【人権フォーラム】【連載】寺院における情報管理と人権意識

2026.07.08

寺院には葬送・相談・行事・檀信徒対応などを通じて個人の生活や信仰に関わる情報が集まります。こうした情報に寺院には葬送・相談・行事・檀信徒対応などを通じて個人の生活や信仰に関わる情報が集まります。こうした情報には個人の尊厳に直結し、漏えいや不適切な取り扱いが人権侵害につながるものも含まれています。寺院に携わる私たちはどのような視点を持つべきでしょうか。

寺院における情報管理と人権意識について、3回に分けて弁護士の雨宮真歩さんと考えていきます。

 

第1回 寺院における情報管理について(SNS利用時の注意点)
弁護士 雨宮真歩

寺院には、沢山の情報が集まる。

このことを意識していますか。今回は、寺院が保有する情報の内容や、それら情報の取り扱いについて考えます。

 

寺院には「個人情報」が集まる

あなたの手元には、いま、どのような情報がありますか。すぐに思いつくのは、檀信徒の個人情報、すなわち檀信徒名簿ではないでしょうか。もし、それ以外には思いつかない場合は、この機会に一緒に考えてみましょう。

「個人情報」について、個人情報保護法は、「生存する個人に関する情報で、氏名、生年月日、住所、顔写真などにより特定の個人を識別できる情報」とします(注1)。したがって、檀信徒名簿は個人情報の塊です。この個人情報には、その情報単体では個人を識別できなくても、他の情報と容易に照合することにより特定の個人を識別することができるものも含まれます。例えば、生年月日だけでは特定の檀信徒を識別することはできませんが、氏名と組み合わせることで、「あの檀家(信徒)さん」と特定することができるため、檀信徒名簿に記載された生年月日は個人情報に該当します。

また個人情報のうち、その情報単体から特定の個人を識別することができるものとして政令に定められた文字、番号、記号その他の符号を「個人識別符号」(注2)といいます。例えば墓地の申込時に、住所確認等のために運転免許証の写しをお預かりするようなとき、当該運転免許証番号は個人識別符号に該当します。境内地に設置された防犯カメラに録画された画像や、責任役員会議に際しボイスレコーダーに録音された音声も、個人識別符号に該当します。

それから、個人情報のうち、本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実その他本人に対する不当な差別、偏見などの不利益が生じないようにその取り扱いに特に配慮を要する情報を「要配慮個人情報」といいます(注3)。被差別部落の出身であること(社会的身分)、癌にかかっていること(病歴)、前科があること(犯罪の経歴)、オレオレ詐欺に遭ったこと(犯罪により害を被った事実)、障害者手帳を持っていること(心身の障害)等が当たります。檀信徒から、このような話を聞いたことのある方もいるはずです。曹洞宗の教えを信仰していること(信条)も、要配慮個人情報です。

まずは、寺院には、法律が定める「個人情報」に該当する沢山の情報が集まることに気づきましょう。

 

センシティブ情報にも気をつける

「個人情報」に該当しない情報であっても、プライバシー保護の対象となることがあります。その一つが、「労働組合への加盟、門地、本籍地、保護医療および性生活に関する情報」(センシティブ情報・機微情報)です(注4)。これらの情報を漏らすと、個人情報保護法には違反しなくても、その情報の保護の必要性や取り扱い態様の程度、本人の同意の有無等により、プライバシーを侵害する行為として違法となることがあります(注5)。

つまり、個人情報の取り扱いにおいて問われていることは基本的人権を侵害してはならないという、人権感覚そのものなのです。

特に、僧侶や、過去に僧侶であった者は重い社会的責任が課せられています。業務上知り得た秘密、例えば法要の際にお聞きする身の上話や故人の死因などは、プライバシーに深く関わる内容として、秘密になります。寺務において知り得た秘密を正当な理由なく他人に漏らした場合、秘密漏示罪に問われることがあります(注6)。「その人に良かれ」と思って漏らすことも、「1人だけ」に漏らしたり、「信頼できる人」に漏らしたりすることも、厳禁です。

「店先で偶然耳にした話」は、業務上知り得た秘密ではないので秘密漏示罪には該当しませんが、そうであるからといって、他人に話して聞かせれば、状況によってはプライバシーや名誉を侵害することになります。

秘密漏示罪は、僧侶と同じく伝統的な専門職業人とされる医師や弁護士にも成立することから分かるとおり、専門職業人には、他の職業人よりも重い社会的責任が課せられ、それゆえに高い道徳性が求められ、もって、その信頼を守ることが義務付けられているのです。

 

寺院の情報発信について

さて、寺院も積極的な情報発信が欠かせない時代となりました。Instagram、Facebook、LINE、X(旧Twitter)などのSNSを使って、寺院の日常を知ってもらうことは、布教活動の一つとして必要なことであると思います。

しかしながら、いったん発信された情報は、瞬く間に広がり、不特定多数の人が目にします。発信した情報は、手元で削除できても、広まってしまった情報を削除する手段はありません。後悔先に立たず。人はそれぞれに考え方が異なりますから、常に、文脈の切り取りや受け手の解釈による「炎上」の可能性があると考え、情報発信の前に熟慮しましょう。そのためには、あえて、自分とは異なる考え方を持つ人、例えば、寺族や総代に事前に見せて意見をもらうと良いです。

 

知識と表現は別のこと

具体的には、「情報」と「発信」を分けてください。情報とは、自分が持っている知識のことをいいますが、「知っていること」と、それを「表現(発信)すること」は別のことです。 最初に、手元にどのような情報があるのかをチェックしてください。先ほど説明したとおり、寺院には沢山の情報が集まります。そのなかから、発信の対象に相応しいものと、そうでないものを「仕分け」しましょう。特定の個人に関わる情報は、その内容がどのようなものであれ、当該個人の承諾を得られない限り、対象から外しましょう。例えば、行事の写真を掲載する場合、その写真に顔が映っている方の承諾をもらいます。風景写真を掲載する場合でも、背景に写り込みがあるかどうかの注意も必要です。SNS発信を見越して、行事の際に檀信徒に事前に承諾してもらったり、そもそも顔が映らないように後ろから撮影したり、顔の部分にスタンプを貼るなどの加工を加えたりする方法もあります。

次に、発信するにあたり、その見せ方、コメントの言葉遣いや内容を吟味してください。特に、文字による表現はそう簡単なことではありませんから、「伝えたい」「知ってもらいたい」という熱い思いがあふれるときこそ、冷静になってください。僧侶として発する言葉には力があります。また、発せられた言葉は一人歩きをし、違った形で伝わることもあります。そのことを意識し、言葉に対する感覚を研ぎ澄ましておくと、SNS使用のみならず、日常の寺務にも大いに役立ちます。

最後に、法人と個人のどちらのアカウントを使用するかを選びます。思想信条の自由は絶対的なものですが(注7)、意見や論評を含む表現を積極的に発信するときは、それが「誰の」意見論評と受け止められ、そのことにより「誰に」「どのような」影響を与えるのかを考える必要があります。内容によるとはいえ、寺院のアカウントで、意見論評を発信することはお薦めしません。住職一人の意見論評であるのに、副住職や寺族、場合によっては檀信徒の総意のように受け止められかねず、これら寺院関係者に与える影響が大きくなりかねないからです。個人のアカウントの場合も、「僧侶」という肩書きに「曹洞宗」というキーワードを付けると、包括宗教法人曹洞宗全体の意見論評であるとの印象をあたえかねません。情報のなかみ、言葉遣いとともに、アカウントの使い分けにもご注意ください。

なお、フォロワー数が多く影響力のある人が、他人の名誉を毀損するような投稿に「いいね」を押す行為が不法行為に該当するとした判例があります(注8)。他人の発信に対する消極的な発信も、状況によっては、名誉毀損や侮辱に当たりかねないことを覚えておいてください(注9)。

 

炎上等したときは

熟慮に熟慮を重ねても、個人情報が漏れてしまったり、「炎上」してしまったりすることは考えられます。個人情報の漏えいは、寺院の信頼を損なうおおごとです。当該情報の本人に、状況を説明して謝罪し、できる範囲で情報を削除し、信頼回復に努めましょう。当該情報の本人から、法的な請求を受けてもやむを得ません。

コメントやDMで、悪意のある書き込みをされたり、連絡を受けたりすると、ショックを受けると思いますが、即座にコメントやDMに返信しないようにしてください。「同じ土俵にあがる」ことが、さらなる「炎上」を生むことがあります。悪意のある書き込み等をする人は、次の攻撃対象が見つかれば、絡んでこなくなることもありますが、住職や寺族の名誉毀損や侮辱という基本的人権を侵害する内容であれば、書き込み者を特定し、法的請求をするという毅然とした対応が必要なこともあります。ただし、手続は簡単ではないため、必ず法律専門家にご相談ください。各地の弁護士会に法律相談センターがあります。何をどうしたらよいか分からないのであれば、まずは、違法・有害情報相談センターに相談すると良いでしょう。身の危険を感じるような場合には、ためらわずに、最寄りの警察署にご相談ください。投稿やDMの画面、URL、投稿日時、相手のアカウント名などを保存しておくと、いずれの相談に際しても、事情を伝えやすく、相談がスムーズにすすむでしょう。

なお、SNSには、書き込みを許可しないとか、ブロックする機能もありますので、紛争予防の観点から、そのような機能も活用してください。 個人情報、SNSというテーマが、私たちの基本的人権に関わるのは、私たちの日常生活が、私たち一人一人の基本的人権で成り立っているからです。基本的人権という視点をもって寺務に励むことは、日常における人権学習であるといえるでしょう。

注1:個人情報の保護に関する法律二条一項
注2:個人情報の保護に関する法律二条二項
注3:個人情報の保護に関する法律二条三項
注4:金融分野における個人情報保護に関するガイドライン五条
注5:民法七百九条、民法七百十条
注6:刑法百三十四条二項「秘密漏示」
注7:日本国憲法十九条『思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。』 (条文より抜粋)
注8:最高裁判所第一小法廷令和六年二月八日決定(いわゆる「いいね」訴訟)注9:刑法二百三十条『公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、…に処する。』(条文より抜粋)  刑法二百三十一条『事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、… に処する。』 (条文より抜粋)

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第2回は9月号「過去帳などの取り扱い」を予定しています。

 

◆ポッドキャスト配信のお知らせ
人権擁護推進本部では、この度ポッドキャスト「わ わ わ」の配信を開始いたしました。「人権」について、宗教者と各分野の専門家の対話を通して考え、学んでいただく番組です。ぜひご聴取いただくとともに、檀信徒の皆さま方へもお薦めいただきますようお願いいたします。

◆「過去帳」等の取扱いについて
昨今、軽率な過去帳の取扱い事例がありました。過去帳・檀信徒名簿等の寺院記録につきましては、管理の再確認をお願いいたします。寺院に集まる情報は思想、信条に関わるもので、個人情報の中でも、特に慎重な取り扱いを求められています。代表役員として住職に責務がありますことを改めてご認識ください。

これらの記録情報については、原則として閲覧・開示・展示、転記・写真撮影・複写・持ち出しはできません。身元調査や目的外の家系図作成など、故人さまのお名前を不特定多数に公開するような協力は行わず、厳重な管理をあらためてお願いいたします。

人権擁護推進本部 記