宗務総長談話(懺悔と平和実現へ向けての誓願)

2011.01.26

  

内山愚童師没後百年を経ての曹洞宗宗務総長談話
 懺悔と平和実現へ向けての誓願

 

2011 ( 平成23 ) 年1月24日

 明治44( 1911 ) 年1月24日、「仏種を植える」ことと「死ぬ積りで人を救う」ことに仏者としての生涯をかけていたひとりの僧侶が生命を奪われてから、今日で百年が経過しました。時の国家の政治的意図によって、皇太子の暗殺計画( 大逆事件) に関与したという汚名を着せられて36歳の若さで処刑されたのです。
 その僧侶の名前は、内山愚童師、神奈川県箱根町・林泉寺第二十世天室愚童和尚その人です。


 当時の宗門は愚童師に対して、この大逆事件が発覚する以前に「犯罪者」「宗旨に背く者」として烙印を押しつけ、宗内擯斥という教団永久追放処分を科し、宗侶としての誇りと生命を奪いました。大逆事件そのものが、実態として存在した組織的犯罪ではなく、愚童師を含む多くの被告が罪なくして断罪されたことが、敗戦後明らかになりました。とくに愚童師生前の行実については、むしろ私ども宗侶が模範とすべきすぐれた仏者であったことが見直されました。すでに遅きに失した観がありますが、1993 ( 平成5 ) 年4月には、愚童師への処分そのものを取り消し、83年ぶりに師の名誉回復を公表しました。さらに宗門は愚童師の先覚的仏者としての追悼と師への懺謝のため、2005 ( 平成17 ) 年4 月に、林泉寺の墓所に「顕彰碑」等を建立し、除幕の式典と追悼の法要とを挙行し、師の行実とその願いを宗侶それぞれの胸に刻みつけました。
 内山愚童師が自らの身命を賭して植えた仏の種は、ある時はまったく無視されたり誤解されてきました。師の没後百年を経て、その仏種は静かに根を張りめぐらせ、幹を太くし、枝葉を繁らせ新たな花実を結びつつあります。

 本日、愚童師の没後百一年目の初日を迎えました。曹洞宗は、来し方の百年間をあらためて反省・懺悔し、愚童師が自らを捧げて蒔いた仏種を守り育てたいと思います。私どもは師にならい、日日の営みを通して、衆生と世界の苦楽にまっすぐに向き合い、平和と、社会的差別を解決できる世界を実現すべく、人間の尊厳を支え合うささやかな縁となる誓願に生きます。 

曹洞宗宗務総長 佐々木 孝一

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