復興支援活動紹介(15)いのちを守る森の防潮堤作りの紹介

2014.08.27

20140827_5森や自然の力を利用して、復興、防災、減災に取り組んでいる僧侶がいます。宮城県輪王寺住職であり、「いのちを守る森の防潮堤推進東北協議会」の会長である日置道隆さんにお話を伺いました。

この活動を始めるきっかけについて伺います。

――平成15年にお寺の参道を横切る形でトンネル工事計画が決定し、それに伴い参道の杉並木550本が伐採されることになりました。伐採した後のことを考え、植樹や生態学についての本を読むようになりました。そんな折に知ったのが、「宮脇方式」と呼ばれる土地本来の木々を植えることによる本物の森作りを提唱されている横浜国立大学名誉教授、宮脇昭先生だったのです。この方法で参道に森を作りたいと考え、先生に連絡を取りました。宮脇先生ご指導のもと、平成16年より8年掛けて約60種類33,000本の木々を植え、限りなく自然に近い森を参道沿いに作ることができました。

平成23年3月11日東日本大震災が発生し、沿岸部は津波により壊滅的な被害を受けました。震災から1か月近く経ったある日、宮脇先生から「被災地の沿岸部に宮脇方式を用いて、森の防潮堤作りを計画しているから協力して欲しい」との電話がありました。この電話が「いのちを守る森の防潮堤推進東北協議会」を立ち上げるきっかけだったのです。

森の防潮堤とはどのようなものでしょうか。

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資料提供 輪王寺

――端的に言えば、コンクリートや木材などの被災瓦礫を活かし、瓦礫を土と混ぜて高台を造成します。そこに高い木から低い木、様ざまな種類の常緑広葉樹を主体とした土地本来の木々を防潮林として植えます。
こうして植えられた木々は、年数を重ねて成長すると共に強固なものになり、生命のサイクルにより次の氷河期が来るとされる9,000年先まで森の防潮堤としての役割を果たしてくれると考えられています。この森の防潮堤の特徴は、地中深くまっすぐ根を張る「直根性」、「深根性」のその土地本来の木々を植え、根が瓦礫を抱き基礎部分が強化されるため、倒壊しにくいことです。また、森の防潮堤を超える高さの津波が来たとしても木々が津波エネルギーを減殺し、水位を低下させ、内陸への到達時間を遅らせることができます。例え津波に飲み込まれたとしても、密集した木々がフェンスのような役割を果たし、人や財産を捕捉するため、命が救われる可能性が高まります。この復興事業によって、瓦礫処理の問題を解決することができますし、生態系を壊すことや景観を損なうこともありません。現在、岩沼市の沿岸部約1.5kmに渡り「千年希望の丘」として森の防潮堤を造成しています。

森の防潮堤はどのようにして作られるのでしょうか。

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津波を被りながら釈然と生き残るタブノキ

――まず、沿岸部の森作りに適した樹種を判定するため、津波被災地の植生調査から始めました。かつて日本を襲った阪神淡路大震災の際、様ざまな場所で火事が起こる中、土地本来の木であるアラカシやネズミモチなどで囲まれた家や公園のまわりは火事が広がることなく、そこに避難した多くの命が救われました。これらの木々は高い防災力があるということが証明されたのです。宮城県の沿岸部にも防災林として松が植えてありましたが、根が浅いため今回の震災ではほとんどなぎ倒されてしまい、防潮林としての機能を果たさなかっただけでなく、危険物となり被害を拡大させてしまいました。しかし、宮脇方式で植樹されていた場所では、木々が津波で押し寄せられた瓦礫を止めるなど、防潮林としての役割を果たしていたのです。

そこで、被災現場に赴き、津波を被り土がえぐられながらも倒れず枯れることもなく、しっかりと根を張り生き残った木はどんな種類の木だったのかということを徹底的に調査しました。その結果、タブノキやアラカシなど約15種類の沿岸部に本来存在する常緑広葉樹であることが分かりました。その種子を自生する木から集め、お寺にあるビニールハウスで育てています。芽が出てある程度の大きさの苗になれば、造成した高台に植えます。最初の数年間は草取りなどの手入れを必要としますが、その後は自然の掟に従い成長し、手入れの必要がなくなります。およそ20年を経て成長した木々は多様性のある自然に近い森となり、森の防潮堤となるのです。苗木の育成には東北福祉大学にも協力していただいています。

活動をされる中で感じたことについて伺います。

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平成26年「千年希望の丘」植樹祭に4500人が参加

――最初この計画を聞かせていただいた時、理に適った計画であるが故に行政からもすぐに採用されると思いました。事実、復興会議の場や被災地の自治体において、政治家や行政の方に説明した際も多くの方が熱心に耳を傾け、賛同してくれたのですが、いざ実行しようとすると「廃棄物処理の法律では焼却が原則である」という法の壁が立ちはだかり、前に進めない状況が続きました。そんな中、国の復興計画では巨大コンクリートによる防潮堤計画が進められていたのです。コンクリートの防潮堤を全て否定するわけではありません。場所によってはそうでなければならない所もあります。しかし全ての沿岸部にコンクリートの防潮堤をという画一的な構想は人間性や自然の成り立ちを無視した危険なものであり、森の防潮堤と組み合わせる方法もあるはずだと思いました。それでも宮脇先生は「簡単に認められたらつまらない、そこにある壁を乗り越えるから面白い。」と、一歩ずつ進んでいきました。その後も環境省や関係機関に赴き説明を行うなど地道に活動を続けた結果、1年後には試験植樹を行うことができたのです。

活動を始めて今年で4年目になりますが、苗木を寄付していただいたNPO法人や、苗木を植える時に必要な竹を何万本も寄付していただいたご寺院様など、多くの方がたの賛同をいただき、支援を受けることができました。そして植樹祭の際では、たくさんの方がたに参加していただいたからこそ、約10万本もの苗木を植えることができたのだと思います。

最終的にはどのような形になっていくのでしょうか。

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主木となるタブノキ

――この森の防潮堤はすぐ効果が出るものではありませんし時間もかかりますが、完成すれば半永久的に私達の大切な命や財産や心を守ってくれます。今年の3月に海岸法の改正が閣議決定され、8月10日より法が施行されました。最初はなかなか採用されませんでしたが、今では林野庁や国土交通省主導で試験植栽が行われていますし、岩沼市以外の地域でも森の防潮堤造成に向けた植樹活動が始まっています。いずれは東北の北から南の沿岸部まで、いろいろな形の森の防潮堤ができれば素晴らしいことですし、自然を活かした防災減災の実例として世界に発信できるものであると確信しています。実現まで、まだまだ時間はかかりますが東北の沿岸部が緑で溢れるその日まで、木を植えていこうと思います。

この度の東日本大震災では、各地で約7割のコンクリート防潮堤が破壊されるなど、人工物だけで災害を乗り切ることの限界を露呈しました。その教訓を次世代に残すべく、森の防潮堤作りは進められています。

災害時には大切な命や財産を守り、平常時には憩いの場として訪れる人びとを癒してくれる「いのちを守る森の防潮堤」を未来の世代に残すべく、日置さん達の活動はこれからも続きます。

いのちを守る森の防潮堤ホームページ