【International】欧州寺院の現在


イタリア 普伝寺

私は2018年よりヨーロッパ国際布教師としてイタリアの普伝寺に赴任させていただき、3年目を迎えようとしています。5名の男僧と4名の尼僧が在籍する普伝寺では、曹洞宗の僧堂の行持に則り、カトリックの地であるイタリアの文化を取り入れつつ、日々坐禅修行に打ち込んでいます。私も普伝寺の一員として行持を共にしながら、時にはヨーロッパの他寺院へ参禅するなど布教活動をさせていただいております。

2月中旬から、イタリアでは新型コロナウイルスの爆発的な感染拡大が起こりました。普伝寺のある北イタリア、エミリア・ロマーニャ州は早期に感染拡大防止措置の対象となり、3月9日にはイタリア全土がその対象となりました。

特に医療崩壊によって、助かる可能性のあった方々の命まで失われているのは周知のとおりです。政府の対策によって、都市はいわゆるロックダウンとなり、生活維持に必要な業種以外すべてが停止しました。外出に関しては、規則に違反した場合は四400ユーロの罰金が科せられるほど厳しく制限され、仕事や買い物などの外出の際には政府がオンラインで発行した外出許可書の携帯が義務づけられていました。買い物に行く以外の外出は、子供もしくはペットを伴った散歩のみが許されていましたが、それも自宅周辺のわずか200メートル以内と指定されていました。

このような感染拡大防止措置は4月26日の首相令によって5月4日からの移動制限及び生産活動制限が少し緩和され、経済再生の観点から徐々に日常を取り戻していこうとしています。移動制限は、現在暮らしている州の中において、人の密集を避け、対人距離を1メートル確保し、マスクを着用することを条件に、証明できる業務上の必要性、健康上の理由のみによる移動ができるようになりました。親族に面会するための移動は「必要がある状況」とみなされるそうです。しかし、州から別の州へ移動することは未だ原則禁止となっています。

生産活動は徐々に再開される方針で、製造業、建設業、卸売業は活動が許可されました。本屋、文房具店などの一部の業種はすでに営業が再開されています。飲食業は店内での飲食はできませんが、持ち帰りや宅配サービスは許可されました。また、公園、運動場や庭園も対人距離を1メートル確保する約束で開放されています。

宗教現場は、葬儀だけが許されており、葬儀への参列は近親者15人までとして行われるそうです。新型コロナウイルスによって亡くなった方の葬儀は、各都市の死亡者数によって違うようですが、遺族は葬儀に立ち会うことができず、カトリック神父によって行われた合同葬儀の映像をオンライン中継、もしくは撮影されたものを視聴して、1週間ほど経って遺骨を受け取るそうです。都市によっては火葬せずに、感染によって亡くなった方々のために作られた墓穴に土葬されるところもあります。遺族は遺体に寄り添って泣くこともできず、知人に励ましてもらうこともできず、孤独に自宅で悲しみに暮れるしかないというのが現状です。

厳しい隔離政策は徐々に緩和されますが、未だに公共の場及び私的空間における人の密集は禁止されており、マスク着用と1メートルのソーシャルディスタンシングが義務付けられています。しかしながら、人々の活動の再開によって第二波が来ることは容易に想像することができ、誰もが心配しているところです。

普伝寺では外出移動制限が発令される前から、来山者、参禅者の受け入れを止め、新型コロナウイルス対策に努めてきました。また、離れて暮らす近親者を呼び寄せて一緒に生活をするようにしており、僧侶とその近親者(5歳から90歳まで)17名の所帯となっています。感染防止の対策は外出をしないことの一択であり、外出をするのは食品などを買い出しに行く担当の1人だけとしています。

日頃から修行道場としての規律を重んじ生活をしているため、不要な外出は元々しません。外出ができないことに対してストレスや不便を感じることはないと言っています。しかし、僧侶の喜びである来山者への布教や行持を共にすることができないので寂しいという思いはあるようです。新型コロナウイルスによって直接の世俗との関わりが断たれ、深山幽谷の地でなくとも自分たちの修行に専念できるという状況が、この不幸の中で生み出されました。

普伝寺での作務

「不離叢林」、古来よりの禅僧の基本であるこの教えはヨーロッパの地でも受け継がれており、どのような状況においても、朝晩の坐禅、作務、勤行を基本とし、世間で言われている「Stay Home」のスペシャリストとして坐禅修行を継続しています。これまで外来対応で忙しく手が付けられなかった所の作務をしながら、新型コロナウイルス終息を晩課諷経で祈祷し、静かに終息を待っています。

また、同寺の僧侶はイタリア国内、フランス、イギリス、アメリカ、日本などに住む、同寺を心のよりどころとし親交のある僧侶、信者から毎日のように「お元気ですか?」「何か困っていることはないですか?」とたくさんのメッセージを受け取るそうです。送り主もそれぞれが大変な状況ではありますが、同寺を気に掛け心配してくれています。それに対して、直接会うことはもちろん叶わないので、テレビ電話などを使って、お互いのことを話し、励まし合い勇気づけています。同寺の知人に感染者はまだ出ていませんが、全世界が悲しみ、恐怖を感じているのは間違いない状況です。信者にとっては同寺の僧侶が健康で、日々の行持を変わらず行っているということが何よりの支えになっていることでしょう。

一方、外出禁止令下は来山者が無いため、収入が無くなりイタリア各寺院の生活が危ぶまれました。そこでイタリア仏教連合は、加盟する各寺院及び各センターに新型コロナウイルスに対する特別支援金を分配しました。興味深いことに、イタリアには「1000分の8税」という税法があります。これは一定の個人所得税を納める国民は、自分の個人所得税の内の0.8%を国が認可したカトリックを始めとする各宗教団体や国家、または各州の自治体に納税者それぞれが選択し納めるというものです。もし選択がない場合は各組織に分配されるそうです。これは公的資金の使い方について市民に主権を与える為に作られた税法で、市民は宗教信仰、慈善事業、社会福祉事業などに納税し貢献できます。

現在イタリアには16万人の仏教徒がいるとされており、50の寺院及びセンターが加盟するイタリア仏教連合にも多くの税金が納められています。イタリアの仏教寺院は国によって守られ、この資金面に対する危機的な状況を回避できそうです。私は1月中旬から3ヵ月の冬安居を共にするためにフランス中部にある観照寺に参禅させていただいておりました。観照寺では在家修行者が冬安居のためにフランス国内外から訪れて滞在しており、同寺の僧侶を含めて35名の大所帯で修行をしていました。

同寺もフランス政府の感染拡大防止措置よりも前に来山者、参禅者の受け入れを止め、新型コロナウイルス対策に努めていました。毎日のように僧侶たちはミーティングをして、この困難からどのように自分たちを守るかをよく話し合っており、やむを得ず病院などへ行った者には帰山後2週間は部屋で隔離することや、買い出しに行った者は帰山後にシャワーを浴びて着替えをさせるなど、できる限りの手を尽くし対策を取っていました。

フランス 観照寺

観照寺はラ・コキーユという人口1300人程の田舎町にありますが、この町にも感染者は出ておりウイルスは身近にあります。僧堂での生活は行住坐臥を共にするため、一人でも感染者が山内で出るとひとたまりもありません。私は2月中旬に葬儀参列のためイタリアに4日程一時帰国した後、風邪をひいて寝込んでいました。すると、感染を疑われてしまい、検査員を呼んでPCR検査を受けることになってしまいました。イタリアに一時帰国した当時はまだイタリア全国での感染者は3名、フランスは11名だったため楽観的でしたが、風邪で寝込んでいる間にイタリアでは感染が拡大していました。結果は陰性で、検査結果が出る頃には、すっかり風邪も良くなっていて復帰することができましたが、それまでは部屋に隔離してもらい、食事を運んでもらうなど、迷惑と心配をかけてしまいました。ニュースで言われているような新型コロナウイルスの症状は出ていなかったので、過剰な対応だったかもしれませんが、同寺僧侶たちは家族とも言える安居者の命を守ることを最優先に気を配って行動されていました。

観照寺での食事風景

冬安居に訪れた在家修行者たちは困難の中で生活する家族を心配しつつ、冬安居を修行するという誓願を達成し解制を迎えました。解制後は自宅に帰る者が大半でしたが、中には同寺に留まることにした者もいて、現在も僧侶と共に修行を続けているそうです。自宅に戻っても仕事がないし、外出制限下で暮らさなくてはならないため、世間から離れて日々の行持に没頭できる僧堂での生活の方がいいと判断したからだと思います。このような世界的に困難な状況の中でも揺るぎなく坐禅修行を続ける僧堂は、当に寂静の地であると改めて感じるところです。観照寺では6月に予定されていた晋山結制が中止になりましたが、新型コロナウイルスに負けずに困難を乗り越え、終息したら盛大に晋山結制が修行されることでしょう。

それからイタリア、フランスなどヨーロッパの国々で感染拡大が起きる状況となり、3月中旬に日本に帰国いたしました。逃げ帰るようで申し訳ないという気持ちが強くありましたが、感染を疑われ隔離された経験を踏まえ、外国人である私がもしヨーロッパで感染した場合、病院に行くなどの手続きで現地僧侶の助けを必要としたら、彼らに多大な迷惑を掛けるでしょうし、危険に晒すことになると考え、帰国を決断いたしました。帰国当初はすぐに状況が良くなってヨーロッパに戻れるだろうと考えていましたが、状況は一向に良くなりませんし、長期化が予想されています。

私がお世話になっているヨーロッパの各寺院の方々には、この「退歩」せざるを得ない状況でも、新型コロナウイルス感染を防ぎながら日々の行持を続けていただき、これから変わりゆくであろう世間にも対応できる仏道を護持していただきたいと思います。

私たちは今リモートコミュニケーションに頼ってしまっていますが、普伝寺の僧侶は「正信」「正法」というものは、実際に会ってお互いに向き合い対話しないと伝えられないと言います。新型コロナウイルス感染の第二波が懸念されますが、一日でも早く信者、友人に両手を広げてハグとキスで迎えることができる日常に戻り、信者と向き合い身体を使った布教ができるよう、今は一人一人が感染しない、感染させないように努めて、新型コロナウイルスの終息を願うしかありません。 合掌

群馬県 第281番 永隣寺副住職ヨーロッパ国際布教師 堀口智玄記

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