【人権フォーラム】「差別図書」回収のお願い と廃棄の報告

2016.10.17

1979(昭和54)年「第3回世界宗教者平和会議」での差別発言事件をきっかけに、宗門における部落差別をはじめとするあらゆる差別の解消に向けた取り組みが始められました。特に、部落解放同盟からの確認・糾弾会を通して指摘された、「差別戒名」「差別図書」の存在、「身元調査」への加担の実態、これらへの取り組みは人権擁護推進本部設置以来の最重要課題となっています。しかし、図書回収に取り組んでから34年を経た現在においても、残念ながら「差別図書」の完全回収には至っておりません。

※「差別戒名」の改正状況については、こちらで既報のとおりです。

 

「差別図書」回収について

 

人権擁護推進本部では、現在、下記四種の「差別図書」を回収しています。

『禅門曹洞法語全集・坤』

両祖さまを始め、祖師方や宗門の碩学による法語の類を集め編纂し解説を加えた書籍ですが、この中に経歴不明の無住道人という人物が書き記した『禅門小僧訓』が収録されており、被差別部落の檀信徒に「差別戒名」を付与することなどが書かれています。

『洞上室内切紙参話研究並秘録』

僧侶が師から弟子へ代々伝える「切紙」と「参話」をまとめ解説を加えたものですが、その中の「非人癩病狂死者引導法幷符」と「非人引導因縁」と題する箇所では、被差別部落の人々や、ハンセン病者、障がいのある人々に対して一般の人と比べて差別した方法で儀礼を行うよう指導しており、「留穢之大事」と題する箇所においては性差別に関する表記が認められます。

『曹洞宗全書・拾遺』

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回収された「差別図書」

この書籍についても「非人癩狂病死引導文幷符」という箇所で、差別儀礼を修行するよう指導しています。 

『曹洞宗修証義説教大全』

明治期の『曹洞宗報』第71号(1889〈明治32〉年)から第126号(1902〈明治35〉年)まで連載された『修証義』の解説を一冊の本にまとめたものですが、部落差別だけでなく、身分、職業、性、民族差別などを助長するような説教が収録されています。

これらの書籍が見つかった場合は人権擁護推進本部へ郵送いただいておりますが、どういう状況で書籍が発見されたのか、いくつかの事例を紹介いたします。

・研修会で「差別図書」の存在を知った寺族が、寺院の書庫を点検したところ発見された。

・教区会で「『差別図書』の完全回収にご協力を」の資料の複写を受け取った住職が、資料を見ながら再点検したところ、当該書籍が発見された。住職曰く、「『差別図書』については話を聞いて知っていたが、資料によって視覚的に書籍のことが分かり、今回の発見につながった」とのこと。

・古書を扱う書店から、「差別図書」が入庫されたという連絡が人権擁護推進本部に入った。

図書回収は1982(昭和57)年1月より取り組んでおりますので、先代住職が確認済みであるという方もいるかもしれませんが、それでも改めて書庫等をご確認いただきますようお願いいたします。

 

「差別図書」の交換について

 

・『禅門曹洞法語全集・坤』

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「差別図書」の内容を確認

・『洞上室内切紙参話研究並秘録』

・『曹洞宗全書・拾遺』

この三種については、当該書籍に注意書きや謝罪文、解説を付けた『補訂覆刻本』を交換本としてお送りしています。

これらの書籍は「差別図書」ではありますが、宗門における貴重な資料が含まれていることや、差別の歴史を隠ぺいせずに、二度と差別をしないよう、差別解消のための教材とするために、あえて補訂覆刻本と交換するという方法をとっています。

すでに手続きが完了し、寺院に送った交換本を、「差別図書」として人権擁護推進本部にお送りいただいた事例もありましたので、図書を点検する際には、書籍の冒頭部分に注釈や謝罪文が掲載されていないかも含めてご確認いただければと存じます。参考として、『曹洞宗全書・拾遺』に記載の謝罪文を以下に掲載いたします。

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謝罪文

この度、当刊行會が昭和48年に覆刻刊行しました『曹洞宗全書』「拾遺」の中に、差別思想に基づく表記のあることを、その自主点検の過程において発見しました。

いかなる意味においても、人間が差別されることは許されません。たとえ、本書の当該個所が過去の歴史資料であるとはいえ、不用意にそのまま刊行したことは、差別思想の容認助長につらなるものであり、それはまた、仏祖の慈訓に反する行為でありました。ここに深く懺悔するとともに、関係各位に心からお詫び申し上げる次第であります。

したがいまして、本書の取り扱いについて宗務庁と協議のうえ、初版本及び同覆刻本を即刻回収・廃棄し、改めて解説文を付した補訂覆刻本を作成して交換することにいたしました。

以上、本書の初版本及び覆刻本に見られる差別表記についての反省と謝罪、並びに現在の決意を申し述べ、謝罪文といたします。

 

昭和58年2月10日

曹洞宗全書刊行會

編集委員會

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なお、次の書籍については、担当所管部にて回収しておりますので、併せてご確認ください。

・『曹洞宗海外開教伝道史』

担当/教化部国際課

・『はがき伝道―閑話百題』

・『はがき伝道集大成・閑話百題』

担当/出版部出版課

 

「差別図書」の廃棄について

 

これまで回収された「差別図書」は、次のとおり廃棄してまいりました。

・第1回目

昭和58年2月23日

廃棄数 3941冊

・第2回目

昭和59年5月24日

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工場での破砕処理の様子

廃棄数 1041冊

・第3回目

平成10年10月14日

廃棄数 1270冊

・第4回目

平成28年7月29日

廃棄数 291冊

第1回目、第2回目は「差別図書」を東京法務局に直接引き渡し、焼却処分しています。

第3回目は、東京法務局との協議の結果、宗門による自主廃棄と決定し、東京法務局人権擁護部職員立会いのもと焼却処分しました。

第4回目となる今回は、東京法務局人権擁護部職員立会いのもと書籍の冊数等を確認し、機密書類の廃棄を行う専門業者に引き渡し、最終的に溶解処分しました。作業行程は、次のとおりです。

・人権擁護推進本部で出版年度等をもとに細かく分類

・東京法務局人権擁護部職員に「差別図書」について説明

・書籍の冊数を確認して、業者指定の機密書類廃棄の専用段ボールに詰め込み、専用カートにダンボールを載せてカートを施錠

・業者のトラックに専用カートごと積み込み工場へ搬入して書籍をシュレッダー処理

・破砕処理された書籍は、通常の多量の古紙とブレンドされ、圧縮・梱包後、速やかに製紙会社に出荷、溶解処理し、新しい紙製品へリサイクル

 

おわりに

 

「差別図書」を放置することは、差別や差別意識の温存につながりかねません。皆さまには今後も「差別図書」の完全回収に向けてご協力いただきますよう、よろしくお願いいたします。


なお、著作権が切れた書籍が、宗門ではなく一般の出版社から販売されていることが判明しています。著作権保護期間を過ぎた『曹洞宗全書・拾遺』については、初版本電子版DVD‐ROMが頒布されていますが、このDVD‐ROMには、宗門の発行する補訂覆刻版とは異なり、謝罪文や解説文が記載されていないため、新たな差別が生み出される可能性も否定できません。このことに関する宗門の見解を次ページに記載いたしましたので必ずご確認いただき、宗門の取り組みに対しご理解ご協力を賜りますよう、よろしくお願い申しあげます。


(人権擁護推進本部記)

※参考資料
・『曹洞宗人権学習基礎テキストこれだけは知っておきたいQ&A』

「差別図書」の完全回収にご協力を

 

『曹洞宗全書』初版本の復刻版電子版DVD-ROMの販売に関する注意喚起(PDFデータ)(新しいタブで表示されます)

 

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