【人権フォーラム】狭山事件第三次再審請求における事実調べと全証拠の開示を ―今こそ宗教者の力を―


 狭山事件第三次再審請求における事実調べと全証拠の開示を ―今こそ宗教者の力を―

 

1、狭山事件とは

曹洞宗では、狭山事件を部落差別に基づく冤罪事件として取り組み続けている。

1963(昭和38)年5月、埼玉県狭山市で一人の女子高校生が行方不明となり、身代金を要求する脅迫状が届けられた。当時の警察は、犯人を捕まえるため40人態勢で張り込みを行ったが、取り逃してしまった。3日後、その女子高校生が遺体で発見され、大きな非難を浴びた警察は、被差別部落の青年たちに対して、見込み捜査を行い、石川一雄さんが別件逮捕された。ここから、石川さんを支援する人々の闘いが始まった。

石川さんが逮捕されてから今年で57年となり、第三次再審請求からも14年を経過した。支援者は一日も早く石川さんの無実が明らかになることを心から願い、闘い続けている。

弁護団、支援団体からの要求は様々あるが、全証拠開示、裁判所による事実調べ、証人尋問は今なお行われていない。

 

2、三者協議の現在までの動向・証拠開示について

「冤晴らす気概を胸に真実を黙する司法に総意で喝」再審への決意を歌にする石川さん

この事件では、裁判所・検察庁・弁護団の3者による協議が行われており、本年6月18日に、第43回目が終了した。この協議では、第一審の根拠となった証拠がくつがえり、検察もこれを認めている。

これまで弁護団から提出された数々の証拠(法医学鑑定) などに対し、検察は反証を繰り返しているが、発見された万年筆が被害者のものではないことを明らかにした「下山鑑定」については、反証を断念している。弁護団は提出した新証拠について、検察の反証があれば、更に反論をするとしている。

この協議では、これまでに東京高検から弁護団に開示された証拠物だけでなく、東京高検以外(埼玉県警や浦和地検)などの証拠物一覧表についても、弁護団が開示を要求している。三者の証拠開示をめぐる攻防は、今後も続くものと思われるが、本年7月現在、これまでに検察から弁護団に191点の証拠が開示され、弁護団は、226点の新証拠を裁判所に提出している。今後も新証拠を徹底的に積み重ねていくとしている。

 

3、石川一雄さんとの出会い

支援者の輪

筆者が石川一雄さんと出会ったのは、10年前の5月23日、日比谷野外音楽堂での狭山事件の再審を求める市民集会であった。曹洞宗の人権擁護推進本部員として集会に参加した自分の眼に、何千という人々が野外音楽堂を囲み、多くの人々が石川さんの無実を叫んでいる姿が映った。参加当初は、自分がなぜここにいるのか、何のために取り組むのか、判然とせずにいた。 

しかし、何度も市民集会に参加していくうちに、石川一雄さんの冤罪が何十年という時間の経過の中でいまだ晴れずに苦しんでおられること、そしてこの冤罪事件の背景には、部落差別が深く関わっていることを学び、石川一雄さんを苦しめることへの憤りがどんどん募っていくのを感じた。

被差別部落出身の石川さんは家計を助けるために、当時学校にもほとんど行くことができず、教育の機会が失われ、文字を学ぶことができなかった。その背景には部落差別と貧困があるということを、市民集会の中で鎌田慧さん(再審を求める市民の会事務局長)は語られるが、そこで筆者がいつも心に留めている石川さんの言葉がある。

「32年間の獄中でよき看守と出会い、無実を世間に広く訴えていくために看守から文字を学び、獲得し、冤罪を晴らす力にし続けた。『無実を明らかにするには文字を取り戻し、その文字を力にして多くの人たちに冤罪、無実を訴えなさい』という看守の言葉があり、看守は八年間も文字を教えてくれた。もし、その看守と出会わずにいたら、世間に無実を訴えられなかっただろう。だから、文字を知らなかった自分の無知ほど恐ろしいものはない。今は、文字の読み書きができ、皆さんに無実を訴えられる。裁判所の事実調べが始まれば、必ずや無実は明らかになる」

東京高裁前での活動

石川さんの無実の訴えが今も胸に刺さり、捉えて離さない。

もう一つ、石川一雄さんの妻である早智子さんや多くの支援者と共に再審に向けて声を高め合い、活動できる筆者にとって大切な場が、東京高裁前でのアピール行動である。

2016年の4月、東京都霞ヶ関の東京高裁前での第28次アピール行動に参加した。当日は、同宗連(同和問題に取り組む宗教教団連帯会議)、部落解放同盟、解放同盟都府県連、狭山住民の会、また足利事件の冤罪被害者菅家利和さんなど、誰もが一日も早く再審が行われるように、石川さんの見えない手錠が外されることを心から願い、早朝より参集した。 

参加者はリーフレットの配布や署名活動、マイクで石川さんの無実を訴えていた。「狭山」の真実を知ってほしい、石川さんの無実は必ず明らかになる、その一筋の願いが私たちを奮い立たせ、突き動かしていた。

参加者のマイクでのアピール行動は、「第三次再審開始に向けて、皆さまのご協力をお願いしたい」「この事件の真実を知ってほしい」と石川さんの無実と再審開始に向けそれぞれが渾身の力を込めて、訴えるものであった。

曹洞宗からは、愛知県龍源院住職・東三河狭山住民の会の牧野弘済師が行った、再審無罪に向けた気迫に満ちた演説が印象深い。師は高裁前での活動に幾度となく参加され、訴え続けている。

牧野弘済師によるアピール

その次に、石川早智子さんからアピールを促された筆者は「石川さんは53年間も無実を叫び続けている。数々の証拠が明らかにされ、石川さんの無実は誰の目から見ても明らかだ。なぜ司法はいつまでも石川さんの見えない手錠をはずさないのか。無実の人石川さんを一日も早く自由にしてほしい。同宗連の一員として他教団と連帯し冤罪が晴れるまで、共に取り組む覚悟である」と訴えた。マイクを持つ手は、石川さんを思う気持ちで震えていた。様々な思いが心を駆け巡る中で、自身の気持ちが大きく突き動かされていることを感じた。そして、石川夫妻は次のように訴えた。

石川一雄さんは、「『私は無実だから無罪にしてほしい』とは言っていない。Oさん(当時、女子高校生の殺害現場とされた農道の近くで農作業をされていたが、誰の悲鳴も聞いていないと証言している)を裁判所に呼んで証人尋問していただきたい。Oさんは、いつでも私の無実を証明するために裁判所の法廷に立つと言っている。事実調べ、証人尋問を行えば、無実は明らかになる」と訴えた。

また、石川早智子さんは、「石川の思いを見つめてほしい。彼が元気な間に裁判を開いてほしい。53年経った今でも、いまだ司法により全証拠の開示がなされていないが、これまでに弁護団や『狭山』を支援する多くの人たちのおかげで、彼の無実を明らかにする多くの新証拠が出ている。それらの証拠を調べ直してほしい。その当たり前の願いがいまだ叶っていない。常に裁判長の姿勢が問われていることを肝に銘じてほしい」と述べた。

菅家さんと共に無実を訴える石川さん

石川夫妻の無実の叫びを聞き、参加者と共に、再審に向けて連帯していくことを確認し、お互いの気持ちを高めた瞬間であった。アピール行動が終われば、一雄さん、早智子さんとしっかり握手をして別れる。その手はとても暖かい。こちらが励まされているかのように、お二人の暖かさが、ひしひしと感じられる。再審に向けて、また気持ちを新たにする瞬間である。

今般のコロナ禍により、本年は高裁前での活動が出来ずにいるが、「狭山」の支援者は大きな輪でつながっており、全国から再び集い、共に活動していきたい。

 

4、請願署名はがき運動のご協力を

再審開始と全証拠の開示、事実調べを実現するため、毎年人権擁護推進本部は請願署名はがき運動に取り組んでいる。この運動の趣旨は、寺尾正二裁判長による無期懲役判決が下された日が1974年の10月31日であることから、毎年10・31に向けて宗教者の声を集約し、東京高裁・東京高検宛に請願署名はがきを届け、全証拠開示と事実調べの世論を更に大きくしていくものである。

昨年と同様に「同宗連」加盟教団として、全宗務所、管区教化センター、人権啓発相談員に必要枚数を送付させていただいた。支援いただける方は、高裁高検宛に9月下旬の到着を目途に投函いただきたい。57年を迎えた今、「同宗連」を始め、狭山を支援するすべての人々の力を集めたい。

この数年間でも、冤罪事件はいくつかあり、マスコミでも取り上げられた。長い間苦しんでいた人が無実になった一方、袴田事件では、2014年に再審開始が決定されたものの、検察は判決を不服とし東京高裁に即時抗告した。依然として再審を始めるかどうかの審理が続く現状にある。

このはがき運動の目的は、証拠開示を公正公平にルール化するためであり(見本参照)、司法制度の改善を目指している。私たちの人権や尊厳が守られるためには、冤罪のない司法制度が確立されなければならない。私たちも被害にあう可能性が十分あり、狭山事件や袴田事件などの冤罪事件は、一人ひとりの問題だからだ。

この司法制度の議論を大きくするため、請願署名はがきのご協力を一層お願いしたい。「狭山事件」を支援する声をはがきに託して、高裁、高検宛に送り、全証拠開示と事実調べの実施を促したい。

本年、東京高裁第四刑事部の後藤眞理子裁判長が退官し、大野勝則氏が新たに就任、裁判長の交代の中で、この事件の審理は今もなお尽くされないままである。

石川さんは本年で81歳を迎えた。「冤罪が晴れるまでは、両親の墓参りは行けない、両親に報告ができない」と、強い決意で述べるが、この事件の再審開始に向けて、一僧侶として一日も早くこれを叶えるため、全力で行動を起こしていきたい。   

人権擁護推進本部 記


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