【人権フォーラム】「障害者差別解消法」について学ぶ

2017.09.27

はじめに

「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(通称「障害者差別解消法」)が施行されてすでに1年が経過しました。社会的な幅広い取り組みが期待されるなか、一昨年宗門では、人権啓発映像第17作『寄り添う~人間の尊厳を守る~』を制作いたしました。作中の「障がい者とともに」の章では、本法律の公布に触れるなかで、「障害の有無に関わらず、人と人とが共に生きていく社会」について考えました。
さらに、今年度教区人権学習会視聴覚教材『過去帳と人権~情報管理の徹底を』では、昨年7月に発生した「相模原障害者施設殺傷事件」での「障害者は生きていても無駄」などという著しく差別的な容疑者の偏見について取り上げています。
特に「相模原障害者施設殺傷事件」は、先の法律が施行され、障害がある人々の社会参画が前進するなかでの衝撃的な事件でありました。

 

「相模原障害者施設殺傷事件」の衝撃

2016(平成28)年7月26日未明、神奈川県相模原市にある知的障害者福祉施設「津久井やまゆり園」に、当時26歳の元施設職員の男性が侵入し、刃物で19人を刺殺し、26人に重軽傷を負わせた事件が発生しました。第二次世界大戦後の日本における殺人事件としては、最も犠牲者が多く、最悪の大量殺人事件です。
この事件でみられる特徴とは、加害者が事前に「障害者は社会の役に立たない存在」として抹殺対象の宣言をしていたこと、知的障害者のみ殺害にいたり健常者は対象外であったこと等が挙げられます。
事件後、男性が抱く重度知的障害者に対する「生きている価値がない人たち」という思想背景により発生したという報道から、インターネットにはそれを賛美するかのような書き込みが繰り返されたことは、今日においても「障害」を持っている人は「健常者」よりも劣っているという潜在的意識の現われともいえ、著しく障害者の人権が傷つけられたことを決して容認することはできません。
しかしながら、かつて曹洞宗においても布教宣布のなかで、「過去世の『悪業』の結果、現世において障害を持っている」と障害者差別に加担してきた歴史的事実があります。

 

仏教と障害者差別

宗門において、「差別図書」として回収本となっている『洞上室内切紙参話研究並秘録』は、師僧から代々伝えられた「切紙」などを集め、編纂し、解説を加えたもので、1938年から1973年まで出版されていました。この中に「非人癩病狂死者引導法並符」と題する項目があります。
ここに「其ノ屍(しかばね)ヲ導師ノ風上ニ置クベカラズ」とあり、その遺体を「穢れたもの」として見ています。これは、部落差別をはじめハンセン病患者や障害者差別を助長するもので、その死者に対する喪儀法を一般の人々と異なった、差別的な儀礼で行うよう記されており、障害者などに対する差別意識を流布させたのです。
さらに「切紙」では、障害者等のことを「業報」や「因果」によるものと断定し、「汝元来不生不滅、無父無母無兄弟、此土身去再不来、輪廻顚倒直断絶」と唱えさせ、この世の一切の者と縁を絶ち、二度と生まれてきてはならない、輪廻さえも許さずと、極めて差別的な絶滅・断絶思想をも伝承してきたのです。
また、1982年に宗門内で復刻出版された『家庭訓』という書籍にも極めて差別的な記述があります。

 

―さらに厳重に血統をまもらなければならぬうえからは、精神病、癩病、悪質の伝染病等に注意し、不純な血を警戒し防止せねばならぬ

 

ここでは「血統」を重んじ、不純な血を警戒防止しなさいと、従来の仏教で「業病」とされた精神的疾患者をはじめハンセン病を排除するという考えが記されています。

 

「障害者差別解消法」施行

「障害者差別解消法」は2016年4月に施行されました。しかし、本法律が成立する10年も前の、2006年12月に、国連で「障害者権利条約」が採択され138ヵ国が批准したのですが、日本がこの中に入っていなかったことは、あまり知られていません。
日本では、2011年の「障害者基本法」成立以降、数々の障害者関連法が整備され、ようやく障害者の権利を守る姿勢について、世界の標準に並んだという状況にあり、2014年1月20日にこの条約に批准したことは、実はかなりの遅れをとっていると言わざるを得ません。
いわば、昨年の「障害者差別解消法」の施行は、世界的にみれば「やっと」という感があります。
「障害者差別解消法」とは、国や地方公共団体などの行政機関、民間事業者における障害を理由とする差別を解消するための措置などを定めることによって、障害のある人もない人も、お互いに人格を尊重しながら、「ともに生きる社会」を実現することを目的としています。
この内容は、障害者に対する「不当な差別的取り扱いの禁止」と、「合理的配慮の提供」を行政機関などに求めており、また、障害の有無に関わらず、私たち国民一人ひとりが、障害を理由とする差別の解消の推進に努めなければならないとするものです。

それでは、この求められている障害者に対する「不当な差別的取り扱いの禁止」と「合理的配慮の提供」について見てみます。

まず、「不当な差別的取り扱い」とは、正当な理由なく、障害を理由として、サービスの提供を拒否したり、場所や時間帯などを制限したり、障害のない人には付けないような条件を付けたりすることにより、障害者の権利利益を侵害することです。また、正当な理由があると判断した場合は、障害のある人に理由を説明し、理解を得るように努めることが望ましいとされています。
次に「合理的配慮の提供」とは、障害のある人や家族などから、何らかの配慮を求める意思の表明があった場合において、お互いの建設的対話により、その実施に当たり過重な負担にならない範囲で、必要な配慮を行うこととされます。ここでいう「意思の表明」とは、言語(手話を含む)、点字、拡大文字、筆談、実物を示すことや身振りのサインによる合図、触覚など様々な手段により意思が伝えられることをいいます。通訳や障害のある人の家族、支援者、法定代理人など、障害のある人のコミュニケーションにより、本人の意思が伝えられることも含まれます。
さらに「過重な負担」とは、個別の事案ごとに、事業への影響や可能性の程度や費用などを状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要とされ、過重な負担にあたると判断した場合は、障害のある人に理由を説明し、理解を得るように努めることが望ましいとされています。

私たちは、過去の歴史的事実を教訓として刻み、今日、地域社会のなかで障害をもつ人々への「合理的配慮」について一層考え、理解を促進させなければなりません。

(人権擁護推進本部記)

 

【参考文献】

・『「洞上室内切紙参話研究並秘録」に学ぶ』曹洞宗研修教材

・「ともに生きるTOKYO・障害者差別解消法」東京都福祉保健局

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