初めての教典『梅花流詠歌和讃教典壱』が出来上がり、歌詞、音曲、曲譜が決まりました。もう一つ、お唱えに際して大切なものが詠唱に使用する道具でした。

現在の梅花流では、鈴れい、鈴房れいふさ、鉦しょう、鉦敷しょうしき、撞木しゅもく、撞木房しゅもくふさ、念珠ねんじゅ、袱紗ふくさがこれにあたり「法具」と呼んでいます。法具も音曲や曲譜と同様に密厳みつごん流由来のものでした。ただ撞木は「鈎杖しゅもく」と表記されていました〈図参照、『梅花流作法軌範きはん』昭和29年発行より。鈴は今とほぼ変わりませんが、鈎杖の図には、鈎頭こうとう（現在は撞木頭しゅもくとう）、杖索ひも（現在はひも）とあります〉。

これは真言宗ご詠歌の教えに関わることなのです。密厳流は真言宗諸派の中では新しい流派で、密厳流に先行して金剛流という流派がありました。法具の教えについて密厳流は金剛流のものを多く継承しています。そこで金剛流の法具の意味づけを次に掲げましょう。

当流におきまして鈴鉦を法具と申しますのは、三密修行の為の道具でありまして金剛界曼荼羅こんごうかいまんだらの成身会じょうじんねにある鈎索鏁鈴こうさくされいの四摂菩薩ししょうぼさつをあらわしたものでありますから、単なる楽器ではありません。これを楽器として見るならば極めて単純な楽器に過ぎませんが、これには深い意味があるのです。一、鈎杖ひも　これは鈎こう菩薩で、仏が衆生を愍あわれんでカギでお召し取り下さる所作である。二、杖索ひもこれは索さく菩薩で、迷っておるものを紐で引っぱって悟りの道へ入らしめ給うのである。三、鏁房くみふさ　これは鏁さ菩薩で、強情なものはクサリで縛って仏の道へ救い入れ給うのである。四、鈴鉦れいしょう　これは鈴れい菩薩で、鈴鉦の響きは人々に快い感じを与えます。衆生を浄土へ引き入れてよろこばして下さる。だから仏が①衆生を鈎召こうしょうし、②浄土へ引き入れ、③これを逃げぬように縛りつけ、④歓喜せしめ給うのであります。

以上の如く法具は神聖なものでありまして、み仏が我々を救い給うために用いられるお慈悲の精神を現したものでありますから、その取扱を大切にしなければなりません。（『鈴鉦のひゞき』高野山金剛講総本部、昭和27年初版、平成10年再版）

こうした密教的意味づけが梅花流で実際に行われた形跡は見えませんが、その名称はそのまま用いられ、後に現在のように変わったのでした。

秋田県龍泉寺　佐藤俊晃