【人権フォーラム】ハンセン病への差別・偏見をなくすために~③ハンセン病元患者の生涯と願い コロナ禍にあって~


石山春平さんを訪ねて~ハンセン病元患者「家族訴訟」から1年~

昨年の9月下旬、神奈川県川崎市、ハンセン病元患者の石山春平さんのご自宅を訪ねた。秋雨前線の仕業から足元も濡れたままであったが、「さあ、あがって、あがって。うん、あなたとはどこでお目にしたかな」と迎えてくださった。狭山事件の再審請求運動での出会い、以前に人権擁護推進主事研修会へご出講くださったこと、そして石山さんの著書『ボンちゃんは82歳、元気だよ!』を読んだことなどを話した。「お坊さんね、知ってるよ。(コロナ禍で行事)いろいろ中止になるなか、この間、岩手のお寺さんにお話に行ったよ。曹洞宗だったかなあ」。石山さんは、居間の座布団に腰を落とすと早速に語り始めた。

終戦後のこと。石山さんは小学6年の夏休みにハンセン病と診断され、16歳まで生きられないと言われた。診断書を学校に提出した日に、追い出された。教師に机と椅子は焼かれ、机があった所には新聞紙が貼られ「立入禁止」と書かれた。だが、学校に行けずとも家には友人の誘いがあり野山に興じた。しかし、「遊ぶと親に叱られる」と近所の子も一人またひとりと近寄らなくなり、外を歩いていると石をぶつけられた。ほどなく、集落の厳しい差別や父親の要請から納屋で5年ほど過ごすことになった。

「おやじは(ハンセン病を)知ってたんだね。俺が病気になる10年ぐらい前に近所の姉妹がハンセン病になった。その姉は18歳で死んだんだ。小さな田舎の集落だからね、おやじは弔いを手伝った。火葬場に連れてったら『病気がうつるから』と火葬を断られた。すると家族は墓地にも土葬できないからと山に埋めた。おやじはあまりにも可哀そうだと野花を添えて、置石したら『やめてくれ!』って言われた。『(ハンセン病の)姉が埋まっていると周りにばれてしまう!』って言われた。だから『もう春平も死ぬんだったら葬式だけは出したい』っておやじは俺を閉じ込めたんだね。」「でも今の俺、カトリック教だけどね。葬式はアーメンだね。それよりラーメンの方が好きよ。」石山さんは笑った。

人目を避けて、昼間は納屋で過ごす毎日。石山さんは深まる孤独と崩れる手指を目の当たりにするなか、身心の疲労は極限に達して自死がよぎった。山中へ赴き『春平死ス』と記し、服毒を試みた。しかし、死への恐怖から思い止まり「俺が死んでも石を投げつけ、罵声を浴びせた人が喜ぶだけだ」「生きて生きて生き抜いてやる!」と決意し山を下りた。そして療養所への入所を決意し、父に告げた。

入所後、特効薬が投与されて3年ほどで回復し「帰りたい」と父に手紙を送るが、兄の縁談を理由に拒絶された。故郷を失った。また、療養所とは名ばかりで炊事洗濯から農作業や重労働も班別に負わされ、投薬から発熱しても「38度は微熱」と言われ強制的に駆り出された。仲間に囲まれ、識字を指南してくれた先輩もいて孤独は癒えたが、希望を見出せずに人生を再び諦めかけていたころ、当時職員だった絹子さんと出会った。「治っているのに何で退院しないの」「二人で頑張れば道は開けるんだよ」と人生のパートナーとなった絹子さんに背中を押され、退院を決意した。すでに15年が経っていた。

社会復帰後も身体障害があるために幾多の困難に直面するが、「すべては家族を守るためだった」と振り返る。転機は2001年のハンセン病政策の違憲性と国の責任を認めた熊本地裁判決だった。周囲に本当の病歴を打ち明けた。

現在のハンセン病元患者「家族訴訟」についてうかがってみた。「本人も家族もみんなみんな(差別で)すごい苦労しているのよ」「横浜にも元患者何人かいて、補償金の話をして、一緒にやろうって言っても『石山さん、もう来ないで』って言われる。気持ちは分かるけどね。」「なんにも知らない家族を巻き込みたくない人が多いのよ」

ハンセン病患者の隔離政策で家族が受けた差別被害に対する新法に基づく補償が開始され、1年となったが、支給が決まった家族は4564人(2020年9月15日現在)で厚生労働省が推計する対象の二割程度に留まる。また、厚生労働省HPによると、4564人のうち元患者の親子や配偶者らに支給される180万円の対象は2937人、130万円を支給する兄弟姉妹や孫らは1627人となっている。この背景には保障制度の周知不足や、「差別と偏見を恐れ、申請をためらう」という元患者家族である事実を明かせない事情などがある。このことからも、差別・偏見の根深さを痛感した。

私たちは、ハンセン病元患者とその家族が決して差別・偏見の被害に遭わない社会を実現させるため、ハンセン病とはどのような病気なのか、過去にどのようなことがなされてきたのか、仏教者はどのようなことをしてきたのかを正しく後世に伝え、二度とこのような間違いがおきないように広く呼びかけ、差別解消に繋げていく必要があることを決して忘れてはならない。

 

病と差別、新型コロナウイルスでも

さらに石山さんは、国内外で猛威を振るう新型コロナウイルスを巡る、患者や医療関係者などに対する差別的な言動について、「新型コロナはまだ分からないことも多いから不安になるのも分かる。でも正しい知識があれば、患者への偏見はなくなるはず。ちゃんと学んでほしい」と差別をなくすために、知識を得ることが大事だと強く警鐘を鳴らす。

私たちが感染症と向き合うためには、医療体制と同様に人権的な視座も不可欠であると考える。なぜなら、深刻な差別被害を受けてきたハンセン病元患者の方々が「ハンセン病問題は医療の問題ではない」と訴え続けていることからも明らかであろう。

そこで昨年3月より日本赤十字社では、「この新型コロナウイルスとの戦いは、長期戦になるかもしれません。それぞれの立場でできることを行い、みんなが一つになって負のスパイラルを断ち切りましょう」と呼びかけている。この「負のスパイラル」の怖さとは、病気が不安を呼び、不安が差別を生み、差別がさらなる病気の拡散につながることだ。新型ウイルスは目に見えず、ワクチンや治療薬が開発の途上にあることや分からないことが多いことからも、強い不安や恐れを感じ、ふりまわされてしまうことがある。それらは私たちの心の中でふくらみ、気付く力・聴く力・自分を支える力を弱め、瞬く間に人から人へ伝染していきます、と日本赤十字社は指摘している。つまり、私たちにとって今できる、大切なことはウイルスに留まらず不安と差別の感染予防なのだ。

「自分は差別などしない」と誰もが思うだろう。だが、ハンセン病差別をしてきたのは私たち仏教者や、世の特別ではない人々ではなかったか。「病と差別」。同じ過ちを繰り返さぬよう、人権問題としてもコロナ禍に立ち向かう必要がある。

人権擁護推進本部記

 

【参考】

・「ハンセン病に対する差別や偏見をなくすために」人権フォーラム『曹洞宗報』2016年9月号

・『曹洞宗人権擁護推進本部紀要 第2號』曹洞宗人権擁護推進本部

・『ボンちゃんは82歳、、元気だよ!』著者・石山春平

・「新型コロナウイルスの3つの顔を知ろう!~負のスパイラルを断ち切るために~」日本赤十字社HP

 

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