【人権フォーラム】曹洞宗における地域に寄り添う活動~ハンセン病について~

2023.01.17

曹洞宗における基本的人権の擁護と不当な差別的取扱いの解消の活動は、人権擁護推進本部だけに留まらず、全国で個人、団体を問わず行われています。今回は、東海管区の曹洞宗駿河親睦会における活動の状況を同会事務局よりお伝えいただきます。


(人権擁護推進本部 記)

「曹洞宗駿河親睦会の取り組み」
   同会事務局員 静岡県伝心寺住職 井上正信

曹洞宗駿河親睦会は、ハンセン病諸問題に対する差別撤廃と入所者との親睦のため、2005(平成17)年より活動を開始しました。

また、東海管区内の宗侶を中心に、人権差別問題に学習・研修を重ね、実践に結びつけていくことを目的にしております。

学習を重ねる中で宗教者(曹洞宗)は「ハンセン病回復者(元患者)」への尊厳に対し、部落差別と同様に大きな過ちとして差別した事実があり、「ハンセン病回復者(元患者)」に対する差別心を植え付けるという国策に大きく加担し助長した過去があり、また差別図書の存在も確認されております。私たちは一仏両祖のみ教えに立ち返り、行動を起こさずにはいられないとの思いのもと、設立に至りました。

とりわけ、東海管区内の静岡県御殿場市には国立駿河療養所があり「未だ故郷に帰れない、骨になっても先祖の墓に入れない」という事例が多数あります。そこで懺悔の法要、差別の払拭に取り組むことは宗教者としての使命と考え、納骨堂前の慰霊法要は活動の中心の一角を担っています。

この活動は、東海管区内の人権擁護推進主事経験者を中心に始まり、以後、東海管区内宗務所より支援を受け、2009(平成21)年からは、東海管区の後援をいただき、管区内の人権啓発活動の一端を担う役割を果たしています。

また、親睦会の名にあるように、入所者の皆さんに喜んでいただこう、笑っていただきたいとの気持ちと同時に、地域の方々やご支援くださっている有志の方々も同席し、出会いの中から親睦を深めていただきたい気持ちで落語を中心とした催しを開催しております。

現在、慰霊法要は静岡県内の4つの宗務所の持ち回りで担当しています。私は静岡県第一宗務所の人権擁護推進主事を務めていた令和元年に法要を担当いたしました。

親睦会の前日、療養所の近隣で入所者の方々と夕食を共にし、療養所内の施設に宿泊、そして当日、宗務所人権研修会を合わせて行いました。ここ数年、担当する宗務所は、合わせて人権研修会を行う事例が増えています。

午前10時より「駿河ふれあいセンター」で小鹿おじか美佐雄みさお自治会長より講演をいただき、ハンセン病資料室を見学。参加者は教区長や宗侶だけではなく、宗務所寺族会など、57名の参加がありました。

ふれあいセンターでの研修

午前11時過ぎから納骨堂前と胎児慰霊碑で慰霊法要を執り行い、その後、納骨堂内で焼香させていただきました。その際には読経とともに、寺族による梅花流詠讃歌の奉詠もありました。

昼食をはさみ、講堂で約2時間にわたり、落語を中心とした催しが行われます。これには、浜松市出身の落語家・瀧川鯉昇師匠に第1回から出演いただいており、毎回楽しみにしている入所者の方もおられます。

しかし、新型コロナウイルスの影響で、ここ3年は慰霊法要のみとなっています。

コロナ禍の影響は親睦会のみならず、大きな停滞を生んでいます。

ここ国立駿河療養所は比較的早く、地域医療として開放されました。2013(平成25)年には一般外来患者の受け入れが始まり、納涼盆踊大会や施設の開放など、入所者と地域住民の交流も行われるようになりました。さらに中学校での啓発授業も行われています。しかしながら、コロナ禍の影響でこれらの交流も停滞しました。

胎児慰霊碑での法要

現在の入所者数は50人を切り、平均年齢は87歳を超えております。今後、入所者の人数はさらに減少し、国立の施設である療養所の統廃合が懸念されます。これには国の政策を注視していく必要がありますが、さらに重要なことが納骨堂です。

本来「療養」する施設に「納骨堂」があること自体が異常なことです。これは、植え付けられてきた差別意識のために、ご遺骨になっても故郷に帰れない現実があるためです。

宗教者は、この差別意識の助長に加担しました。

慰霊法要で最後に納骨堂の裏に回り鍵を開けてもらい、中に入って焼香させていただくときに、その現実を目の当たりにし、慰霊法要の意味や大切さや自分が僧侶であることなどを自覚し、気持ちが引き締まります。

今年度は、静岡第4宗務所の担当で、昨年10月17日(月)午後1時より慰霊法要が執り行われ、小鹿美佐雄自治会長にご焼香いただきました。

コロナ禍でも徐々に行事等が再開されてきています。当会としてもぜひ「親睦会」が再開できることを願ってやみません。

※療養所内では、患者や回復者の婚姻を認める代わりに「堕胎手術」や「避妊手術」「断種手術」が行われていた。2002(平成14)年10月に発足した「ハンセン病問題に関する検証会議」は、約2年半にわたって多角的な検証を行った。その中で2005(平成17)年、6ヵ所の療養所から114体の胎児や新生児の標本が残されていたとする報告書を公表。その後、各地の療養所で慰霊碑設置が進められた。