第1回曹洞禅フォトコンテスト 入賞作品

曹洞禅フォトコンテスト

最優秀賞

photocon2015_01
テーマ:お寺での光景
「托鉢の朝」
佐藤忠昭

審査員 石橋睦美先生より(以下 石橋先生)
「鶴岡市にある龍澤山善宝寺は、室町時代に太年浄椿禅師によって開創された曹洞宗の名刹です。作品は、禅寺の趣きを映す重厚な佇まいの山門を真っ正面から撮影し、点景としていままさに托鉢に出掛けようとする修行僧を配しています。このドラマチックな画面構成によって、雪が降った寒い朝の禅寺の佇まいが画面から伝わってくるのです。画面構成上で雪が大きな役を担っている映像なのですが、それを考慮した作者の発想が、この作品を秀作にした要因です。想像するに作者は善宝寺へ常に参詣し、寺内の特徴を把握していたのではないでしょうか。だからこの場面に遭遇して、即座に完成度の高い構図を描くことが出来たのだと思います。きっと撮影する前から、作者の頭の中には、映像化する上での確固たるコンセプトが描かれていたのでしょう。そして雪の降る日を待って、早朝の山門の前に出掛けてゆき、この情景が生じるのを待ったのではないでしょうか。物語性を秘めたスケール感のある素晴らしい作品に仕上がりました。」

 

優秀賞

photocon2015_02

テーマ:手を合わせたい瞬間
「祈り」
飯塚清助

石橋先生より
「滝水に打たれ、ひたすら祈りを捧げるひとりの信者をモチーフにした作品です。モノクローム画像で表現したことで、現実感が削がれ、異空間へ誘われてゆくような思いを抱かせてくれる映像です。このような情景描写では、色彩を削いだことが成功です。もし、この作品がカラーであったなら現実感が強調されてしまい、作者が表現しようとしたテーマ性が曖昧になってしまったでしょう。映像から、滝水に打たれる人の心情がひしひしと伝わってきます。それにしても、このような情景は偶然にあったのでしょうか。まるで映画の一場面を見ているように思える洗練された作品です。」

 

 photocon2015_03

テーマ:お寺での光景
「師弟」
Zen monk in France

石橋先生より
「撮影地はイタリアのサルソマジョーレ市に建つ正法山普伝寺です。曹洞宗の禅寺で、禅の修行は勿論ですが、禅についての研究もおこなわれているそうです。それにしても道元禅師を祖にする日本の曹洞宗が、世界に広がっていることを教えてくれる作品です。さて作品ですが、薄闇に包まれる室内で、師から教えを受ける僧の表情を、電燈と蝋燭のわずかな明かりの中に浮かび上がらせるように描き出しています。師と弟子の画面内での配置がよく、この場の静寂と張りつめた空気感が画面から伝わってきます。最優秀賞に選ばれた作品と、甲乙つけがたい素晴らしい作品です。」

 

 photocon2015_04

テーマ:お寺での光景
「雨の聲」
緑川邦夫

石橋先生より
「激しく雨が降る日の撮影だったのでしょう。四体の石地蔵は濡れて黒光りしています。その石地蔵の表情がとても穏やかで、作品を見ているだけで人々の辛苦を救ってくれるような思いになります。この作品の作者は、かなり撮影技術にたけている方ではないでしょうか。ピント位置が実に的確なのです。あえてパンフォーカスを避けて、一体の石地蔵だけにピントを合わせています。それにより、ピントが合った石地蔵だけが画面上に浮き上がり、撮影意図を際立たせるような効果をつくり出しています。さらに雨の強い日を選んで撮影していることで、想像性と現実性がほどよく調和した映像になったのです。」

 

 photocon2015_05

テーマ:お寺での光景
「みつめる」
峯岸誠一

石橋先生より
「タイトルが示すがごとく修行僧の眼差しに魅せられる映像です。作者は、これから總持寺を出て、寒行托鉢へ出掛ける清らかな顔立ちをした僧の眼差しに焦点を合わせ、クローズアップしています。この映像から滲み出て来るのは、修行の厳しさと云うよりは、修行によって得られる心の清浄さのように思えます。作品を見ていると、無駄をすべて省いたシンプルな画面構成から、作者が表現しようとする禅の心が伝わって来るように思えてきます。審査の初期から、入賞すると決めていた作品です。」

 

photocon2015_06

テーマ:手を合わせたい瞬間
「祈り」
宮森義雄

石橋先生より
「モノクロームの映像は色彩を削いでいるせいで、作者の撮影意図が直接的に伝わってきます。それだけに撮影テーマが問われることになります。この作品のタイトルは祈りです。仏像の手に触れる数珠を持つ老婆の手、それだけをクローズアップした構図が成功しています。映像から必死に祈りを捧げる人の思いが伝わってくるのです。仏像になにを祈るのか、老婆の祈りを推量ることは出来ませんが、作品を見るひとりひとりによって異なる想像が描かれるのです。作品から、仏に祈りを捧げることの大切さを教えてくれるような映像です。」

 

 キヤノン特別賞

photocon2015_07

テーマ:お寺での光景
「プラカードにもピントをうばわれ」
佐伯優

石橋先生より
「總持寺の境内で出会ったユニークな情景を、ストレートに表現しています。きっと暑い日だったのでしょう。参詣に訪れた人びとが、かき氷を食べようと列を成した。それを整理するお坊さんの表情を見ていると、思わず笑みがこぼれてしまいます。これも修行でしょう。」

 

photocon2015_08

テーマ:お寺での光景
「祈りよ届け!手も届け!」
佐竹敦子

 石橋先生より
「6年前、1歳の時の撮影だそうです。西福寺へお参りに行って、鰐口紐を一生懸命振って音を出そうとするのですが、力が弱くて音が出ない。子どもの必死で健気な姿が映像から感じ取れます。母の優しい目線で撮影したからなのです。」

 

 photocon2015_09

テーマ:お寺での光景
「祈りの光り」
鈴木康之

石橋先生より
「豊川稲荷の祭礼なのでしょう。御霊供養の提灯に蝋燭の灯りを入れる祭事の情景を撮影した作品です。母と娘でしょうか。その眼差しは灯そうとする提灯に向いています。仏への真摯な思いが伝わってくる作品です。」

 

 photocon2015_10

テーマ:お寺での光景
「副々住職」
本間梢

石橋先生より
「由利本庄市の恵林寺の飼い猫です。人なつっこい性格で、お参りに来る方がたの接待役だそうです。副々住職だそうですから、このお寺では3番目に偉いと言うことになるのでしょう。この状態は愛猫キキちゃんにとって、禅修行の最中なのかもしれません。」

 

photocon2015_11

テーマ:手を合わせたい瞬間
「無心」
柳原薫彦

石橋先生より
「今年、7年振りに善光寺ではご開帳がおこなわれ、本堂前に回向柱が建ちました。この柱に触れることで、御本尊の阿弥陀如来と結ばれると言われます。老人の手は一身に回向柱に祈りを捧げている。その情景が見事に写しだされました。」

 

入賞

photocon2015_12

テーマ:お寺での光景
「坐禅会」
有田勉

 

photocon2015_13

テーマ:手を合わせたい瞬間
「手を合わせたい瞬間」
井川豊

 

photocon2015_14

テーマ:お寺での光景
「吹禅」
市川秀明

 

photocon2015_15

テーマ:お寺での光景
「小食終えて」
岸孝則 

 

photocon2015_16

テーマ:お寺での光景
「日々是好日」
サカシタヤマト

 

photocon2015_17

テーマ:手を合わせたい瞬間
「梅粥~彼の来処を量る~」
髙梨尚之

 

photocon2015_18

テーマ:お寺での光景
「風に吹かれて」
ななしのごんべい

 

photocon2015_19

テーマ:お寺での光景
「浄光」
丹羽恭一

 

photocon2015_20

テーマ:お寺での光景
「一期一会」
野崎悠

 

photocon2015_21

テーマ:お寺での光景
「祈り」
ひでふみ

 

photocon2015_22r

テーマ:お寺での光景
「僧侶への道」
平野昌子

 

photocon2015_23

テーマ:お寺での光景
「田楽」
藤村政憲

 

SONY DSC

テーマ:お寺での光景
「火わたり行」
藤吉修忠

 

photocon2015_25

テーマ:手を合わせたい瞬間
「秋の宵」
堀島信之

 

photocon2015_26r

テーマ:お寺での光景
「梵鐘の祈り」
武藤仁

 

総評

応募テーマが、「お寺の光景」と「手を合わせたい瞬間」とする、曹洞宗主催によるフォトコンテストは今年が第1回目です。最初のフォトコンテストということもあり、どれほどの応募があるのか把握できなかったのですが、予想を大幅に上回る1200点を越す作品が寄せられました。

私は審査日に応募されたプリント作品すべてを拝見したのですが、驚いたことに実にレベルの高い作品が寄せられていたのです。応募作品には作者による撮影コンセプトが記されているのですが、映像を見ながら一枚一枚それを読んでゆくと、作者それぞれの作品に対する思いが書き記されていて、それが作品レベルを高くしているのだと思いました。

審査手順ですが、まず予選をおこない作品価値の高いものを選び出しました。その作業を終えた後、共通するモチーフの作品を区分けして、中から秀作を選び出すことにしました。さらに似通った被写体を撮影した作品群から、最終的な選定をおこない、入賞候補作品を厳選していったのです。

今回審査を通して感じたのは、どの作品も画角の中で被写体が生き生きと描かれていることです。それは構図が良いということに繋がるのですが、映像を成す基本に、表現しようとするものへの確固たる信念があってカメラを向けているからなのです。

こうして選び出された作品が出揃ったのですが、それはそれは素晴らしい作品ばかりになりました。最優秀作品と優秀作品は構図や撮影意図などを考慮した上で、重厚かつフォトジェニックな作品を選びました。しかしキヤノン賞については、どちらかというと、軽妙な表現が成されたものに重点を置きました。その他の入選作品は、これらの賞の次点にランク付けされるのですが、どの作品も見応えがあります。次回も、今年に勝る作品を寄せていただくことを期待いたしております。

審査員 石橋睦美