【International】北アメリカ僧堂掛搭僧海外研鑽報告
この度、令和6年10月1日から12月25日までの約3ヵ月間、アメリカ合衆国のカリフォルニア州とオレゴン州で研鑽を積む機会を得ることができました。

まず10月2日から17日の期間、カリフォルニア州ミュアービーチにあるグリーンガルチファーム・蒼龍寺で研修させていただきました。サンフランシスコ市街から車で北に約40分離れた山の中にあり、「ガルチ(渓谷)」と表されるように深山幽谷の地に建てられています。また敷地内には大きな農園があり、有機栽培について学びに来ている人もいました。
朝課では「ウィメンズアンセスター」といって、インド、中国、日本で仏教に貢献された尼僧の名前を五十七佛のように全員でお唱えします。10年ほど前から西海岸の寺院を中心に取り入れられていることとうかがいました。開山の鈴木俊隆老師の教えを護り一人一人が丁寧に行じている様子は、日本の僧堂に似た静寂な印象を受けました。
次に10月17日から20日までの期間は、サンフランシスコ市内ジャパンタウンにある日米山桑港寺での研修でした。今回は、10月19日・20日に行われた桑港寺開創90周年記念慶讃法要の補佐をさせていただきました。黒瀧康之国際布教師が入寺して10年目という節目でもあり、初会結制行持も併せて厳修されました。 桑港寺は、はじまりからしばらくの間、日系移民の信仰の場でしたが、現在では檀信徒問わず桑港寺周辺地域の方々も気軽に集まれるコミュニティとして寺院が存在し、地域社会に寺院や仏教が溶け込んでいることを感じました。また黒瀧師の同安居の方も日本から随喜されていました。日本から遠く離れた異国の地でも同安居の方との繋がりが変わらず続いており、安居を共にする仲間のありがたさを実感いたしました。慶讃法要2日目には首座法戦式が行われました。アメリカでは随喜された方が即興で法を問い、首座も臨機応変に答えることが通例とされています。今回は首座和尚さんの希望もあり、日本で行われるような激しい問答とアドリブの問答を交えて行われました。日米山の山号が表すように、まさに日米が融合した法戦式を経験させていただきました。
次に10月21日から27日までと12月18日から23日までの期間は、ロサンゼルス市内リトルトーキョーにある両大本山北米別院禅宗寺での研修でありました。10月には現職研修会や精進料理教室、ハロウィーンのイベントなどのお手伝いを、12月の研修では餅つきや日曜坐禅会のお手伝いをさせていただきました。
どの行事でも日系人に限らず幅広い層の参加者が集まり、非常に盛り上がっていました。他にも日本の季節の行事や茶道教室など様々な活動が精力的に行われています。婦人会や地域社会など多くの方の理解と協力を得て運営されており、地域社会に於ける寺院の役割や運営について身をもって感じることができました。
10月28日から11月24日までの約1ヵ月は、オレゴン州ユージーンにある正法佛眼寺での研修でした。正法佛眼寺は、暁天坐禅から夕方まで門が開かれており、訪れる人が食事も一緒に食べることができます。毎週日曜日には一般向けに坐禅や朝課、法話が行われ、パートナーや子どもと一緒に参加する方もあり、非常に活気がありました。

特に印象に残ったことは、正法佛眼寺に来られている皆さんがそこの国際布教師を「方丈さん」と呼んでいる点でした。先生と生徒の立場を意識させることや、次に同じ立場に就かれる人が「方丈さん」として入寺できることが目的であると聞きました。現在の「方丈さん」であるマクマレン懷淨国際布教師は日本での安居経験があり、そこで学んだことを尊重した上でアメリカの文化や歴史を行持に取り入れているように感じました。
最後に11月24日から12月16日までの約3週間、オレゴン州クラツカニーにあるグレートバウ禅モナストリー・大願禅寺で研修させていただきました。大願禅寺は、曹洞宗の教えを基に、アメリカという土地に根ざした修行のかたちが工夫されている点が印象的でした。参禅(独参)の時間には、坐禅や日々の行持を通じて得た気づきについて先生と語り合う場が設けられており、学びを深める良い機会となっていました。全体を通して、修行道場の雰囲気や行事の進め方にアメリカらしさが感じられ、現地で受け入れられ発展してきた「ZEN」のあり方を体感することができました。今回は臘八摂心の時期でもあり、約50名の人たちと共に修行させていただきました。摂心中は会話が無く孤独に感じますが、皆さんの坐禅がお互いを支えあい摂心を円成することができたと感じました。また終了後「あなたの山のような坐禅が私を励ましてくれた」と言われたときには、言葉の壁を越えて皆さんと一緒に坐禅できたことが嬉しく思えました。
今回の海外研鑽では、アメリカで広がる多様な寺院の在り方を知ることができました。日本から伝わった当時の教えを尊重して今も変わらず行じる場所。日本の地域寺院の雰囲気を持ちながらもアメリカの地域社会に溶け込んでいる場所。曹洞宗の禅を基にしながら、アメリカという風土や文化の中で独自に展開された「ZEN」のあり方が感じられる場所。日本にはないアメリカで生まれた新たな行持。日本の曹洞宗の中にいる私にとって、宗教や寺院の在り方などまったく違う視点に気づかされました。また寺院や禅センターに来られる方は、年齢も違えば育った文化も違う多種多様な人たちですが、仏教や坐禅に興味を持って来られています。短い期間でしたが縁あって共に生活し坐禅をすることはとても励みになり、これまでの私の修行を省みる良い機会となりました。一方、言葉に不慣れな私が皆さんにどういう存在だったかわかりません。私が励まされたように皆さんの励みになれたのであれば嬉しく思います。
多くの方の尽力に因って貴重な経験をすることができました。この場をお借りして感謝申し上げます。また今回感じたこと学んだことを活かして精進してまいります。
大本山永平寺特別僧堂 丹下達道 記