【人権フォーラム】曹洞宗被差別戒名物故者追善供養法会・人権学習会開催報告 ~宗門の懺悔と「差別を許さない」社会実現への誓いを新たに~

2025.12.10
大本山永平寺 龍門

2025(令和7)年9月17日、大本山永平寺において南澤道人不老閣猊下御親修のもと「令和7年度曹洞宗被差別戒名物故者追善供養法会」が執り行われ、人権擁護推進本部主催の学習会を併せて実施しました。

この追善供養法会は、大本山永平寺では1981(昭和56)年、大本山總持寺では1984(昭和59)年に始まり、過去に差別的な戒名を付与され亡くなられた方々の御霊を弔い、犯した過ちを深く反省するとともに、今後の人権擁護への決意を堅持することを誓うため続けられています。

当日は、来賓として大本山總持寺をはじめ、部落解放同盟関係者、自治体役職員、および宗務庁内局、宗議会議員などが参列し、宗務所役職員や近隣教区の寺院住職さまには両班のご随喜もいただきました。

参列した方々と共に次世代への継承と差別のない社会への思いが共有されました。

 

南澤道人不老閣猊下のお言葉

不老閣猊下御垂示

法要に引き続き、不老閣猊下より御垂示を賜りました。その中で、まず参列された方々への謝辞とあわせ、物故者の御霊へ心からのお詫びの言葉を発され、ご冥福を祈られました。

その後、法要の主旨について改めて述べられ、続けて仏教的な懺悔について触れられました。その中で、自分の心に潜む三毒(貪・瞋・癡)を戒め、三学(戒・定・慧)による前向きな精進を強調されました。 

また、私たちの心がマイナスとプラスの間を常に揺れ動き、コロコロと転がる珠のようなものであり、坐禅を通じて体・呼吸・心を一つにすることが仏の境涯に通じるとされ、この功徳を信じましょうとお示しになられました。

さらに、法要で読誦した『修証義』の冒頭「生を明らめ死を明らむるは仏家一大事の因縁なり」を引用され、改めて、私たちの「いのち」についてのお示しがありました。

最後に、人権の擁護はすべての命の尊さを認め、平和に共生するための根本であると説かれ、参列者の方々へ、差別のない社会の実現へ向けたご指導と協力をお求めになられました。

法要終了後、会場を大講堂に移し、午後2時より、部落解放同盟中央本部、西島藤彦中央執行委員長による現状報告と研修会が開かれました。

 

関係者挨拶

はじめに、大本山永平寺監院小林昌道師のご挨拶がありました。

小林監院は、参列者への深い感謝の意を表し、追善供養法会にあたり「曹洞宗の総意を以て、仏弟子として過去の過ちを反省し、亡き御霊とその子孫の方々に謝罪する」と述べられました。

「差別は許さない」との初心に返る誓いを新たにし、大本山永平寺としても智慧と慈悲を育み、偏見なき人権意識を持った仏教者の育成に一層取り組むと述べられました。

続いて、曹洞宗人権擁護推進本部長である服部秀世宗務総長の挨拶がありました。

服部総長は、追善供養法会を「宗門の懺悔と新たな自覚の場」と位置づけ、参列し身の引き締まる思いだったと述べました。そして、宗門が1979年の「第3回世界宗教者平和会議」における差別発言事件を契機に、46年間反省と学習を重ねてきたこと、また、昨年度までの2年間「同宗連」の議長教団として、同和問題への取り組み、差別に関わるさまざまな対応に、宗門として尽くしてきた中で、今日、ハラスメントなどさまざまな問題に直面するにあたり、人間の尊厳と差別の問題の根深さや私たちの意識と自覚が不十分であることを痛感していると述べ、今後は宗門として次世代に向けた取り組みを一層、邁進していくことを誓いました。

最後に、再審請求の道半ばで亡くなられた狭山事件の石川一雄さんへ哀悼の意を表されるとともに、いかなる差別も許さない決意を新たにしました。

 

「差別を許さない教団」への期待

続いて、部落解放同盟、西島藤彦中央執行委員長からの現状報告がありました。

西島委員長は、若手僧侶の参加に感謝を示しつつ、部落差別が今なお社会に根強く残る現実を強調されました。また、かつて僧侶が身元調査などの差別に加担した歴史に触れ、「二度と同じ過ちを繰り返さない決意を次世代へ確実に継承すること」、そして曹洞宗が「差別を許さない教団」として社会変革の力となることへの強い期待を表明されました。

西島藤彦中央執行委員長からの現状報告

さらに、狭山事件の石川一雄さんの逝去に触れ、「『部落』の人間が犯人に違いないという社会の予断と偏見が生んだ冤罪」と強く指摘。

差別戒名については、先人たちが受けた事実に「死後の世界まで続く差別の苦しみ」への強い憤りを示され、宗教者に対し、人々の心の内面にある差別意識の解消に大きな役割を果たすよう求められました。

委員長は、インターネット上での差別の拡大にも警鐘を鳴らしつつ、真摯な思いが各寺院での行動へと広がり、次世代へ受け継がれ、社会から部落差別をなくす「大きなうねり」となることへの期待を込めて挨拶を締めくくられました。

西島委員長による現状報告終了後、初の試みとして、人権擁護推進本部主催の人権学習会が行われ、法要の参列者が受講されました。講師には、NPO法人「人権センターながの」の高橋典男事務局長を迎え、ご講演いただきました。

  

長野県の歴史的教訓 巧妙な差別と「人間が解放される瞬間」 

高橋典男事務局長の講演

高橋事務局長には、長野県における被差別部落と差別戒名問題の歴史的背景と現代的な教訓についてお話していただきました。

はじめに、長野県には約300地区あるとされる被差別部落において、江戸時代初期から戦後(昭和22年)に至るまで「革者」「畜生」「似人(人に似ているが人ではない)」、さらには「畜」の字を分解するなど、極めて巧妙で悪質な差別戒名が数多く確認された実態が報告されていることについて、話されました。

また、一例として、「部落」の指導者が多額の寄付をして戒名の修正を求めた際、当時、一般の檀家には使われていなかった一段低い位階が付与された事実が判明しており、寺院と社会の関係性の中で「部落」が構造的に排除されてきたこと、こうした差別に対し、人々は寺替え(改宗)などささやかな抵抗を続けてきた歴史にも言及されました。

こうした差別への反省から、1979年の差別発言事件を機に、『同和問題』にとりくむ宗教教団連帯会議(「同宗連」)が結成され、その設立趣意書にある「同和問題解決への取り組みなくしては、もはや宗教者たりえない」という崇高な理念は、被差別部落の人々にとって、大きな希望となったこと、また、部落解放運動の指導者であった故・上杉佐一郎氏が「それぞれの宗祖の精神に戻ってください」と繰り返し訴えてきたことに触れ、この原点を見失ってはならないと強調されました。

しかしながら、現代においては世代交代が進み、この問題を知る人が住職側、被差別部落側ともに少なくなっているため、過去の事実を風化させず、正しく継承していくことが喫緊の課題となっていることも指摘されました。

参列者で一杯の法堂

最後に、長年、差別から身を守るために「人と関わらない」生き方を社会から強いられてきた老夫婦のお話がありました。先祖の墓に差別戒名が刻まれていた事実を知り、涙を流しながらも差別と向き合い立ち上がった瞬間を「人間が解放される瞬間」として語り、差別戒名の問題が私たち一人ひとりの生き方の問題であり、「あなたが問われている」という根源的な問いを突きつけるものであると強調し、講演を締めくくられました。

閉会挨拶では、高橋英寛次長より「次世代へどのように伝えていくか、すぐに答えが出るものではないからこそ、それを問い続けていかなければならない」と述べられ、人権学習会は閉じられました。

来年度以降も追善供養法会に合わせて、人権学習会を併催していく予定です。

一人でも多くの方にご参列・ご参加いただきますようお願いいたします。

人権擁護推進本部 記