復興支援活動紹介(3)「カフェ・デ・モンク」

2013.08.08

モンク(英語でいうお坊さんのこと)にあれこれ「文句」の一つも言いながら、ちょっと一息つきませんか?お坊さんも、あなたの「文句」を聴きながら一緒に「悶苦(もんく)」します。移動式の喫茶店「カフェ・デ・モンク」を運営しながら、被災者の話に耳を傾け、その心に寄り添い続けている僧侶がいます。

仮設住宅での傾聴活動に参加させていただき、
宮城県通大寺住職の金田諦應さんにお話を伺いました。

たくさんの人がカフェ・デ・モンクにおいでになり、大変にぎやかでしたね。

――そうですね。しかし、皆さんニコニコしているように見えるけど、心で泣いている人は多いですよ。今日もそういう人はいっぱいいました。あのにぎやかさの中から、悲しみだとか苦しみの真実の声を聴き取っていくことが、僧侶のつとめだと思っています。

重い悩みや答えが出ないものもありますが、それは我々に対する宿題だと思う。どうその苦悩に応えていくのか。それは問答であり現成公案なのです。だから、私にとってあの空間は禅堂と一緒なんですよ。現場こそ禅堂であり、現場こそ両祖様のいらっしゃる場所なのだと思いながら今までやってきました。私もなかなか答えられないこともありますが、向き合うということ、寄り添うということは「あなたの苦しみや悩みを全部引き受けますよ、答えを一緒に探しましょう」ということだと思っています。だからカフェ・デ・モンクのモンクっていうのは、悶苦、お坊さんも一緒に苦しむぞって。苦しむんです。


カフェ・デ・モンクの「モンク」にはいろんな意味が込められているのですね。

――活動にはいろいろ工夫を凝らしてあります。少しでも明るい気持ちになってもらいたいし、そのためには、遊び心もなければいけないなと思って。

かけている音楽も、セロニアス・モンクという、私が好きなジャズピアニストのものです。それまでのジャズは同じテンポでリズムを刻むものでしたが、そこにアレンジを加えて、遊びを入れて、今までの路線を崩した人なんです。だからカフェ・デ・モンクでかける音楽はセロニアス・モンク、スピーカーはボーズと、遊び心を入れました。それが話のきっかけになることもあるし、悩みながら考えながら工夫を重ねてきました。

私はもともと音楽が好きで、演奏もやっているのですが、ライブというのは演奏者と聴衆との合作なんですよ。しかも即興。ある意味、傾聴活動というのは音楽と一緒で、「即興の芸術」だと思うのです。その場からかもし出される被災者からのサインを見て、自分の中に取り込んで、話し手と聴き手との掛け合いをとおして、一つの物語にしていくのです。それは音楽のメロディーを作っていくことといっしょです。

 
一言で「傾聴」と言っても、深いものなのですね。ところで、何をきっかけにこの活動を始められたのでしょうか。

――東日本大震災が起きたとき、かなりの人が亡くなると直感しました。ものすごく辛いことでした。それから火葬場でのボランティアを行いながら、被災地に入るタイミングを見計らっていました。四十九日が来て、火葬場でのボランティアがひと段落した時に、牧師さんとか宗派や宗教を超えた様々な人たちと一緒に被災地に入って、慰霊の行脚をしたのです。瓦礫の中に写真もちらばっているような状況で、そこかしこから叫び声が聞こえてくるようでした。その時に、これまで学んできたものがどんどん剥げ落ちていくのを感じたのです。「全然何も見えない。何だったのだ、今までの自分は。どういう風に向き合ったらいいのだ、この現実に」と。

教義という枠の中に現実を押し込めないで、現実という際限のない枠の中に、自分が入って行かなければという思いを抱きました。この活動の前は自死の問題に取り組んでいたので、最終的には心の問題になることがわかっていましたから、「すぐに動かなければ」と思ったわけですが、いつも無我夢中でしたね。


活動を通して、いま、どのようなことをお考えですか。

――結局最後の教科書は人です。臨床医の最高の先生は患者さんであるということと同じように、悩める衆生の声をどのように聴いていくか。衆生の声なき声、体から発せられる声をどのように聴いていくかが一番の教科書だと思うのです。

被災された方々というのは衆生です。維摩経に「一切衆生病めるを以て、是の故に我病む。」とありますね。

参禅して、勉強もして、だけどそこから一歩踏み出さないと、教科書に書いてあること、教えを自分のものとして理解できないと思う。本当に教学だとかそういうものが現地にはあるんですよ。その中でいっぱい学ぶ事はあるんです。それは学問にも言葉にもならない。でも最後は一言一句、肌で感じる事ですから。

最初はおじけづくかもしれない。固まってしまって何もできないかもしれないけど、動かないことには何も始まらないと思うのです。寄り添うということには苦しみもつきまとうし、世の中失敗することもあります。でもね、真剣にやっているなと思ってもらえれば、許してくれるし指摘もしてくれる。何故ならば、お坊さんにはスピリットがあるから。お坊さんにしかできない事と分かってくれているから。

苦しみに寄り添っておたおたして、悩むこと自体がスタートだと思うので、若い人にはとにかく被災地に来て、一緒に悩む努力から始めてほしいなと思いますね。

 

カフェ・デ・モンクに誰も来なくなる日が来る事を祈りながら、今も金田さんは精力的に活動されています。金田さんたちの活動はさまざまに発展し、ラジオ番組にもなっておりますので、ぜひお聴きください。なお、これまでの番組はインターネットからもお聴きいただけます。

Date fm - エフエム仙台 77.1MHz
カフェ・デ・モンク  毎週土曜日の朝9:30~9:55
http://www.datefm.co.jp/timetable/

 心の相談室(インターネットから視聴)
http://www.sal.tohoku.ac.jp/kokoro/diary.cgi?field=8
このラジオ番組は書籍にもなっておりますので、是非ご購読ください。
「ラジオ Café de Monk(カフェ・デ・モンク) 震災後を生きるヒント」

さらに、金田さんや仲間の方々の活動がきっかけとなり、医療機関や福祉施設などで公共的な役割を果たす宗教者「臨床宗教師」養成のため、現在、東北大学に「実践宗教学寄附講座」が開設されています。このような講座が国立大学に設置されるのは初めてのことであり、3年間の予定で運営されることとなっております。詳しくは、下記にアクセスしてください。

東北大学大学院文学研究科 実践宗教学寄附講座
http://www.sal.tohoku.ac.jp/p-religion/diarypro/diary.cgi

曹洞宗宗務庁
東日本大震災復興支援室

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