らしていたので、当初は泣くことすらできませんでした。自分より大変な人がいるという思いで、みんなが我慢しあっていたのです。4月に入って音楽の慰問がうちの避難所に来てくれた時に、初めてみんなで声を出してわんわんと泣きました。そこから音楽や芸術の大切さをすごく感じたのです。

また、くらぶ海音を始めて表れてきた変化も感じています。

仮設住宅は端から端までつながっているから、いつも誰かの気配がわかるのです。ぎすぎすしていた感もあったのですが、バイオリンの練習する音が響いて、和やかな雰囲気になりました。

 

音楽が皆さんの心を解きほぐしたのですね。

――とはいえ、現状では子どもたちのことは心配です。大人たちも先の見通しが立たない状況にあるので、子どもたちは心配をかけまいと、元気で頑張ろうという姿を見せてくれるのです。無理をしている。だから、大人たちがこれからしっかりとこの町に住んで、子や孫たちのために新しい町を作り上げていこうというようなきっかけに、8月のコンサートをしていけたらなと思います。元気をなくして下を向いてしまうような状況だけれど、できればみんなでしっかり前を向いていきたい。

この活動は子どもたちの笑顔を取り戻すことが目的です。笑顔が復興につながる。時間はかかると思うけれど、今生きている、生かされた命も含めて、この活動を地域に根付かせていきたいと思います。

コンサートでは、婦人会や老人会などの大人も含めて、地域の人々1,000人が一緒になって歌うことを計画しており、ただ演奏を聴くのではなく、私たち地域にいる者一人一人が参加者として進めています。これまで熱心な支援を続けてくれた方々にも、このコンサートを通して感謝の気持ちを伝えたいですね。

 

声も表情も穏やかな高橋さんでしたが、地域の人を想い、復興を願う言葉には熱いものがありました。 

8月4日のコンサートに向けて、子どもたちは毎日練習を積み重ねています。みんなの歌声が素敵なハーモニーとして鳴り響き、子どもたちに笑顔の花が咲くとき、復興への道がまた一歩開けるのではないでしょうか。

 

曹洞宗宗務庁
東日本大震災復興支援室

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