【人権フォーラム】「差別図書」完全回収に向けてご協力を

2019.04.03

曹洞宗が部落差別問題・人権問題にとりくむ契機となったのは、1979(昭和54)年にアメリカのプリンストンで開催された、「第3回世界宗教者平和会議」における差別発言事件です。この事件によって日本の宗教界、仏教会全体の差別体質が大きく問われ、曹洞宗も部落解放同盟からの確認、糾弾を受ける中で「差別戒名」の存在や宗門僧侶が身元調査による結婚差別に加担していた事実、そして「差別図書」の存在等を指摘され、調査の結果、その事実を確認しました。
曹洞宗では前述の3つの問題について、宗門をあげて取り組むことを社会に約束いたしました。
その中でも「差別図書」については、広く回収をお願いしてきましたが、いまだ完全回収となっていないのが現状です。


現在、曹洞宗では「差別図書」として次の4種を回収対象としております。
『禅門曹洞法語全集・坤』は、道元禅師や瑩山禅師をはじめとする各祖師の方の名が著されている書籍ですが、この中に「差別戒名」の付け方の手引き書である『禅門小僧訓』が収録されております。


『禅門小僧訓』は、無住道人という曹洞宗の僧侶と思われる人が著したとされ、差別戒名の授与にかかる詳細な説明がされており、「『穢多』などの被差別民は、すでに日本の慣習として『非人』の類であり、卑賤視されているのだから、『一般人』と同じように戒法を授け、『一般人』と見間違うような戒名を授与したりすれば、『世間』から非難されるだろう。だから、きちんと『差別戒名』を付けるべきである」と書かれており、差別戒名の授与を助長させてしまいました。
『洞上室内切紙参話研究並秘録』は、僧侶が師から代々伝える「切紙」をまとめたものですが、こちらも『禅門小僧訓』と同じように、被差別部落の人々やハンセン病者、障害のある方々に対して、葬儀の際に一般の人と比べて差別した方法で儀礼を行わなければならないと書かれております。
『曹洞宗全書・拾遺』も同様の切紙が収録されていることや「差別儀礼」を修行せよと指導されております。
『曹洞宗修証義説教大全』は、『曹洞宗報』において1899(明治32)年から1902(明治35)年まで連載された『修証義』の解説を合本したものですが、部落差別だけでなく、身分、職業、性、民族差別などを助長するような説教が収録されておりました。例えば「『種姓』といふは、天竺には四姓といふて、波羅門、刹帝利、毘舎、首陀と稱する四通の人民の階級がある、丁度日本の古代の源平藤橘の四姓、徳川幕府時代の士農工商の階級のやうなものである、そのほかに『旃陀羅』といふて日本の昔の『穢多』のような位階があって、身分の高い者は低い者を牛馬犬猫同様に扱ふ風があった」という箇所がありますが、そこには「穢多」という差別語が使われているだけでなく、それを「旃陀羅」(インドの被差別民衆、チャンダーラの漢訳)とされた人々にあてはめており、身分制度や差別に対して何の批判もなく、記載されております。


これらの図書は、現在も人権擁護推進本部で回収を進めており、回収状況は別表のとおりとなっておりますが、
40年近くの取り組みでもあるにもかかわらず、いまだに多くの図書が回収されておりません。特にこの中でも『洞上室内切紙参話研究並秘録』は、約半分も放置されたままになっております。
「他人に閲覧させなければ良いのではないか」「貴重なものだから取っておきたい」と思う方もいらっしゃるかもしれません。ですが、それは差別をそのまま放置することであり、「差別隠し」に繋がってしまうおそれがあります。


差別図書を所持していることにより、さらに世間にばらまかれてしまう可能性も十分考えられ、差別を再び生み出すことに繋がることにもなります。また、こうした差別の歴史に蓋をしてしまう行為は、後世においていつさらされるかわからない差別を傍観しているということになってしまいます。
宗門では今日まで全寺院に対し、差別図書回収のお願いを呼びかけてまいりましたが、今一度自分の身の回りの棚や書庫等をご点検ください。さらに、教区人権学習や現職研修会講師にあたられる方は、徹底して回収のご協力を呼びかけ、見つかった場合は、人権擁護推進本部までお送りください。
なお、『禅門曹洞法語全集・坤』『洞上室内参話研究並秘録』『曹洞宗全書拾遺』については、当該書籍に注意書きや解説を付けた『補訂復刻本』を交換本としてお送りさせていただいております。皆さまのご協力をぜひお願いします。

(人権擁護推進本部記)

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