【人権フォーラム】教区人権学習開催について

2021.04.07

今年度の教区人権学習会の資料はポスター、ステッカー、冊子の3点で構成されています。2018年度より学習を深めてきた、障害者の人権というテーマの一つのまとめとして、今回は学習の後に「行動」が伴う教材を作製いたしました。

今回のポスターには下段に記名欄があります。学習を通じてポスターを貼るということの意義を学び、その上で記名という形でご賛同いただき、さらには掲示するという行動(アクション)を起こしていただく、という構成になっています。

2月、3月号に引き続き、中村和利委員に資料作成の経緯を寄稿いただきました。

 

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1、ポスター制作の経緯とポイント

曹洞宗での障害理解に関する人権学習の取り組みの中で、たびたび出ていたアイデアがポスター制作であることや、その発信の意味については前号で触れましたので、ここではポスター制作において気をつけたこと、気が付いたことを記します。

 

障害のある人たちの座談会

これまで障害平等研修などで学んできたことの一つが「障害のある人の話を聞く」ことでした。その学びを活かすためにポスター制作にあたり、これまで人権学習に関わりを持っていただいてきた障害のある人たちに集まっていただき、どのような視点が必要かを座談会形式で意見交換しました。

その際、2019年度に人権啓発資料作成委員を務められた精神障害当事者の山田悠平さんからは、

「障害のある人を他者化して『特殊な人たちをどうするか』といったような議論になりがちなきらいがありました。そういうことではなくて、『お寺としての場作り』ここはどういう場所なのかということを改めて『場の包摂』という観点から考えたい。『場をどう作っていくか』というメッセージが改めて問われているのかなと思います」

と意見をいただきました。とても重要な視点だと思っています。ポスターの中に記されている「いっしょに考えていけるお寺」に通じる視点ではないでしょうか?

 

教区人権学習資料ステッカー(左)、ポスター(右)

障害のある人の作品を使うことについて

また、座談会参加者の牧野賢一さんからは、障害のある人のアート作品を使うことの提案をいただきました。牧野さんは知的障害のある人たちが暮らすグループホームを運営され、知的障害のある人たちが地域の中で他の人と同じように働き、生活をして、家族を作っていくことのサポートをされています。

この障害のある人のアート作品を使うことに、二つの意味をこめました。「障害のある人のアート作品を通して、障害のある人の存在を多くの人に知って貰う機会として欲しい」、そして同時に、「障害のある人のアート作品を使うことで、このポスターが障害のある人へのメッセージであることを認識してもらえやすくなるのではないか」ということです。

この座談会では他にいくつもの意見をいただき、とても実りある場となりました。ポスター制作においても障害のある人たちと対話をもち、机上論からの一方的な考えの押しつけにならないことを大切にしたのです。

 

2、学習を進めていくポイント

冊子『誰もが相談できる「いっしょに考えるお寺」を目指して』

教区人権学習として、ポスター、ステッカー、冊子をもとに学びの場を持たれると思います。その際に留意していただきたいことがあります。

 

障害のある人たちと共に

可能であれば、障害のある人に学びの場に参加していただき、自身の体験やポスターや冊子についての感想をお話ししてもらうと良いと思います。

そして、ただ話を聞く場とするのではなく、座談会形式でディスカッションをしていくことが大切です。「いっしょに考えていけるお寺」を学びの場面から始めていただきたいと思うのです。各地域には障害のある人たちが作っている組織や団体があります、是非相談されて欲しいと思います。

また地域状況によっては障害のある人たちの組織や団体がなく、接点をもつことが困難な場合もあるとは思いますが、そのような際は、曹洞宗人権擁護推進本部に相談されるのも良いかと思います。オンライン等を活用して遠方であっても障害のある人との対話の場を作ることが可能な時代になっています。

また、この学びを短期的なものとしないために、ポスターを貼った状況や、貼ったことで障害のある人から相談などあったことを、教区内で共有していくことも大切なこととなります。

障害のある人との対話を通して、自身の言葉をみつけていただきたいと思います。知識として「障害のある人が〇〇と言っていた」ではなく、その対話の中で自身が気づき、感じたことを自分自身の「言葉」として発していくことに意味があると思います。

特に宗教者として日頃、様々な事象に思慮をめぐらせている皆さんの発する言葉になったときに、周囲への影響は深く響いていくのではないでしょうか。

今回のポスターのイラストの選定やキャッチコピーの作成などすべて、障害のある人たちと対話をしてきた僧侶の皆さんが、対話から気づき、感じたことを僧侶=宗教者として表出させたものです。その過程での真摯な取り組みに、非常に感銘を受けています。

 

3、ポスターを貼ることの意味

座談会の中で「ポスターを貼ることをイベント的にできるといいかも」との意見もいただきました。具体的には、ただポスターを貼るだけではなく、身近に障害のある方がいれば、その方たちと一緒に貼ってみる。その場面の写真などをHPやSNSで発表するといったことです。このことはとても大切な意見だと思っています。

2020年度の人権学習資料『誰もが当たり前にお参りできる供養の場を目指して』に掲載された大阪市立大学教授・池上知子さんの寄稿に「自分が所属する集団のメンバーが、他の集団のメンバーと親しい関係にあることを知ることによって、あるいは、親しく交流している様子を観察することによって、他集団のメンバーに対して好意的な感情が生まれる」と拡張接触理論について触れられています。

お寺の住職がポスターを障害のある人と一緒に貼る様子をお寺に関わる色々な人が目にすることは、この拡張接触理論で言われることと同じことではないでしょうか。ポスターを貼ることで、「お寺とお寺に行きづらかった障害のある人」だけが変わる機会をもつのではなく、お寺に関わる多くの人たちが「障害」について考え、変わるきっかけになるのだと思います。

実際に障害のある人と一緒に貼ることが難しくても「このような意図をもち、ポスターを貼りました」と寺報やHP、SNSで是非発信なさってください。また、地域の障害者団体などにもお知らせすることも、とても意味があることだと思います。お寺からの直接の発信では届かなかった障害のある人たちに、地域の障害者団体を通してメッセージが届くことで、障害を理由にお寺から遠ざかっていた人たちの心により響くかと思います。

 

※各地域には様々な障害者団体があります。以下は全国組織の一例ですが、各地に関係団体があります。HPをみて参考とされてください。

・自立生活センター(CIL)=障害のある人たちが、自分たちの自立生活を実現するために活動している障害当事者団体  http://www.j-il.jp/index.html

・手をつなぐ育成会=知的障害のある人たちの家族会  http://zen-iku.jp/

・みんなねっと=精神障害のある人たちの家族会 https://seishinhoken.jp/

 

、アクション・リアクションをさらに進めていくために

ひとつの組織が変わることが大切

国や自治体が広く市民に「障害理解」や「障害者差別解消」を伝えていくことはとても大切なことではありますが、それだけでは社会が大きく変わっていくことは難しいことは周知のことかと思います。

では、どうすれば社会での「障害理解」や「障害者差別解消」がすすむのでしょうか? 私は、身近な枠組みでの変化が「人を変えていく」のだと思っています。多くの人は、仕事や学校、地域の様々なコミュニティの一員として暮らしています。その職場、学校、コミュニティが障害理解に取り組むことがとても大切なこととなります。自身が所属している意識の高い組織の変化は一人一人の変化を促すと考えています。前述した池上知子さんの拡張接触理論もその根拠となっています。 

ポスターを貼るアクションから、様々なリアクションが生まれることを期待しています。そのリアクション一つ一つが、社会が変わっていく礎となると思っています。もし、ポスターを見て(そのような取り組みをしていることを知って)、障害のある人が「お墓参りに行けなくて困っていた」と相談されたとしたら成功なのだと思います。

また、ポスターを見た檀家の方が「なぜ、このポスターを貼ったのですか? 障害のある人って来たりするのですか?」と質問を住職にされたとしたら大成功なのだと思います。そこから対話が始まり、この取り組みについて「お寺」から拡げていくことになると思います。

 

障害のある人からの相談があったとき

ポスター掲示の成果として、障害のある人から問い合わせや相談があったとき、その方々の状況や思いをしっかりと聞いてください。そして、障害のある人の傍らに立ち、一緒に「困難」や「障壁」を確認して、一緒に悩み、考えていただきたいと思います。

その結果として、その場では「困難」や「障壁」を解決できないことも多々あるかと思います。しかし、その「困難」や「障壁」を障害のある人だけのものとせず、お寺にある障害のある人の「困難」や「障壁」に対して、障害のある人と一緒に当事者として立つことから解決への道筋が始まるのではないでしょうか。

また、その取り組みを一つのお寺、一人の僧侶が抱え込んでしまうのではなく、地域のお寺、全国のお寺、数多くの僧侶の皆さんと共有して、知恵やアイデアを求めていくことも大切です。解決に向けてスムーズだった事例、難しかった事例、様々な事例を積み重ね共有することが大きな力となるのだと思っています。そのような積み重ねは、お寺のことに留まらず、様々な社会資源の障壁を失くしていくための礎ともなるのです。

先にあげた障害者団体や、これまで曹洞宗人権学習に関わりを持ってきた障害のある人たちに相談をしていくこともできることだと思います。

障害のある人からの問い合わせ、相談=リアクションを受け止め、その出来事の共有化をしていくことで、さらに様々なリアクションが生まれていきます。行動をして、反応に対応し、そのプロセスを共有化し、新たな行動に取り組んでいくサイクルが現状をかえていくと思います。

 

、そして

私が障害のある人たちの支援に関わるようになり30年くらいでしょうか。30年前の日本社会は障害のある人たちへの差別・排除が当たり前にありました。

重度身体障害のある車いす利用の人と一緒に、都営交通を使った際に駅員から「連絡なしで、こないでください」と言われたり、食事をしに行った飲食店の主人から「もう来ないで欲しい」と言われたり、惨憺たる状況でした。昨今では当たり前になってきている駅ホームのホームドアも設置の計画すらなく、視覚障害のある人たちの転落事故は頻繁にありました。

そして、それらの差別や排除は「仕方がない」ことだとされていたのです。その後、障害のある人たちや、その家族の運動が拡がり、障害のある人たちを差別、排除することは、少しずつ少なくなってきています。そして、障害のある人たちへの障壁がなくなってきた社会は「だれにとっても暮らしやすい社会」であることも、多くの人に認知され、さらに状況は進んでいくことが期待されています。

機能障害は一人一人違いがあり、差別障壁の存在も、その人の生活や人生観から様々な違いをみせています。差別障壁と直面している障害のある人との対話、そして、障害のない人も差別障壁を解消していく「当事者」なのだと認識し、行動をしていくことが、いま求められていることだと感じています。

 

「みんなが来れるお寺にしていくために、一緒に考えましょう、そしてできることを一緒にやりましょう」という共生の場作りが大切であり、また可能な時代になっています。障害のある人も、障害のない人も、このポスターの貼られたお寺で笑顔で場を共にしている姿を願っています。

人権啓発資料作成委員・NPO法人風雷社中理事長 中村和利

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皆さまにはこれまでの4年間、障害者差別の問題について考えていただきました。昨年度はコロナ禍により学習会が開催困難な教区もあったことからも、これまでの一定の総括として、障害をテーマに学習資料を作成いたしました。

これまでの学習で分かってきたことは、こちらから発信をしない限り障害のある方たちに寺院を訪れていただくことは、とても困難であるということでした。このたびの学びで、この点にご理解、ご賛同いただけましたならば、今年度学習教材のポスターとステッカーを是非とも境内に掲示いただければと思います。また、その際ポスターにご寺院名、ご住職名をご記名いただきたいと願っています。

今回のポスター、ステッカーの掲示にはそれ自体が一つのアクション(行動)としての意味が込められていますが、それだけに留まりません。ポスターを貼ったことにより、今まで言い出せずにいたお檀家さんから、実際に相談を受けることもあるかもしれません。そのときにどうするのか、それも問われています。

そのヒントが、これまでの学習の中にあります。私たちは障害者差別解消法についての基礎知識、合理的配慮について学習をいたしました。当事者との対話や、実際にやってみることの大切さを学習いたしました。

すべての問題が即時に解決できる訳ではないかもしれませんが、寄り添う心と少しの想像力が、より多くの人に参詣していただきやすい寺院の実現につながる、ということは皆さまの心の中に刻んでいただき、そこから今一歩、今度は行動を起こしていただければと思います。

皆さまの行動がより良い形に繋がっていきますことを願ってやみません。

人権擁護推進本部記

 

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