迷える中年ライターが『修証義』を書き写してみた ~曹洞宗のお経を一般人が読むと?(第4章・第19節)~


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初めて触れる『修証義しゅしょうぎ』の本文を読み、鉛筆を手に書き写し、また現代語訳を読む中で感じた事を率直に語っていきます。第19回は、第4章「発願利生」の第19節について。

honbun第19節 「一切衆生の導師いっさいしゅじょう どうしなり」

■ライターはこう思いました

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ライター 渡辺ロイさん

大変ショッキングといいますか。
かなり「うーん」と唸ってしまうフレーズが出てくるのが、この節です。
できればもう一度ひとつ前の第18節から読み直して、この節とあわせて2つ、通して心に留めたいと思いました。

何がショッキングかといえば、このフレーズです。
たと七歳しちさい女流にょりゅうなりともすなわ四衆ししゅ導師どうしなり」

現代語訳では、菩提心(自分よりもまず他人を救おうという気持ち)を起こせば、どんな人でも指導者となりえると説いた後、それがたとえ幼い少女であっても、あらゆる人々の良き導き手となる、と言っています。

前節を、人がいかに自分の功利に流されやすいか、そのために菩提心を発するのがいかに難しいか、と読んできました。
禅僧からのお返事も、非常に難しい側面があり、だから誓いを立てることを心がけて生きていくことこそが大事だ、とおっしゃっています。
それほどまでに難しい(といえる)菩提心。
もしそれを7歳の女の子が発現させることができたなら、それはもう「導師である」とまで言っているのです。
さらには、人々の慈父ともいえる存在となり得るし、男女も関係ないのだ、と。
言い切っているのです。

誤解を恐れずにいうなら、設い七歳の女流なりとも……のフレーズには、空恐ろしさすら感じてしまいます。
それは、菩提心がいかに重要で、そして困難であるかを強く感じさせるとともに、7歳の少女ですら菩提心を発することは決して不可能ではないと言外に伝えようとしているからです。

鍛えたり、トレーニングをしたりすることで成し得ることはあります。
長い時間をかけて習得しうる技術も存在します。
でも、菩提心はそういう時間経過やバックボーンを超越して発することができ、でもとても難しいことなのだ、ということがじわじわと骨身に沁みてきます。
誰にでも可能であり、しかし大変困難。
それがリアルに感じられるから、空恐ろしさを感じてしまうのです。

日々の弛まぬ鍛錬の結果として、記録を残したり勝ったりするアスリートに、私たちは尊敬の念を抱きます。
でも、菩提心を発することとなった少女に対しては、どうでしょう。
トレーニングの厳しさを語る鍛え上げられた肉体を見て「わかりやすく尊敬の念を抱く」ことと、一見普通の少女が内面に抱く菩提心に尊敬の念を抱くこと。
その少女を自分の導き手として認識ができるかどうか。
自分が菩提心を発することができるか以前に、そのあたりもまだまだ足りない気がしてしまいます。
なんとも、ショッキングな節なのでした。

 

■禅僧がライターへこう応えました

頭で理解できることと、実践できるかどうかの間には、実に大きな隔たりがあります。そして、実践していくことにこそ価値を見出すのが禅の教えの基本姿勢です。
7歳の女の子が導師になれるという言い方は、修証義が作られた明治時代の社会通念からすればオドロキの言い回しです。それに当時は数え年でしょうから、今でいえば5~6歳。でも、よくよく考えれば、修証義の実践は、7歳の子供でも出来ることの範囲の中でしか語られていないものだとも言えるでしょう。
そして、禅が考える「理想の自分」は、経験や知識、そして修行の「足し算」の末に得られるものではなく、「むさぼり」「いかり」「おろかさ」という煩悩を「引き算」することによって立ち現れるものです。
体力や腕力、そして蓄積した知識や経験など、これを得てしまった大人から見れば、「7歳の少女が導師」という想定はショッキングなものかもしれませんが、自分が子供だったときを思い出して、「あの頃の自分でも出来ることの中にだけ、修証義の実践はあるのだ」と捉えれば、逆に実にシンプルに受け止められるものだと思います。

ロイさん、菩提心はそんなに難しく考える必要のない、誰にでもあるもっと素直なものですよ。
そして何より、無いものを出そうというのではなく、あるものを出そうという事です。
そのためには、出てこなくなっている(引っかかっている)要因である煩悩を取り除けばいいのです。

 

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