梅花流詠讃歌【梅花照星に似たり】⑤
はままつフラワーパーク理事長の塚本こなみさんは、日本初の女性樹木医で、地方のフラワーパークを来園者年間100万人の人気スポットに再生させた異色の経営者です。
2024年10月、地元で開催された曹洞宗宗侶の研修会に塚本さんをお招きしました。特に興味深かったお話をご紹介しましょう。
「樹木医の仕事の9割は土壌環境を整えることです。水分量や酸素不足や、悪玉菌や善玉菌といった微生物含有量など、枝葉が枯れるとか葉が小さい、色が悪い……それはすべて根が苦しがっている状態なんです。どこか人と似ていますね。人の場合は、根は心、根性、根幹、根気、根本……。気がつけば大切なことはみんな『根』の字がつくと、ある日思いました。だから私は『心根』という言葉が大好きなんです」。
「木の命 木のこころ」と題したこの講義は、自分の至らなさに怯え、日々木から学ぶことばかりであるという塚本さんのお人柄を感ずる内容でした。
受講中、私の脳裏に浮かんだ曲があります。
いのち恵みし大地をば 豊けき根をはりささえゆく
樹木は我が身ぞ眼睛なり 青きは古を超え今を超ゆ
曹洞宗が1992(平成4)年に掲げた「人権・平和・環境」の三大スローガンの一環として、地球環境保全のための「グリーンプラン」運動が展開されました。梅花流においてもこの運動に因んだ詠讃歌として「正行御和讃」「正行御詠歌(道環)」が発表されましたが、この歌詞は「正行御和讃」の二番になります。
降った雨が土や岩に浸し み、地下水となって木々や植物、農作物などを育て、樹木は大きな根を張って、どっしりと大地を支えています。その大地の恵みを想い、私たちは自分の身体のように気遣うことが肝心です。私たちには、時代を超えて、これまで承け継がれてきた山の緑、木々の命を守り伝えていく責務があるのです。
木の命、こころを通して、自分の命、こころを考えるという点で、この歌詞が意味するところと塚本さんのお話は重なるように思えます。
樹木も私たちを生かす構成要素であると知り、それを後世まで護り伝えていくことが私たちの責務です。他の命の尊厳を考える時、私たちは自己中心的なものの見方、考え方を改め、自然と共に生きていく意識を持つよう変わっていかなければなりません。それが山河大地をわが身ととらえることなのです。 塚本さんの教えは、私たちにとっての正しき修行(正行)といえましょう。
静岡県官長寺 住職 大田哲山