【人権フォーラム】「5・23狭山事件の再審を求める市民集会」報告(第4次再審へ)

2025.07.09

「狭山事件の再審を求める市民集会」が5月23日、日比谷公園野外音楽堂(東京都千代田区)で行われた。

狭山事件は、埼玉県狭山市で1963年5月、当時16歳の女子高校生が殺害された事件である。

この事件の背景には、被差別部落への予断と偏見による、警察の見込み捜査、また、地域住民の被差別部落に対する差別意識があったとされる。不当な差別的取り扱いの解消を目指し、曹洞宗も石川一雄さんの冤罪と無実を訴え続けてきた。本事件の判決で無期懲役が確定し、仮釈放後も無実を訴え続けていた石川一雄さんが、第三次再審請求の中、今年3月11日、86歳で死去された。今回の集会は石川さんの死去後、はじめての開催となる。現在、石川さんの遺志を受け継ぐ形で、妻の早智子さんが、4月4日に第四次再審請求の申し立てを行い、新たな再審開始への取り組みが始まっている。

集会には『同和問題』に取り組む宗教教団連帯会議(「同宗連」)他、部落解放同盟、「狭山事件」を考える住民の会など、全国より約1,200人が参加し、石川さんの死を悼むとともに再審の開始を訴えた。

 

開会あいさつ

はじめに開会に際し、部落解放同盟西島藤彦中央執行委員長より挨拶があった。

冒頭、参加者へ労いの言葉を述べられた後、「3月11日は私たちにとって、もう一つの忘れられない日となった。この無念の思いを晴らすためにも、一日も早い狭山事件の勝利を天国の一雄さんに届けたい。第四次再審も、第三次再審と同じ裁判長、裁判官が引き継ぐ形となり、比較的早い段階で一定の答えが出るのではないかと期待している。筆跡、脅迫状、万年筆の問題を含め、事実調べの実施を強く求め、この後、東京高裁へ要請行動を行い、62年間事実調べが行われていないこの状況の一日も早い解決を求め、皆さまの代表としてしっかりと高裁に思いを伝えたい。

弁護団の努力で多くの課題が解明された。それを採用し、事実調べ、証人尋問に進めば狭山事件は勝利すると確信している。何としても現在の裁判長の定年退官(来年3月末)までに、狭山事件勝利の道筋をつけたい」

また、第四次再審闘争にあたり、「新たに100万人の署名を全国的に展開していきたい。できるだけ短期間に100万人の署名を達成して、世論を裁判所に伝えていくことが、大きな原動力になる」と述べられた。

さらに再審法の改正にも触れられ、「国会議員の過半数以上が署名、賛同されながらも、実現の見通しが立たない状況が見受けられる。これが実現しなければ、たとえ裁判で勝利しても再審開始までに相当な時間がかかる可能性がある。今国会もあと1か月。何としてでも再審法改正案の成立を目指していかなければならない。そのために、各地域での署名や学習、集会を通じて大きな世論を全国各地で作り上げていかなければならない」と述べられた。

続いて各政党からの挨拶があり、石川一雄さんの妻、早智子さんのアピールへと続いた。

 

石川早智子さんのアピール

石川早智子さんの集会アピール

はじめに、集会3日前の5月20日、狭山事件の再審請求や労働組合運動を共に闘った徳島(早智子さんの地元)の友人から、励ましの手紙が届き、その友人が集会にも駆けつけてくれていることに触れ、感謝の言葉が述べられた。

その後、石川一雄さんが亡くなられた当日の様子について語られた。

「3月11日の午後3時、入院していた一雄に会いに行ってきました。『いま裁判も良い方向に進んでいるから、5月23日は頑張って二人で集会に行こうね』と話したのが、彼との最後の会話になりました。今日の集会に出ることを目標に最後の最後まで闘い続けながら、志半ばで力尽きました。精一杯生きた、精一杯闘った、一雄に『よく頑張ったね』と言いたいです」

石川一雄さんはこれまで、集会の度に詩を作成されてきた。早智子さんがその詩を最近整理していたところ、この2年間の作品には、体調の不調を窺い知れる詩がたくさん残されていたとのこと。本集会では、それらの詩もいくつか紹介された。その中で、家令和典裁判長に代わってからの苦悩と期待を詠んだ詩、また昨年10月から今年1月にかけて詠まれたと思われる、メモ書きで書かれた詩も紹介された。そして、紹介された詩の中に、自身を「うぐいす」に例えた詩があった。以前にも一雄さんは、自身を「鶯」に例えた詩を作成しており、その詩が続けて紹介された。早智子さんは、その詩について、「鶯が四季を問わず鳴き続けるように、一年中、全国各地を飛び回り、冤罪を訴え続け、支援のお願いに駆けずり回っている自分を鶯に例えたのでしょう」と説明された。

早智子さんは続けて、「寺尾判決から半世紀以上、第三次再審が始まってから19年、再審になって裁判長が10人も交代したにもかかわらず、とうとう一度も鑑定人尋問や証人尋問が行われることはなく、検察が証拠開示を拒み続け、一雄の闘い、訴えを踏みにじりました。また、再審法の不備も一雄の闘いと願いを断ち切りました。袴田事件でも、静岡地裁で再審開始決定が出てから、無罪が確定するまで10年もかかりました。私はいま78歳です。何としても生き抜いて無罪判決を勝ち取りたい、『一雄に今もかかっている見えない手錠を外したい』そう思っていますが、今の再審法では、再審開始決定を勝ち取っても、弁護団の皆さんのたくさんの支援をいただいて再審無罪を勝ち取っても、検察の上訴によっていつまでかかるか分かりません。無実の人が長い長い苦境の果てに獲得した無罪判決に対し、検察はどこまでも無実の人を追いかけ、無罪判決を否定する権利を持っているのです。一雄の無念と苦しみを二度と繰り返させないでください」とこれまでの再審請求に対する困難について訴えられた。

そして最後に、「長い年月、苦しい人生の中にいても、一雄は『生まれ変わったらまたこの村に』とも詠んでいます。また、『次の世も生まれし我はこの村に兄弟姉妹と差別根絶』というメモも残しています。一雄は誇り高く闘い続け、たくさんの兄弟姉妹、そして共闘の皆さま方に愛され、多くの支援をいただきました。今日は中山武敏先生(狭山事件の再審請求主任弁護人)も来てくださっています。一雄も本当に喜んでいることでしょう。彼は今日、この日比谷の空で『後はみんなに任せたよ』と鶯となって飛んでいることと思います。今日もたくさんの寄せ書きやメッセージをいただきました。彼は苦しい人生ではあったけれども、皆さまからこんなにも支援され、愛され続けてきました。彼の人生は決して不幸ではなかった。狭山第四次再審闘争、さらなる皆さまのご支援ご協力をお願いします」と締めくくられた。

 

弁護団報告

次に、狭山事件の再審請求弁護団事務局長の竹下政行弁護士より、弁護団報告が行われ、次のように述べられた。

「石川一雄さんからの『再審開始決定を勝ち取ってくれ』という依頼に対し、弁護団として、任務を果たすことができず、本当に申し訳ない気持ちである。一雄さんの死後、早智子さんがその遺志を継ぎ、ただちに請求人となることが表明された。これを受け、弁護団は極めて早く再審の申し立ての準備を開始した。そして、第三次再審請求の19年に及ぶ成果を踏まえ、第四次では迅速に審議を進め、再審開始決定を得ることが使命であると考え、再審請求表明から1ヵ月も経たない4月4日に再審の申し立てを行った。また事実取調べにあたり11人の証人尋問を請求しており、特に脅迫状、万年筆、殺害方法の自白に関することについて、鑑定人の尋問を早期に求めている。第四次再審の申し立てをし、すでに1ヵ月以上経過しているが、まもなく裁判所、弁護側、検察官による三者協議が行われる予定であり、最初の三者協議から迅速かつ確実に再審開始決定を得られるよう裁判所に働きかけていきたい」

続いて、狭山事件の再審請求主任弁護人、中山武敏氏からのアピールがあり、次のように述べられた。

「私は石川さんから1972年10月に手紙をもらった。その手紙には、『自分は部落差別の中で教育を受けられなかったことに対しては恨まないが、教育を受けられなかったものに対する国家の仕打ちの冷酷さは許せない』と書いてあった。この言葉が、私の弁護士としての原点となり、狭山弁護団で活動をしてきた。石川さんの無罪を求める闘いの根底には、部落差別に対する怒りと仲間への連帯の心情があった。残された我々弁護団が、石川さんの魂を胸に、早智子さんと共に、第四次再審請求を闘ってまいりたい。第四次では、これまで積み重ねてきた新証拠を元に、狭山事件は部落差別に基づく冤罪事件であることを、何としても認めさせればならない」

中山氏は最後に「共に頑張りましょう」と団結を呼びかけた。

 

基調提案

弁護団報告に続いて基調提案が行われ、部落解放同盟中央本部副委員長・片岡明幸氏より、3つの提案がなされた。

一つ目は石川さんの遺志を継ぎ、再審に向けての闘いを継続していくこと。

二つ目は、第四次再審請求について。

早智子さんが申し立て人となり、第四次再審請求が始まったが、一からのやり直しではなく、これまでの成果が引き継がれること。また、6月上旬に三者協議が予定されており、家令裁判長が鑑定人尋問について何らかの判断を示す可能性があること。

三つ目は、第四次再審請求の闘い方について。

当面の取り組みとして、新たに第四次再審請求の署名運動を全国展開し、次回の集会までに100万筆を目指す。また、早智子さんを中心に、全国で第四次再審請求スタートの集会を開催し、運動を盛り上げていくこと。

そして、喫緊の問題として、今の国会での再審法改正を目指していくとされた。

次に連帯アピールがあり、その後、特別報告として、鴨志田祐美弁護士(日弁連再審法改正推進室長)より「再審法改正の現状」についての報告があった。報告の後、「狭山事件の再審を求める市民の会」事務局長の鎌田慧さんのアピールがあった。

最後に、部落解放中央共闘会議・小林美奈子事務局長が集会アピール文を読み上げ、部落解放同盟中央本部・赤井隆史書記長が閉会挨拶を述べ、集会は閉会した。閉会後、日比谷公園周辺をデモ行進で外周し、終了後、解散となった。

 

再審請求の現状と今後の見通し

後日、部落解放同盟中央本部中央狭山闘争本部・安田聡事務局次長から、狭山事件の再審請求の現状と今後の見通しについて、お話を伺う機会があった。以下は、安田さんのお話の一部である。

参加者による集会後のデモ行進

「4月4日、石川さんの妻である早智子さんによって第四次再審請求がなされ、まもなくその第1回三者協議が行われる予定である。現裁判長である家令裁判長が来年3月に定年退官するため、弁護団は早期に鑑定人の証人尋問を実施し、再審開始決定を得ることを目指している。特に筆跡鑑定人(2名)、インク鑑定人、法医学者の計4名の証人尋問を早急に裁判所へ要求している。

犯人が残した唯一の物証であり、有罪判決の大きな根拠とされた脅迫状の筆跡鑑定は、警察による主観的なものだった。しかし、新証拠として提出された識字教育研究者による識字能力鑑定では、石川さんの識字能力では脅迫状の筆跡は困難であると指摘されている。さらに、コンピューターによる筆跡鑑定では、石川さんの筆跡と脅迫状の筆跡の間に客観的なずれが計測され、別人による可能性が高いと結論付けられた。また、有罪の根拠の一つとされた万年筆についても、昨年12月に新たに提出された新鑑定で、蛍光X線分析によるインク鑑定の結果、発見された万年筆のインクと被害者が使用していたインクとでは、含まれる元素が異なることが判明し、被害者のものではないことが示された。

このような、科学的根拠に基づく多数の証拠を提示し、事実調べの実施を強く求めていく」

 

おわりに

曹洞宗ではこれまで、「狭山事件」の再審を求める活動への支援、協力を継続的に行ってきた。再審請求は第三次から第四次へと移行したが、今後も、一日も早い再審の実現に向け取り組みを進めてまいりたい。

 

※署名のお願い(第四次再審請求)  署名用紙のデータを添付二次元コードよりダウンロードできますので、ご活用ください。なお、ご記入いただいた署名用紙は、「狭山事件の再審を求める市民の会」まで直接郵送でお送りください。(詳細は署名用紙参照のこと)

人権擁護推進本部 記