【人権フォーラム】人権学習アンケートについて ―排除なき宗門を目指して―

2026.03.09

はじめに

2025年度の教区人権学習会におきましては、僧侶、寺族、関係者の皆さま方より多大なるご協力を賜り、心より感謝申し上げます。

「曹洞宗の人権学習を考えるためのアンケート」では、およそ4000件(2026年1月末日時点)もの貴重なご回答をいただいております。統計学的な見地から見ても曹洞宗全体の意識傾向を推測するに十分な規模であり、ひとえに皆さま方の熱意あるご協力の賜物と受け止めております。

本稿では、お寄せいただいた「声」が持つ意味と、調査過程で浮き彫りとなった様ざまな課題についてご報告いたします。

 

一、「根拠」に基づく判断へ

国勢調査が国の行政を支える基盤であるように、客観的なデータは組織の舵取りに不可欠です。

これまで人権啓発や教化活動の方針を定める際、長年の経験や一部の役職者の声に依存してきた側面は否めません。先達の経験知は尊いものですが、社会構造が複雑化し、人権課題が多様化する現代において、主観的な「思い込み」だけで施策を進めることは、実態との乖離を生じさせる懸念があります。

今回のアンケート調査は、宗門が「推測」だけではなく「根拠」に基づいて次なる一歩を踏み出すための大きな転換点となるものです。

 

二、 データが示す現在の位置

(一)独善・慢心を防ぐ正見の実践
私たちは過去、差別図書の出版や差別戒名の授与といった過ちを犯してきました。その背景には「自分たちの常識は正しい」という慢心があったものと考えられます。

この度、客観的な数値を直視したことで、本部の想定とは異なる現場の意識や、見落としていた課題が明らかになりました。数値を直視することは、自らの主観を排して眼前の事実をまるごと見る「正見」の実践といえます。皆さまの回答が示す現在地とのズレを真摯に受け止め、慢心に気づくことのなかった過去の過ちを繰り返さないため、自戒といたします。

(二)「声なき声」を拾う
数値の背後には必ず生身の人間が存在します。自由記述欄の一つひとつは、現場の苦悩の現れそのものです。個人の特定を避けるため統計処理は行いますが、その苦悩を改竄しないよう、施策につなげてまいります。

菩提樹の下で「苦」を自覚した釈尊は、他者にも「苦」を見出しました。私たちの実践は、まず自分と相手の苦しみを正確に知ることから始まります。

今回のアンケートだけでなく、様ざまなデータを集めてから対話を始めることは、経験や勘に頼っていた意思決定に、さらなる羅針盤を備えることと同義です。

 

三、 調査を通じて見えた新たな課題

(一)デジタル格差という「排除」
しかしながら、調査を実施する過程で、看過できない問題に直面しました。「デジタル機器を使えないため、回答できない」という切実な声です。

「なぜ紙で配らないのか」「高齢者を切り捨てるのか」、このような現場からのご指摘は正鵠を射ています。 正直に申し上げますと、現在の宗務庁の人員体制では、数千に及ぶ紙の回答票を集計・分析することは物理的に困難です。限られた資源の中で最大限の効果を得るため、情報機器の活用が不可欠であるとの判断がございました。

しかし、「こちらの事情」によって、長年宗門を支えてこられた方々が意見表明の機会から弾き出されてしまうという事実は、重く受け止めねばなりません。

(二)差別の構造との類似性
ここで視点を変えて考えます。

私たちが取り組んできた部落差別問題をはじめとする様ざまな人権課題の核心は、「社会の仕組みによって、本人の責任でない理由で排除されること」にありました。

無論、歴史的背景や苦しみの質は異なりますが、今、急速に進むデジタル社会の中で、類似した「排除の構造」が生まれているのもまた一つの事実です。

「機器の操作が苦手」という理由だけで、意思決定から疎外され、孤立すること。これを「時代の流れだから仕方がない」と切り捨ててはなりません。意図せざる排除を見過ごさないことこそ、人権擁護の第一歩です。

 

四、 具体的な「利他行」の実践
その一歩目として、本部は「デジタルの包摂(インクルージョン)」を現代における基本的人権の擁護と考えます。その実現には、皆さま方のお力添えなくしては叶いません。

(一)皆さまへのお願い
周囲の方がデジタル機器の扱いに困っておられたら、入力の代行や操作の補助が必要かどうかを尋ねていただきたいのです。これは単なる「事務作業の手伝い」ということではありません。

かつて、寺院が参拝者のために参道を整備し、山門を開いたように、現代のデジタル空間において、孤立しかけている人を輪の中へと招き入れること。これこそ、現代における身近で具体的な「慈悲の実践(利他行)」の一つです。

スマートフォンの操作一つでも、誰かの尊厳を守る「行」になる。そう信じて、世代を超えた支え合いを切にお願いいたします。

(二)デジタル格差への取り組み
現在、デジタル庁を中心に格差の是正に向けた取り組みがはじまっています。人権本部も環境整備に取り組みます。

◇相談窓口―総務省の事業としてデジタル活用支援推進事業が行われています。研修資料なども用意されているので是非ごらんください。

また、人権本部への直接の問い合わせも可能です。各宗務所に設置される人権擁護推進委員会にて、アンケート記入に起因する問題点などを、事前に話し合っていただけるとスムーズです。

◇操作支援マニュアルの作成―大きな文字と図解で、よくある質問に対応していきます。

◇段階的な移行―最終的にはデジタルが理想的ですが、紙記入の併用期間を設け、急激な変化を緩和します。

ただし、集計・分析の都合上、紙での直接提出は受け付けすることが難しいため、電子化を前提に代理入力などの柔軟な対応をお願いいたします。

 

おわりに

今回の調査結果は、来年度以降の研修教材作成や人権啓発方針の策定に直接反映させます。しかし最も大きな成果は、調査を通じて「排除のない宗門」をともに作っていくという方向性が定まったことかもしれません。

皆さまから託された一つひとつの回答、そして代理入力してくださった方の行いが、これからの宗門の「礎石」となります。 当然ではありますが、デジタル格差の問題は檀信徒の皆さまにも生じている課題です。

情報の網の目から誰一人取り残さない仕組みを目指し、ともに歩みを進めてまいりましょう。

人権擁護推進本部 記