「能登地域寺院調査 現地報告会」に参画して ~過疎問題を考える~(第1回)

2018.05.16

「能登地域寺院調査 現地報告会」に参画して ~過疎問題を考える~(第1回)

報告者:平子泰弘(曹洞宗広報委員)

 はじめに
平成29年8月末に能登地域の寺院を対象にしての寺院調査が行われました。これは浄土真宗本願寺派や真宗大谷派を中心にし、超宗派の研究員が協働し、過疎対策への取り組みとして行われたものでした。調査終了後、数回の分析及び検討会議を経てとりまとめられた調査結果を、まずは協力いただいた能登地域の寺院関係者に報告すべく、七尾市にて現地報告会が開催されました。
ここでは、報告された調査結果の概要とともに、現地報告会の様子やそこで出てきた意見なども含めてレポートします。(連載第2回はコチラから)


  現地報告会の様子
現地報告会は平成30年3月13日、七尾市の真宗大谷派能登教務所を会場に「能登から、お寺と地域の未来を創造する ~他出子・他出者への対応について~」をテーマとして開催されました。

調査では、各寺院の活動状況や檀信徒との関わりや問題点をたずねました。また一部地域では寺院周辺の住民の意見も聴取しました。現地報告会は、それらを集計して報告するだけでなく、これから過疎が進んでいくなかで、寺院を取りまく地域を考えていく機会にしたいとの、主催者側の意図が組み込まれた内容となりました。

当日は少し肌寒い気候でしたが、100名ほどの住職や坊守(寺族)、寺院関係者が参加しました。
報告会は調査に携わった4名の研究者が集計・分析の結果報告を行う前半部分と、参加者がグループに分かれて意見交換を行うワークショップの後半部分から構成されていました。3時間に及ぶ報告会となりましたが、「まだまだ情報交換の時間が欲しい」との意見もあり、有意義な会となりました。


 調査から浮かび上がる課題とは?(概要報告)
調査の報告として4名の研究者が、それぞれの視点から報告を行いました。
はじめに那須公昭先生(浄土真宗本願寺派総合研究所研究員)から、寺院の状況を集計した結果が紹介され、そこから浮かび上がる課題が提示されました。

まずは、今回の調査に至った経緯や、この報告会にて他出子(他出者)に注目する意図が紹介されました。人口減少とともに、地域の若い世代が郷里を離れていく現状があります。そうした地元を離れた他出子(他出者)と寺院とのつながりが、これからの過疎地の寺院における運営や教化を考える上で重要な課題となります。これは今回の報告会の副題としても盛り込まれました。
つぎに、調査結果の概要が示されました。データでは、各寺院の年中行事や年回法要などが以前と変わりなく行われており、他の地方に比べても一見盛んであるように見えました。しかし一方で、「年回法要が継続的に営まれなくなっている」「行事の運営が危うくなりつつある」との危機意識を感じることが、大きな問題として指摘されました。
また、分析によれば、年回法要の告知の有無が、法要の実施率に大きく影響することが分かりました。さらに、この地域では伝統的なつながりが色濃く残っており、それが寺院を含めた周辺地域の関係維持に重要な役割を果たしている、と報告されました。
こうしたことをふまえて、地域のつながりが薄れていく時代には、寺院とのつながりをどのように結び続けていけるかが課題であり、特に故郷を離れてしまった檀信徒への対応が必須である、との提案が行われました。

 

 他出子・他出者の動向
最初の概要報告と提案をふまえ、次に徳田剛先生(大谷大学文学部社会学科准教授)より、地元を離れる檀信徒の動向に注目して、「他出子・他出者の動向 ―移動者と寺院の関わりから考える―」と題した報告がありました。地域社会学を専門とし、移動者と宗教の関わりを調査研究してきた先生の分析により、過疎地の寺院が抱える問題と課題が明らかにされました。

調査では、この地域は人口減少が進んでいるものの、地域コミュニティも寺院もよく維持されていること、しかし維持されている現状の状態では将来の見通しが非常に厳しいことが示されました。こうした見通しのなかで当面の取り組みとしてどのような考え方をすれば良いかを提案されました。
それは、これまでの寺檀関係は人々が移動しないことを前提に成立している仕組みであり、今後は「移動を前提にした寺院・地域の護持のあり方」を考えていかなければならない、との提案でした。
また、国や自治体が考えるような、外からの流入人口への対策や取り込みは、各地域や寺院で担えるものではないことをふまえれば、既存の寺院構成員である檀徒・信徒とのつながりを強化していくことが重要な取り組みとして考えられます。その場合、地域外に暮らす檀徒・信徒をどのように位置づけ、働きかけていくかが重要になると指摘されました。
上記のような視点を通して、子ども世代の仏事・寺院との関わりについて、分析結果から見えてきたことが紹介されました。そこでは葬儀のような親族の重要儀式については離郷の距離に関係なく積極的な関与が見られるが、お盆や新年参賀、年回法要などになると、県外など遠方な人ほど関わり方が薄くなり、報恩講などの寺院行事に他出子がほとんど関わらないという結果でした。

他出子との関わり合いが皆無ではないこの地域の現状をふまえれば、他出子への対応が寺檀関係の持続可能にも影響すると考えられ、寺院や地域とのつながりを更に濃くしていけるような取り組みが今後求められると指摘されました。
各家庭では仏事の継承が危ぶまれていることが問題となっていますが、一方で子どもの世代が地元を離れる傾向の強い地域においては、寺院と他出子のつながりをどのように確保していくかが今後の課題である、との示唆をいただく報告でありました。

 

 信者から見るお寺のあり方
続いては、今回の調査において行われた住民調査の結果を集計した猪瀬優理先生(龍谷大学社会学部准教授)から「信者からみるお寺のあり方」の報告が行われました。夏の調査時には、寺院関係者だけでなく一部地域の住民(信者)からも聞き取り調査を行っており、家族の状況や、寺との関わり合いや意識に関する調査結果から、「信者の視点から見た寺院のあり方」を丁寧に解説されました。

報告では数年前に同じように調査された広島県三次市作木地区での調査結果との比較が行われました。「お寺はどういう点で必要か」との問いについては、「法事や葬儀の場所として」の寺院、「お墓の面倒を見てくれる存在」などの回答が多く、一方で「個人的な相談に乗ってもらう場所として」の寺院は両地域ともに少ない傾向が報告されました。ここから、やはり信者から見たお寺は、死者の供養に際しての役割が主であることが確認できました。また、寺院へお参りする機会についても、年回法要時と寺院行事がほとんどとの結果が見られました。
また、お寺への期待やイメージなど人々の考えている意識についても集計をされ報告されました。両地区に見られる共通の期待としては、「お寺の継続を願う気持ち」「若い世代が集まってくれるお寺になることを願う気持ち」「高齢化への対応を望む声」があり、ネガティブな要素として「布施等の負担感」という回答が多いと報告されました。
さらに相違点に関する分析については、当然ながら、寺院の置かれた地理的条件に左右されたり、文化的背景によっても異なることが分かりました。
まとめとして、「信者に求められるお寺になる」には、

①これまでのお寺と地域、信者との関係や、寺院活動などを再確認すること
②これからも継続が求められることを見出すこと
③信者の「要求」や「必要」をくみ取り、必要に応じて柔軟に対応すること
これら3点の必要性を示されました。

また、「変化」とその影響に対して常に注意を払う意識が必要であり、一方的な関係でなく、信者との双方向的な関係を作ることが大切である、との指摘がなされました。さらに将来を考えるポイントとして、お寺の「将来の目標・目的」(どのようなお寺になりたいか、何のためにお寺を継続するのか)をある程度明確にして、信者と共有することが重要である、との提案もいただきました。
信者あっての寺院の存立を考えていく視点を、各住職が持つことを、強く感じさせる発表でした。