梅花流詠讃歌【梅花照星に似たり】⑧
悲惨しき憶いのあの戦争 人間を害い大地を荒し
安らぎ奪う空しさを 心に刻み忘れまじ
梅花流詠讃歌には戦争に関わる歌詞を歌う曲として、「平和祈念御和讃」「戦災精霊供養御和讃」の2曲があります。「平和祈念御和讃」一番の歌詞にある「あの戦争」とは、多くの人々が経験してきた過去の戦争を指しています。
戦争は人の命を損ない、暮らしの基盤である大地を荒らし、日々の安らぎを奪う実に悲惨なものです。その空しさを心に刻みつけ、決して忘れはしない、という想いを詠います。
今年は戦後80年を迎えました。その節目の年に、戦争末期に地上戦が行われた沖縄県で初めて、令和7年度梅花流全国奉詠大会が開催されました。 沖縄が本土に復帰した記念日である5月15日、沖縄アリーナを会場に行われたこの大会では、梅花流大会に併せ、終戦80周年平和祈念法要も勤められました。
また、一部の参加した団体は、平和祈念公園内の沖縄県平和祈念堂での慰霊法要・詠讃歌奉詠の場を設けました。これは参加者が祈念堂にて一斉に平和を祈ってお唱えするとともに、平和について学ぶ場とすることを尊重しての企画でした。
私が参加した団体においても長野県の梅花講員さんたちと一緒に詠讃歌のお唱えと慰霊法要を勤めさせていただき、戦争犠牲者の御霊の安らかならんことを願いました。
最初に「平和祈念御和讃」をお唱えする中で、かつてテレビ放送で観た沖縄戦の映像が御和讃の歌詞と重なり、私の胸には熱いものが込み上げ、目に涙が浮かびました。
法要前には、祈念堂の館長さんから平和祈念堂についての説明もあり、戦争の無益さや平和の尊さを学ぶ場である摩文仁の丘にそびえ立つ祈念堂で、法要と詠讃歌奉詠をさせていただけたことは梅花流全国奉詠大会が沖縄で開催された大きな意義といえましょう。
今、世界ではロシアによるウクライナへの軍事侵攻、中東ガザ地区におけるイスラエルとイスラム組織ハマスの大規模戦など、多くの民間人が犠牲になる争いが起きています。日本では、戦後生まれが人口の8割を占めるようになった今日、戦争を知らない世代の人々が次世代に戦禍の記憶をどのように継承していけばよいのか、が大きな課題となっています。戦争が行われていない日本だからこそ、自分たちに何ができるのかを考えなくてはなりません。 恒久平和のために私たちができることは何か、を来月号で詠讃歌の歌詞を通して考えたいと思います。
静岡県官長寺 住職 大田哲山