【International】令和8年度 北アメリカ国際布教総監部管内特派布教巡回報告~海を越えた「進一歩」の坐禅に触れて~

2025.11.25

去る6月12日より25日までの14日間、北アメリカ特派布教巡回の任に就いてまいりました。12日に成田空港を出発して、アメリカとカナダの5都市、9会場を巡る特派布教へ出かけました。

今回の布教巡回を通じて特に強く感じたことは、まさに「坐禅は伝わっている」ということでした。文化の違いがあり、日本と同じようにはいかない中にあっても、自らの生き方として坐禅に親しみ、その教えをしっかり受け止めようとしている姿には、私自身が今一度、自己を顧みつつ、学ぶべき姿がそこにあると感じました。

寺院運営面においても、坐禅を全面に押し出した運営のスタイルは、私たちの今後の寺院運営で参考となりうる点も多々あるのではないか思いました。現代の坐禅を考えたとき、その先に進んだ坐禅、「進一歩」の坐禅を垣間見ることができました。

以下、今回訪問させていただいた先で感じたことなどを記させていただきます。

はじめに赴いたのはカリフォルニア州ナショナルシティーのスウィートウォーター禅センター・光泉院でした。ゲルでできた禅堂の中で円になって一炷した後の法話でしたが、思いのほか一体感があり、特に『普勧坐禅儀』の内容に至っては、皆さんが真剣な眼差しで聴き入っている様子がうかがえました。

スウィートウォーター禅センター・光泉院のゲルでできた禅堂

翌日は、ロサンゼルスへ移動し、3会場を巡回いたしました。まず禅センター・オブ・ロサンゼルス・仏真寺では、通いで参禅される方も多いのですが、寝食をともに過ごされている方も多くいらっしゃいました。聴衆の多くは、常日頃から坐禅をされている方であり、一見装いは一般人であっても、知識や生活スタイルが、とても熱心であられたことに感銘を覚えました。

禅センター・オブ・ロサンゼルス・仏真寺の参加者

滞在していた時期のロサンゼルスでは、プロテスト(抗議活動)が行われているときでしたが、法話のテーマである「柔和」という意味を理解され、抗議にも柔和の心で臨んできますと感想を述べておられた方の姿が印象的でした。

その後、両大本山北米別院禅宗寺にて法話をいたしました。禅宗寺は、国際布教師の小島秀明師、東方大樹師が赴任されています。日本と同じような佇まいを有する禅宗寺の建物は、ここがアメリカの地であることを一瞬忘れてしまいました。

両大本山北米別院禅宗寺での特派布教

次に訪れたエンゼルシティー禅センターは、住宅街の中の一軒家が寺院となっているため、とてもカジュアルな雰囲気が特徴的でした。参禅される方の多くは、坐る作法をしっかりと学ばれた方々であり、特に昨年の大本山總持寺で奉修された瑩山禅師の大遠忌の際には、実際にご本山へお参りされた方もいて、とても有難い縁を感じました。

参加された方が、法話後の感想を述べられた中で、私が終始英語で話したことへの謝意と、戦後80年という今年に、非戦を貫くための「柔和」の心を伝えてくれたことへの感想があったことに私自身感銘を受けました。

その後、ニューヨークまで移動し、3会場での布教となりました。ニューヨークでの最初は、禅マウンテンモナストリー・道真寺でした。ここは修行道場でもあり、30名ほどの方が泊まり込みで禅の修行をしています。教会を改装したお寺となっており、中に入ると一見西洋的な空間の中にお釈迦さまが祀られているために、東西交流が形となって具現化した雰囲気の中での布教となりました。とはいえ、参禅者全員が修行用の衣服を調え、経行や独参もあり、修行僧堂さながらの過ごし方をされていました。食事も典座係の方が全員の食事を作り、全員が飯台場に集まりお唱えをしていただきます。聞法の際も坐禅をしながら聞いていただき、まるで提唱のような形になりました。

翌日には、ニューヨーク中心部へ移動し、ビレッジ禅堂・道得寺、ニューヨーク禅センターでの布教となりました。こちらの2会場は、まさに都会の禅センターという感じでした。ニューヨークのビルの中にあるオフィスを禅堂として利用しており、アフターファイブに集まる参禅者は、まさにニューヨーカーばかりです。都会的な雰囲気の中で一炷後の法話となりました。カリフォルニア同様に、作法もしっかりとされ、坐相も皆さん凛とされています。見た目はカジュアルでも中身は修行そのものです。法話のあと、「『普勧坐禅儀』で、大切にしている言葉は何ですか?」という質問をいただきました。ということは普段から『普勧坐禅儀』を親しく読誦されていることになります。私が、いつも読んでいるのですかと聞き返すと「オフコース」と自信のある回答がかえってきました。今回は、非思量についてお話をさせていただきました。

そして、最後の巡回地はカナダとなりました。ニューヨークから北上し、ハリファックスのサウザンドハーバーズ禅・千湊寺を訪れました。カナダにおける布教巡回は、初めてのことであり、記念すべき邂逅を有難く感じました。

サウザンドハーバーズ禅・千湊寺での特派布教

晋山結制が併修され、さらには略布薩法要も執り行われ、住職や首座のみならず参禅者の皆さんのための法要が営まれました。初の特派布教でしたが、皆さん真剣に最後まで聞法されました。

その後、バンクーバーへ移動し最後の会場となったのは、マウンテンレイン禅コミュニティでした。ここも市内の一軒家を禅堂として参禅者が集まる場所ですが、これまで同様に一般の方が坐禅に親しみにやって来るのですが、ただ坐禅をするのではなく、禅の教えを学びながら生き方として坐禅の修行をしておられる様子がはっきりと伝わってきました。

結びに、今般の行程中、全面的なサポートをしてくださった北アメリカ国際布教総監部のマクマレン懷淨賛事、横山行敬書記にこの場をお借りして、衷心より感謝申し上げます。

私自身、今回の縁を通じて見聞したことを今後の布教生活の中で生かしつつ、国際布教のさらなる発展を祈念し、今般の北米特派布教巡回のご報告とさせていただきます。

永昌寺住職 海野義範 記