【International】南米への僧堂掛搭僧海外研鑽を通じて学ばせていただいたこと
令和6年9月から約3ヵ月の期間、僧堂掛塔僧海外研鑽の制度を利用し、南米各国の寺院へ海外研鑽に行く機会を頂戴しました。

ブラジルでは両大本山南米別院佛心寺、禅光寺、禅源寺、ローランジャー佛心寺、禅隋寺、大泉寺主催の摂心を訪ねました。そしてアルゼンチンでは光林寺と不動庵、コロンビアでは大心寺と禅心寺、ペルーでは瑞鳳寺と慈恩寺、パラグアイでは拓恩寺で研鑽しました。
研鑽先のどの寺院でも、出会う人々に大変に温かく迎えていただきました。皆さまのお蔭で研鑽を最後までやり遂げることができたのだ、と強く実感しております。
日本とはまったく違う世界に飛び込み感じた戸惑いや不安は、私にとって大きな宝となりました。海外から日本に修行に来られる方々の苦労を身をもって学ばせていただくことができました。
南米では、日本をとても恋しく想われている方が多い印象を受けました。日本から移り住んだ日系の方々もそうで無い方々も、日本を大切に想われていて、サンガの皆さまが目に涙を浮かべて歓迎してくださったことに感銘を受けました。
また、圧倒的な自然の豊かさや人々の活気がありました。賑やかな街中であっても美しい鳥の声が聞こえ、道端には色あざやかに果実を実らせたバナナやマンゴーの木々が生えていました。しかし、貧困もいつもすぐ傍にありました。配給を待って道路に並ぶ大勢の人々や裸足で道路に伏している若い青年、赤ん坊を抱えて道行く人にお金を乞う女性がいました。寺院や立ち並ぶ家々、スーパーマーケット等のお店はすべて柵で厳重に囲まれて守られていました。

「誰が望んで貧しい家に生まれたい?誰だって生まれられるのならお金持ちの家に生まれたいでしょう」
日系ブラジル人の女性が話してくださったこの言葉を研鑽先の寺院で坐禅をしている間、何度も思い返しました。事実、南米では貧富の差が非常に大きく、明日食べるものにも困っている人が沢山いるとのことでした。
実際にお腹を満たしてくれる訳でも無い坐禅に一体何の意味があるのだろう、それでも南米でも多くの方々が坐禅を大切にされているのは何故なのだろうという想いが頭を巡り、涙が出ました。
滞在中には人々の信心深さに何度も驚かされました。参禅者の方々は和尚さまたちや雲水である私に対しても、とても親切に接してくださいました。すれ違う際に、皆さまに丁寧に合掌低頭をしていただくたびに、私ではなくて、私を通して皆さまの仏さまに向けてそうされているのだと感じました。合掌低頭でお応えしながら、背筋が伸びる思いがしました。
また、仏教徒でなくても聖職者に対して尊敬を持たれている方が多くあり、空港や街で挨拶をされることが度々ありました。特にアルゼンチンでは、道行く警察官の方まで国際布教師であるサボイ無門師に挨拶をされていることに驚きました。

「彼等は生涯で一度もお寺を訪ねないかもしれないけれど、仏教に良いものを感じているのでしょう」と無門師はお話ししてくださいました。
私はポルトガル語やスペイン語を話すことができません。ブラジルやペルー、パラグアイでは、日系の方々が通訳に入ってくださり、またコロンビアでは、独学で日本語を習得されている方々がいて助けていただきました。しかし、言葉が上手く通じないときでも仏教の教えや梅花流詠讃歌が共通言語となり、自然と笑顔が生まれました。
特に梅花流詠讃歌を熱心に練習されている方や、興味を持たれている方が非常に多くおられました。法具が手に入りにくいことや検定を受けたいと願っていても、彼・彼女らの思いを実現させることの難しさを知りました。インターネットが発達した今、もしもオンラインで検定を受けることができたのなら、海外で梅花流詠讃歌を続けられている方々にとって、どれほど大きな励みとなることでしょうか。

南米では、寺院ごとに現地の言葉で搭袈裟偈などの偈文やお経が翻訳されていました。ブラジルやペルー、パラグアイでは、初めは日本から移住した方々の心の拠り所としてお寺が建てられました。しかし若い世代では、日系であっても日本語を話さない方たちも増えているようで、現地の言葉での布教が今後もさらに必要となっていくことが予想されます。佛心寺の法事では日系のご家族がお寺を訪れていましたが、坐禅会では日系ではない多くの人々が集まりました。寺院の在り方が人種も超えてこの先、より大きく広く門戸を開き、移り変わっていることを身をもって知りました。
日本から遠く離れた南米の地でも仏教に出会い、良い生き方をしたいと修行されている多くの方たちが坐禅をされているということがとても心強いです。南米各地でも日本でも、皆で共に坐禅をするときの空気やお寺の雰囲気は、どこも同じで繋がりを感じ嬉しくなりました。
最後に、このたびの研鑽の機会をくださった洞松寺専門僧堂の鈴木聖道老師を始めとする老師方、応援してくださった家族、関わり支えてくださったすべての方々に心より厚く御礼申し上げます。誠に有難うございました。
洞松寺専門僧堂 井村智恭 記