【International】キューバ共和国「禅をきく会」・キューバ日系人供養報告

2024.02.08

令和5年11月11日にカリブ海地域のキューバ共和国の首都ハバナにおいて、同国では初めてとなる「禅をきく会」を開催し、あわせて翌12日に公営墓地でキューバ日系人供養の法要を執り行いました。

日本の方々にとってキューバと聞くと、カリブ海の社会主義国家というイメージを抱く方が多いのではないでしょうか。しかし、そのキューバにおいても、禅を実践するグループがあり、日本人を祖先にもつ日系人も存在します。

平成26年、南アメリカ国際布教総監部の大城仙芳書記が中心となり、第1回「ラテンアメリカ禅の集い」がアルゼンチン共和国で開催されました。これは前年にペルー共和国で行われた南アメリカ国際布教110周年記念行事に中南米諸国から多くの僧俗参禅者が参加したことに端を発します。

ラテンアメリカ禅の集いでは、同じ曹洞禅を志す僧俗が一堂に会し、坐禅をはじめ読経、写経等をともに修行し、また禅の歴史や文化等の講義を通して、禅の学びを深めています。

現在までに南米各地において毎年開催され、第1回では33名だった参加者は、近年はコロナ禍によるオンライン開催も相まって100名以上が参加し、キューバ共和国やコスタリカ共和国、つまりカリブ海諸国と中央アメリカからの参加者の増加が著しく、同地域においても曹洞禅のみ教えが着実に広まっていることがうかがえます。

これを受け、令和4年、南アメリカ国際布教総監部の協力のもと、キューバ共和国、パナマ共和国等における宗教事情視察として現地の禅グループへの訪問ならびに在日本国大使館や日系移民団体へ表敬訪問をいたしました。

曹洞宗の僧籍を有する現地僧侶が、キューバ国内でグループを有し活動していることから、これまで日本の宗侶が参禅指導のために複数回訪問していましたが、当国際センターにとっては初めてのキューバ出張となりました。

キューバ共和国は、100年以上にわたる日本からの移民の歴史があり、現在も多くの日系四世、五世の方々が生活し、ハバナ市内の大規模公営墓地「コロン墓地」内にはキューバ日系人慰霊堂があり、たくさんの日系移民が納骨されています。訪問期間中、日系移民団体「キューバ日系人連絡会」の方にも参列いただき、慰霊堂内で供養を勤めさせていただきました。

その際、同連絡会の理事より、毎年11月の死者の日に合わせて在キューバ日本国大使館と共同で行っている墓参供養においての法要の依頼が正式にあったことから、昨年11月に「禅をきく会」の開催、ならびにキューバ日系人供養の法要に協力する運びとなりました。

 

禅をきく会

大城書記による法話

11月11日ハバナ市内のアジア諸国の文化施設「Casa de Asia(訳:アジアの家)」での「禅をきく会」では、初めには、全員で椅子坐禅を5分ほど行った後、大城書記によるスペイン語での仏教・禅についての法話がありました。多くの参加者にとっては初めて聞く内容のことばかりであったと推測いたしますが、皆終始真剣に聞法なされていました。最後に設けた質疑応答の時間では、多くの質問が寄せられました。

50名以上あった参加者は、日系移民や禅・仏教に興味関心がある方だけに限らず、前述のキューバ国内の禅グループに所属する方々も遠路お越しになっていました。全体的に若年層の参加が多かったのが印象的で、会の終了後、多くの方がスペイン語に翻訳された教化資料を手に取っていました。

キューバ日系人供養法要

翌12日、コロン墓地でのキューバ日系人供養法要は天候にも恵まれ、60名以上の日系移民、在キューバ日本国大使ら日本国政府関係者も多く参列される中、先述の大城書記、同じく南アメリカ国際布教総監部の田原書記、北アメリカ国際布教総監部の小島庶務とともに執り行いました。

大城書記によるスペイン語での法語の後、三宝御和讃をお唱えし、般若心経・舎利礼文の読経中に、参列者全員に焼香いただき、スペイン語での回向を持って供養法要といたしました。

物資が限られるキューバ国内において、できる範囲で手荷物で持参した仏具での法要ではございましたが、日本から遠く離れた地に移民された方々の供養を勤めさせていただきました。

キューバ共和国の日系移民の歴史は、他国の歴史とは少々異なります。1898年から日本人の移住が始まり、1930年代に最盛期を迎えます。第二次世界大戦時にはキューバ本島に次いで大きい「青年の島」の収容所に日本人が強制収容されました。

そして、1959年のキューバ革命で社会主義国家に転換し、僅かな同盟国以外との国交は閉ざされました。キューバ国内に留まった人々は日本との交流も断たれ、取り残された環境の中で、社会情勢の波にもまれながら、日本の文化と血を紡いできました。大使館職員の話では、現在のキューバ国内の物資不足は深刻であり、人々の暮らしも一層厳しくなっているとのことです。

法要後に大使館主催の昼餐会において、平田健治日本国大使からは「『この度の法要で、より深く先祖とつながった』と参加者の方がおっしゃっていました」との言葉を頂戴しました。

この度の2つの行事を通じて、現地への布教教化、そしてキューバの日系人に安寧を届けることができたのであれば幸甚の至りであります。

日本人の多くが移民したハワイ、北アメリカのロサンゼルスやサンフランシスコ、そして南米のペルーやサンパウロなどには、日系寺院が存在し、日系人を主とするメンバーの心の拠り所として、そして社会・地域住民と和合しながら日本の文化を継承し、国際布教師が中心となり、先祖供養および布教教化が実践されています。

しかし、中にはキューバのような、まだまだ宗門の布教教化が届いていない国・地域があることも容易に想像できます。

カリブ海諸国は宗制上では北アメリカ国際布教総監部管内であるものの、キューバ共和国だけに限らずスペイン語が公用語の国も多く、南アメリカ国際布教総監部の協力無くして現地の活動は難しいのが現状です。引き続き両総監部と連携していく所存です。

曹洞宗国際センター 記