【人権フォーラム】大本山永平寺 「被差別戒名物故者追善供養法会」厳修

2019.11.08

2019(令和元)年9月17日、大本山永平寺で被差別戒名物故者に対する追善供養が福山諦法禅師ご親修により修行されました。
これまで大本山永平寺では1981(昭和56)年から、大本山總持寺では1984(昭和59)年から、それぞれ厳修されてきました。2008(平成20)年からは、両大本山隔年で来賓をお招きしています。
今回も部落解放同盟中央本部をはじめとした各県連の方々、永平寺町役職員の方々、曹洞宗参議、内局、宗議会議員、宗務所役職員など、多くの参列焼香がありました。

 

焼香する組坂繁之委員長

この法要に先立ち、大本山永平寺では8月に集中人権学習が開催されています。本年は部落差別で苦しむ当事者の方、その解消への取り組みをする宗侶の講演等があり、数人のグループに分かれて互いの理解を確認しあう時間がありました。
活発な意見が交わされる中、学習の最後に行われるグループ発表において、次のような意見が出されました。
「今回の講義で、当事者の気持ちになることが大切だとわかった。修行中は自分のことで精一杯になることが多いが、他の人もそうなのだと考え、他を慮ることの繰り返しが差別の解消に繋がることを感じた。」
「(身近な問題として考えてこなかった)私たちは、部落差別がある事実を受け止めなければいけない」
「今、雲水として狭い世界で公務に追われているが、その公務1つ1つが差別の解消に繋がるように考えようと思う。まずは1つ1つの読経に心を込めていきたい。」
今回の講義で僧堂行持と差別解消の取り組みを繋げていくといった主旨の講義があったわけではありません。修行僧の立場として人権問題を考え、今の自分に何ができるのかを考えた結果、こうした発表に繋がっていったのだと思います。今年の供養法会に随喜された方々は、どのような祈りを感じられたでしょうか。

 

福山諦法禅師による法語

また、法要後には吉祥閣で組坂繁之部落解放同盟中央本部執行委員長よりご講演をいただきました。部落差別解消推進法を確実に運用していくための生活実態調査の必要性、そして現在も続く部落差別の事例などをお話しいただきました。
講演中、9月初旬に上陸した台風15号で被災された方々へのお見舞いの言葉があり、続けて次のようなお話をされました。
「被差別部落地域は災害に弱いことが多く、小規模の台風であっても被害が甚大になることがあり、台風が来れば全国の部落を心配して確認をとっていた。しかし、地域改善対策特別措置法で行われた環境改善によって人的被害がほとんどなくなってきており一定の成果が現れている。しかし、教育や雇用の問題は未だ解決されていない。
結婚差別の1つの事例として、親戚の反対を押し切って結婚した夫婦があり、その夫婦は安定した職種に就いていたからこそ、不当な差別を乗り越えられたのです。」
この事例は経済状況によって、差別を乗り越えられるかどうかが左右されてしまう事例だと考えられます。こういった状況は障害者差別やLGBTに代表されるセクシャリティの差別を受ける方々にも通じるものがあります。

組坂委員長による講演

我々の社会は、常に多数派を意識して法律や制度、建物などが作られてきました。言い換えれば、大多数の人が使いやすいように考えられてい

るということです。大多数に合わせて作られた仕組みを使えない少数者は不便を強いられることになり、さらに不利益を被る場合すらあります。
10月中旬、台風19号が上陸した際、各所で避難所が設けられました。
この避難所は行政が設置するものですが、都内で「住所がない」という理由で避難者を拒否した事例があったのです。当時の気象予報では風圧で窓ガラスが割れることも予想されていました。そのような強風が吹き荒れることが予想されたにも関わらず屋外に追いやられてしまったのです。
これは災害時だけの問題と考えられるかもしれませんが、避難所が拒否したのはホームレスの方々でした。何かしらの事情で住む場所を追われれば、死の危険があるような社会で良いのでしょうか。もし、日本の半数がホームレスであれば、絶対に起こり得ないことでしょう。
例えば、被差別部落出身のコミュニティで同性愛に対する偏見があったら、被差別部落出身のゲイの子どもは、安心して生きていけるのでしょうか。精神障害のある在日コリアンの方の家庭が障害に理解がなかったとしたら、その方は安心して生きていけるのでしょうか。
重要なことは、社会の中で少数者であることの不利益は、単純な足し算ではなく、苛烈なかけ算となって襲いかかってくることです。被差別部落は災害に弱いという事例も、差別によって不便な地域に追いやられたことや、平等であるはずの公共事業が、差別によって行われなかったことが原因となっていたことは間違いありません。
組坂委員長は差別解消の取り組みを継続していくことの大切さを訴え、今回の講義をまとめられました。
曹洞宗として被差別戒名物故者の方々をご供養させていただくのは過去への反省と懺悔だけではありません。
今回の集中人権学習で出た意見のように、現在の日常と差別解消への取り組みを一致させられるように、差別戒名を付けられた故人さま方を前にして誓願する大切な機会でもあります。
昭和に始まった差別解消のための法要が、差別を繰り返さない祈りを捧げる法要として、令和のその先まで修行されるようにしていきたいと思っております。

(人権擁護推進本部記)


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