【人権フォーラム】寺院が持つ「情報」の再確認を



情報の管理

曹洞宗人権擁護推進本部の通常業務では、教区人権学習会や管区人権学習会などの各種人権学習の企画・運営に関すること、人権学習のための資料制作・送付など、曹洞宗における部落差別問題をはじめ、差別解消の取り組みを進めるための事業を行っています。また、人権侵害の恐れがある事案が申告された場合、これまでの宗門の対応と照らし合わせながら、被害の拡大と再発を防止するための取り組みを行います。

いずれにせよ、いつ・誰が・どのような理由で人権本部に問い合わせがあったのかなどの情報が、原則として記録されます。そういった情報は、当然漏洩しないように管理されます。

例えば、講師をお務めいただいた方のお名前は公開していますが、講師の連絡先は非公開です。しかし、人権本部員であれば、講師ご本人に対する問い合わせがあった場合、連絡する必要があるため連絡先を参照することが可能です。これは人権本部の業務に必要なことであり、他部署の職員には共有されません。

また、人権本部の業務であっても、特定の職員にしか共有されない情報もあります。それは人権侵害に関わる申告などがあった場合の業務です。申告があった場合、人権本部の業務として申告者の内心に関わるような情報や、その人の不利益になる情報も含めて記録しなければなりません。それは高度な個人情報(要配慮個人情報)となり、情報の保護を徹底する必要があります。また、どの寺院が「差別戒名」改正対象寺院となっているかなど、個人の情報ではなくても情報管理を徹底している場合もあります。

「情報管理の徹底」というと、始めに何をすればよいのか分からないことも多いのですが、まず自分が誰から情報を得たのかを理解する必要があります。例えば、テレビやインターネットなどで知り得る情報なのか、知人から聞いたのか、直接本人から聞いたものなのかなど、自分が持つ情報の流通範囲を知っておくことが重要です。

そして、情報の流通範囲が狭ければ狭いほど、管理を徹底する必要があります。

 

寺院が持つ情報とは何か?

人権本部が持つ情報は、業務に関係のある情報であり、業務に必要であるからこそ知り得た情報となっておりました。では、各寺院で管理しなければならない情報とは何でしょうか? 

まずは、法務に関係する情報となります。葬儀を執行する際には遺族の職業や家族構成、故人の死因などをうかがうことがあるかもしれません。このような情報は、葬儀を執行する僧侶であるからこそ得られたものであり、かつ葬儀を執行する上で遺族とコミュニケーションをとる際に有益な情報となります。では、もしこれが会葬者という立場であったらどうでしょうか。

会葬者には多様な立場があります。故人と親交の深い方から、遺族とは交流があっても故人とはあまりなかった方まで様々です。また、このようなことはあまり考えたくはありませんが、遺族を貶めようという目的で参列している者もいるかもしれません。

あるいは故人が自死されていたり、死因が新型コロナウイルス感染症などであったりする場合、そうした情報を安易に漏洩させてしまえば、遺族の苦しみを増やしてしまうこととなります。

つまり、各寺院が持つ情報とは“寺院住職や寺族、あるいは僧侶という立場だからこそ報告された事情のこと”となります。少し話は逸れますが「情報」という言葉は「事情を報告する」という言葉の略語が語源とされているそうです。世の中には様々な事情がありますが、それらの事情は誰かから報告されなければ知ることはできません。逆に言えば、我々が知っている情報には必ず発信源があります。情報管理をする上で、発信源を特定しておくことは大変重要です。

特に、宗教者は刑法第一三四条(秘密漏示罪)の対象となっており、知り得た秘密を正当な理由なく漏らせば刑事罰が科せられます。寺院として得た情報は、本人の許可なく拡散してはならないのです。

また各寺院では過去帳や檀信徒名簿などの情報管理は徹底されているかと思いますが、法事予定や法事に参加する人数なども管理すべき情報(刑法一三四条でいえば「秘密」)と考えられます。

例えば、施主の関係者を名乗る人物から法事日程の問い合わせがあるかもしれません。もし、親類縁者や婚姻関係にあることが事実であっても、施主の承諾なく伝えてしまえばトラブルを引き起こす場合があります。例えば家族であっても離婚調停や財産相続などで関係が難航しており、直接会うことを拒否していたり、親類であっても法事には来て欲しくないと考えていたりする場合です。そもそも、法事のお知らせは施主の役割であり、寺院に問い合わせが来ることはあまり考えられません。施主以外の関係者からの問い合わせは、施主に確認していただくように促すことが望ましいでしょう。当然、施主が特定された連絡先も個人情報であり、施主の承諾がない場合はお伝えできません。


「個人情報」とは何か?

個人情報保護法第二条で定義された個人情報は次のように解説されています。

「個人情報」とは、存する「個人に関する情報」であって、「当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができるものを含む。)」(法第二条第一項第一号)、又は「個人識別符号が含まれるもの」(同項第二号)をいう。
「個人に関する情報」とは、氏名、住所、性別、生年月日、顔画像等個人を識別する情報に限られず、個人の身体、財産、職種、肩書等の属性に関して、事実、判断、評価を表す全ての情報であり、評価情報、公刊物等によって公にされている情報や、映像、音声による情報も含まれ、暗号化等によって秘匿化されているかどうかを問わない。(個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン〈通則編〉より引用)
※傍線は人権本部による

 

傍線①に関しては、寺院が管理する情報の中には死者の情報もあり、生存する個人とどのような違いがあるのか混乱されるかもしれませんが、寺院の情報は基本的には現在生活している檀信徒の皆さまと繋がる情報と考えられます。また情報を組み合わせて個人を特定できるのであれば、個人情報として扱う必要もあります。特に寺院過去帳は、不当な差別的取り扱いに繋がる情報となり得るため、特に管理を徹底すべきものとなります。曹洞宗から過去帳等の取り扱いの基本原則に遵い、厳重な管理をお願いしています。

傍線②に関しては、情報単体では個人に繋がらなくとも、他の情報と付き合わせることで容易に個人が特定できる情報は個人情報として扱うという意味になります。例えば、「三回忌の法事を行う」という情報だけでは個人を特定することができませんが、本堂などに年回忌表が貼ってあれば日にちだけでどの檀信徒が法事を営むかを予想することができます。この場合、法事の日程そのものが個人情報と判断される可能性があります。

また、檀信徒からEメールアドレスを収集している場合、アドレス単体では個人の特定ができないためアドレスを個人情報と判断することはありませんが、「sototarou@sotozen.jp」のように、アドレスから本人の名前と所属が明らかなものは、単体で個人が特定可能なため、個人情報と判断される場合があります。

いずれにせよ、檀信徒に関する情報は信教の自由に関連するものとなる可能性が高く、要配慮個人情報として扱うことが理想的です。

 

要配慮個人情報とは何か?

端的にいえば、個人情報の中でも特に配慮が必要な情報となります。法律には次のように定義されています。

この法律において「要配慮個人情報」とは、本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実その他本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要するものとして政令で定める記述等が含まれる個人情報をいう。
(個人情報保護法第二条三項)

つまり、寺院過去帳等に記載された情報は、まず仏教への信仰が推測できるため「信条」に関する情報であり、過去帳に社会的身分などの記載があればさらに配慮を要する情報となります。先ほど、刑法一三四条をご紹介しましたが、宗教教団、特に伝統ある教団が持つ情報は、不当な差別や偏見の根拠となってしまう情報が多くあるために刑法でも規定されていると考えることができるかもしれません。

つまり、大きな分類をすれば、寺院が持つ特定の個人に関する情報は全て要配慮個人情報として扱うことが理想的です。

 

寺院が持つ「情報」の再確認を

ここまで見てきたように、寺院は多くの要配慮個人情報を扱っており、宗教者が秘密を漏らしてしまえば刑法で罰せられる可能性すらあることが分かりました。しかし、罰せられる可能性があることだけが分かっていても、実際にどのように情報を扱えばよいのかが分からなければ不安が煽られるばかりです。ただ、残念なことに、この秘密漏示罪については判例が少なく、宗教者が訴えられたものに関する判例を見つけることができませんでした。ですから、実際に法律がどのように運用されるのかが分からないのです。逆にいえば、それだけ問題になることが少ないとも考えられます。

しかしながら、これから先も同様であるかどうかは分かりません。特に、インターネットの普及によって、寺院のホームページやSNSを活用する方は増加の一途をたどっています。また、コロナ禍でオンラインでの供養を修行しようとする方もいらっしゃいます。そもそも、個人情報保護法の背景にはデータ化された情報は複製が容易であり、情報の利用が著しく増している状況があります。ですから、故意や過失に関わらず、情報が瞬時に拡散してしまう以上、今後はさらに情報の管理徹底が求められています。

そこで次の点にご注意いただきたいのです。

①寺院でなければ得られなかった情報とそうではない情報を分別する
②原則として個人情報はインターネットに接続しない
③情報源が自分でないものを発信する際には、情報提供者となる方に必ず許可をとる

この3点に気をつけていただければ、問題となる可能性はとても低くなります。特に、③については重要で、情報が得られたからといって、本人への確認を怠ってしまえば問題になります。法律的には問題がなかったとしても、僧侶としての信用を確実に棄損してしまうでしょう。

さらに、葬儀・法事はもちろん、坐禅会などの参加者であってもお名前や映像など無断でインターネットに拡散するような行為も厳に慎んでください。法話をする際に個人の話を引用する際も同様となります。聞法者がインターネットを使って拡散する可能性がある以上、無断で情報発信すれば問題となる可能性があります。

また情報化社会となった現代では、情報取得を容易にした反面、その情報源を特定することも容易にしています。聞いた話を自分の話かのように伝えれば、すぐに露見してしまうでしょう。出典を明らかにし、きちんと本人への許可をとることは、現代において必要不可欠なものとなってきています。だからこそ、寺院が持つ「情報」の再確認が重要となってくるのですが、適切な情報管理の方法は寺院によって異なり、正解ではなく妥当性のある対応が求められます。

個人情報保護に関するご質問は、詳細な状況を把握し、必要に応じて顧問弁護士とも相談して回答をいたします。疑問等あれば人権本部までお問い合わせください。

人権擁護推進本部記

 

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