梅花流詠讃歌【梅花照星に似たり】⑥
以前、朝の情報番組で、「4時10分前に集合してください」と指示があった時、あなたは何時に集まりますか、という調査の放送を観ました。
世代を問わず、4時10分前といえば、3時50分に集まるのが当然と思う人が大多数です。
ところが、一部の若い世代の人たちには4時10分のほんの少し前に集まればいいという認識の人もおり、中には約束時間どおりに来ない人も見られました。いわゆるZゼット世代(1990年代半ばから2010年代序盤に生まれた世代)の人の中には時間に対する考え方が少し違う人もいることを知る調査結果でした。
現代社会に生きる私たちは、時の流れが段々早くなっていることを感じ、「もう一日が終わってしまった」という思いを繰り返しているのが現実ではないでしょうか。しかし、過ぎ去った時間は、どういう手立てを講じても取り返すことは出来ないのです。
ものごとは常に変化し、変わらないものは何もないことを無常といいます。梅花流の曲の中には無常をテーマとした曲がいくつかあり、「無常御和讃」「無常御詠歌(月影)」や「追善供養御和讃」「追善供養御詠歌(妙鐘)」は人の死が主題となっています。
シンガーソングライター南こうせつさんが作詞・作曲の「まごころに生い きる」は、一番で無常のことわりを詠います。
そよ吹く風に小鳥啼き 川の流れもささやくよ
季節の花はうつりゆき 愛しい人は今いずこ
ほほえみひとつ涙ひとつ 出逢いも別れも抱きしめて
生きてる今を愛して行こう
小鳥のさえずりや川の流れに、移りゆく四季の花々に世の無常を感じ取り、生きている今という瞬間を大切にしていく生き方を表現した歌詞です。道元禅師は『正法眼蔵随聞記』の中で、仏道を学ぼうとする人は、今のこの日、今のこの時間を逃すことなく毎日、毎時間を充実して過ごすべきであることを示されました。
これは仏道修行に限ったことではなく、私たちの日々の務めにおいてもいえることでしょう。
1月号で、「いま」という時は一度しかなく、「いま」「ここ」を大切に生きる積み重ねが必要であることをお話しました。私たちは、明日に希望を抱くことも必要かも知れませんが、世代を超えて、「限りある時間、命」という意識を持つべきものと思います。
静岡県官長寺 住職 大田哲山