【人権フォーラム】狭山事件の再審を求める市民集会 冤罪54年~いまこそ再審開始を!~参加報告

2017.07.10
無実を訴える石川一雄・早智子夫妻

石川一雄さんが不当逮捕され冤罪に陥れられてから54年が経過した5月23日、日比谷野外音楽堂で「狭山事件の再審を求める市民集会 冤罪54年~いまこそ再審開始を!」が開催された。暑い日差しが照りつける中、一日も早い再審開始を願う「同宗連」、部落解放同盟、部落解放中央共闘会議、狭山事件を考える住民の会など総勢2600人の人々が会場を埋め尽くした。

はじめに、部落解放同盟中央本部中央執行委員長の組坂繁之氏が開会挨拶を述べ、各政党の挨拶を挟み、冤罪被害者・再審請求人の石川一雄さん、妻の早智子さんのアピールへと続いた。

石川一雄さんは「残念なことに再審開始決定、事実調べを実現できないまま54年を迎えてしまった。この第3次で終結するためには、やはり皆さんの力が不可欠であり、今こそ司法を倒すとき。

昨年の下山進氏の鑑定により、発見万年筆(ブルーブラックインク)が被害者の女子高校生のものではないことが証明された。私は涙を流し、その鑑定書を読んだ。私がもし犯人だったら、被害者の万年筆が私の家にあるはずがない。それを証明したのが、氏の鑑定である。この証拠を司法に付きつけていく」と再審への決意を述べた。

石川早智子さんは「今まさに狭山54年の闘いは、最終段階にあり、皆さんや弁護団の闘いの中で、司法を追い詰めていることは確か。

去る5月10日に、弁護団、裁判官、検察官が32回目の三者協議を行った。この中で検察は、弁護団が昨年提出した下山鑑定については反論、反証の方向で検討するとしており、川窪鑑定(発見万年筆が脅迫状の訂正に使われた万年筆ではないことを証明した)については反論、反証の見通しが示せないと回答した。  

検察が隠し続けた被害者の万年筆のインク瓶(ジェットブルーインク)が50年目にして開示されたが、そのインク瓶を鑑定したのが、下山氏である。この鑑定によって、発見万年筆(ブルーブラックインク)が証拠の捏造であることが明らかとなり、検察はこれに中々反論できないのではないか。

また、弁護団が開示を要求している証拠物に被害者の財布や手帳があるが、それらの証拠について検察は関連性がない、必要性がないと開示を拒んでいる。しかし、必要があるかないかどうかを決めるのは検察ではなく、裁判官である。裁判官には姿勢を正してほしい。冤罪を作ろうと思って、裁判官になった人は誰もいないはず。裁判官が心から真実を明らかにしたい、冤罪の加担者になりたくないと思っているならば、50年以上も石川一雄の『無実の証拠』を隠す検察に対して、全証拠開示の勧告を速やかに出すべきだ。

今日も東京高裁の前でこれを訴えた。裁判所には事実調べ、下山鑑定などの鑑定人尋問を、検察には全証拠を直ちに開示するよう皆さんの声をさらに大きくしてほしい」と訴えた。

石川夫妻のアピールの後、狭山弁護団主任弁護人の中山武敏氏より「事件発生から54年、第3次再審で提出された新証拠は、191点となった。新証拠の開示、事実調べを何としても実現せねばならない。

事件における差別捜査(警察の予断と偏見に満ちた被差別部落の青年たちに対する見込み捜査こそが冤罪を生んだこと)の実態、何故に石川さんが自白に追い詰められ、第一審段階で自白を維持したのか、差別された中での教育歴、生活歴にまで裁判所に迫る必要があるのではないか。

弁護団加入時に石川さんからもらった手紙の一通がこの事件と関わることになった原点である。手紙には、『先生は部落出身であるとのことで、私には心強い限りで、その意味からもぜひ私の弁護人になっていただき、意見を通して根本的に部落問題にメスを入れてほしい。部落民であったため、国家権力の保身の道具として使われてしまった立場を今振り返り、悔しく思えてならない。貧困により最低限の教育すら受けられなかったことを恨むわけではないが、教育を受けられなかった者に対する国家の仕打ちがあまりにも憎く、そのことが私の胸の中に深く刻まれている』と書かれていた。

狭山弁護団事務局長・中北龍太郎氏の報告

石川一人の命は、300万部落民の命という解放同盟のスローガンは、全国の被差別部落の人々の心を捉えた。最後まで力を振り絞り司法と闘う、頑張りたい」と結んだ。

続いて、狭山弁護団事務局長の中北龍太郎氏が各弁護人を紹介し、その後報告があった。

「この第3次で多くの証拠開示を勝ち取ることができた。新証拠の提出がその武器だったと思う。新証拠は191点、開示証拠は187点に上るが、これらの開示証拠によって、石川さんを有罪としている寺尾判決は崩れ、『証拠隠し』によってかろうじて成り立っている状況だ。

取り調べ録音テープ、石川さんが逮捕された当日に書いた上申書が開示されたことにより、当時の石川さんの国語能力は小学校一年生で習うひらがなさえまともに書けず、まさに部落差別により文字を奪われた非識字者であったことが客観的証拠によって証明された。文字の読み書きができなかった石川さんに脅迫状が書けるはずがない。  

そして、取り調べ録音テープによって明らかになった事実は、石川さんの自白は強要され、誘導されたものであり、石川さんは犯行内容についてまったく語れない(無知の暴露)があらわれていることだ」

また万年筆問題を上げれば、下山氏の鑑定では、石川さんの家の鴨居から発見された万年筆は、被害者のものではないことを証明している。万年筆のブルーブラックインクの中に当時被害者が使っていたジェットブルーインクの成分が微塵たりとも混在していない、つまりブルーブラックの成分のみであったことが、ペーパークラマトグラフィによる実験により科学的にも証明されており、万年筆から被害者の指紋も石川さんの指紋も検出されていない。

被害者の万年筆が石川さんの家の鴨居から発見されたとして有罪の根拠とされてきたが、当時石川さんの家を警察官が10名以上で2時間以上かけ2回にわたり捜査したにも関わらず、万年筆は見つからなかった。しかし、3回目では、わずか4人の警察官が数十分足らずの捜査で万年筆を発見したことになっており、極めて不自然としか言いようがない。鴨居から発見された万年筆は、誰の目から見ても十分に目に届く範囲にあり、2回の捜査で万年筆の見落としはありえない。ゆえに石川さんの家には始めから万年筆はなかった。発見万年筆は異質であり、当時被害者の女子高校生が使用していたジェットブルーインクの万年筆とは無関係であることが証明された。発見万年筆こそ証拠の捏造そのものだ。

続けて中北氏はこう述べる。

「検察官は、この鑑定に反証するための証拠作りを急いでおり、夏頃にその証拠が出てくると思われるが、弁護団はこの反証を全力で突き崩し石川さんの無実を揺るぎないものとしていく。

被害者の鞄については、実際の鞄発見場所と石川さんの自白の内容が大きく食い違っている。航空写真が開示され、その写真をつぶさに検証すると、石川さんの自白の中での鞄処分地点と実際の鞄発見地点との地形と距離がまったく違っている。実際の鞄発見地点とずれている石川さんの自白でさえも、取り調べ録音テープによって露骨な誘導により作られていることが明らかになっている。石川さんは鞄の処分地点などまったく知らない。

このように作り上げられたこの事件の有罪証拠の確信は、どれも完全に崩され、むしろ警察が仕掛けたものであるという疑いが強まっている。

これらの証拠開示について、検察官は一貫して拒否しているが、何としても弁護団は裁判所に要望、勧告書を出させて証拠開示を迫っていきたいと思っている。

真宗大谷派・寺田正寛氏の集会アピール

皆さまの力で第3次再審請求審をここまで実現できた。皆さまの活動と中山弁護人を始めとする弁護団の取り組みは、車の両輪のようである。私たちの『無罪の確信』をどのように裁判所に伝えるのか、裁判所を説得できるかが弁護団の課題と思っている。これまでの蓄積の上にこの正念場、最後の詰めの段階まで力を尽くし、石川さん無実の世論をさらに広げていきたい。共に頑張ろう」

弁護団報告の後、部落解放同盟中央本部書記長の西島藤彦氏より本集会の基調提案があり、新証拠の意義について説明、東京高裁に再審を求めるより大きな世論を作り上げていこうと呼びかけた。その後、袴田秀子氏(袴田事件における再審請求人袴田巖氏の姉)、冤罪被害者の菅家利和氏(足利事件)、桜井昌司氏(布川事件)、作家であり狭山事件の再審を求める市民の会の雨宮処凛氏よりそれぞれ連帯アピールがあった。

続いて、「同宗連」(同和問題に取り組む宗教教団連帯会議)事務局長・真宗大谷派解放運動推進本部事務部長の寺田正寛氏より集会アピールがあり、参加者一同は再審実現への決意を共に確認した。

一同デモ行進

最後に、部落解放中央共闘会議事務局長、日本教職員労働組合書記次長の則松佳子氏より閉会挨拶があり、参加者一同「団結がんばろう」とコールして閉会となった。

集会後一同は、日比谷公園西幸門を出発し、東京の常盤橋公園までをデモ行進した。一同は石川さんの無実を世間に強く訴え、一日も早い再審開始と東京高裁には事実調べ、鑑定人尋問、証人尋問を、東京高検には速やかに全証拠を開示するよう声を大きくした。一人一人の声は、司法の壁を揺るがす雷鳴のようであり、石川さんの揺るぎない再審への決意と共にあることを改めて心に刻んだ瞬間であった。

 

請願署名はがき運動のご協力を

本年4月に宗務所、管区教化センター、人権啓発相談員宛にお送りした東京高裁・東京高検宛ての請願署名はがきを複写し十分に活用いただくよう改めてお願いしたい。高裁・高検に宛てた請願署名はがきは、証拠開示を公正公平にするためのものであり、私たちの人権や尊厳が守られるためには、常に司法制度そのものが問い糾されなければならない。

石川さんのみならず私たちも冤罪被害にあう可能性があり、これはひとりびとりの問題である。そのことから分かるように、宗教者としては裁判所に対して速やかに事実調べ、鑑定人尋問、証人尋問を行うよう、検察に対しては全証拠開示を行うように、粘り強く求めていかなければならない。

弁護団提出の様々な新証拠が明らかにされていく中で、寺尾判決は完全に崩れ、石川さんの無実が確実に明らかになっている。今このときこそ、宗教者ひとりびとりの力を結集すべきときである。声を一つに歩みを一つにし、共に全力を尽くして闘い抜こう。

冤罪54年という長きにわたる公権力の人権侵害、司法による証拠隠しを許してはならない。本来、事実調べを行うはずの裁判所が42年間一度たりとも行わず審理を尽くしていない、検察も石川さんの無実を示す全証拠を開示しないことは不正義に値する。これ以上の時間稼ぎと人権侵害は許されない。  

石川さんは「裁判所の事実調べが行われれば、私の無実は完全に明らかとなる。その実現に向けて最大限の力をいただきたい」と訴え続けている。

皆様の署名が再審の扉を開く力となる。切に協力を願うものです。

東京高裁、東京高検に対する要請ハガキの見本はこちらよりPDFでご覧いただけます。

(人権擁護推進本部)

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