【International】遠く南米に息づく寺の心
令和8年5月、梅花流特派師範として、ブラジル、パラグアイ、ペルー3ヵ国、6教場における特派講習会を担当するご縁をいただいた。
日本から約30時間、17日間にわたり、ブラジルでは禅源寺、パッソ・フンド市のムシオ・デ・カストロ市立劇場、両大本山南米別院仏心寺、ローランジャ佛心寺、パラグアイでは拓恩寺、そしてペルーでは瑞鳳寺を巡回した。各教場には異なる歴史があり、梅花流を通して仏法を伝えようとする熱意に満ちていた。
禅源寺では約40年続く梅花講の伝統が息づき、ムシオ・デ・カストロ市立劇場では故ヘブンス一心老師の遺志を受け継ぎ、梅花流による布教が続けられてきた。両大本山南米別院仏心寺では日系・非日系を問わず共に学び、ローランジャ佛心寺では講員同士が自主的に研鑽を重ねていた。パラグアイの拓恩寺では梅花流に関心を寄せる方々が熱心に受講され、ペルーの瑞鳳寺では供養の心を大切にしながら詠讃歌を学ぶ姿に接した。規模も環境も異なる教場に共通していたのは、お寺を未来へ伝えようとする強い願いであった。


を分かち合う受講者の皆さま
今回の巡回で最も心を動かされたのは、お寺を支える理事(役員)の皆さま、そして梅花講員の皆さまの深い思いである。講習を受けることそのものが目的ではなく、お寺を護り、仏法を次の世代へ伝えたいという願いが、自然と人々を集わせているように感じられた。義務感で参加する方は一人としておらず、一曲でも多く学ぼうとする真剣な眼差しに、こちらが教えられる思いであった。
講習はポルトガル語やスペイン語への通訳を介して行ったが、禅源寺とローランジャ佛心寺では日本語だけで進めることができた。南米の地で詠讃歌の意味や作法を日本語で語り合えたことに深い感動を覚えた。一方、ムシオ・デ・カストロ市立劇場、両大本山南米別院仏心寺、拓恩寺、瑞鳳寺では通訳を介したが、言葉は違っても合掌する姿や仏祖を敬う心に隔たりはなかった。梅花流とは、まさに言葉を超えて心を伝える教えであると改めて実感した。
とりわけ印象深かったのは、パラグアイの拓恩寺の理事、松永真一さんである。5歳で日本を離れ、移住先で野菜農家として成功を収め、今も地域と寺院を支えておられる。講習前にはイグアス日本人会と移住資料館をご案内いただいた。館内には移住の歴史を物語る品々が並び、その中に私が少年時代に日本で親しんだパソコンであるNECの「PC-8001」が大切に保存されていた。遠く南米の地で懐かしい一台と再会した驚きとともに、それが移住史を語る貴重な資料として守られていることに深い感銘を受けた。
さらに驚いたのは、イグアス移住地では今も日本語が日常生活の中に息づいていたことである。松永さんの話から、移住した先人方にとって寺院は法要の場であるだけでなく、日本語を話し、日本の文化を伝え、互いに励まし合う心の拠り所であったと知った。ブラジル開教(国際布教)70年、ペルー開教(国際布教)120年という歳月の中で、先人方は異国に生活の基盤を築くのみならず、寺院を建立し、日本語や文化、仏教の心を守り続けてこられた。その歩みが今日まで脈々と受け継がれる姿に接し、「百聞は一見にしかず」の言葉を改めて実感した。

されていたNEC PC-8001

巡回の起点となった両大本山南米別院仏心寺でも、忘れ難いご縁があった。通訳を務めてくださったマルシアさんのお父さまは、約70年前、高階瓏仙禅師がブラジルへ巡錫された折に生活を支えられたご家族である。その娘さんが今、オンライン講習の通訳として梅花流の布教を支えてくださっている。人と人とのご縁は世代を越えて受け継がれ、海外布教の歴史は、こうした一人ひとりの支えによって紡がれてきたのだと実感した。
日本では、お寺があり、法要があり、梅花流を学ぶ環境があることを、いつしか当たり前と思ってしまう。しかし南米では、その当たり前を守るため、多くの方々が仕事の合間を縫い、時間を惜しまず寺へ集い、支え続けている。寺は建物だけで成り立つものではない。護ろうと願う人々の心があってこそ、その法灯は受け継がれていく。そのことを南米の皆さまから教えていただいた巡回であった。
最後に、全行程にわたり細やかなご配慮と温かいご支援を賜った南アメリカ国際布教総監部書記・田原良樹師、並びに献身的にお支えくださったバチスタ ド ナシメント正栄師に心より感謝申し上げたい。また、お目にかかることは叶わなかったが、南アメリカ国際布教総監として当地の布教を支え、今回の巡回にもご尽力くださった清野暢邦老師にも深甚なる敬意と感謝を申し上げる。
海を隔てた遠く南米の地に、先人方が灯された法灯は、多くの人々の祈りと願いによって今日まで受け継がれてきた。その「寺を護る心」は、今も確かに息づいている。今回いただいた尊いご縁と学びを胸に、私もまた自坊をはじめとする布教の現場で、その法灯を未来へとつないでいきたい。
梅花流特派師範 静岡県第242番真珠院住職 稲井弘純



