【International】「北米曹洞第一道場」 天平山菩提心寺建立事業並びに 専門僧堂設置認可にむけて

2017.11.01
僧堂外観

北アメリカにおける曹洞宗の国際布教は、2022年に100周年の大きな節目を迎えます。その記念事業の一環として、「天平山菩提心寺建立事業」を推進しています。宗門の国際布教の歴史で初めてとなる、日本国外における専門僧堂設置認可を目指し、カリフォルニア州レイク郡の13万坪の土地に、日本の伝統的な木造建築による禅宗様式の伽藍を整備し運営する計画です。これは、国際布教の先人の方々から引継いだ永年の念願であり、この地における百年近きにわたる先徳の精魂の帰結として、専門僧堂設置の要望が澎湃として起きています。
宗門の国際布教の歴史は、1903年にハワイとペルーへ宗侶が派遣されたことにより始まり、その後北アメリカにおいても、日本からの移民やその子孫を基盤とした日系寺院を中心に、教化活動が盛んになされました。
1960年に入ると、当時の北米開教総監部(現北アメリカ国際布教総監部)の主唱により、開教師(現国際布教師)による現地の人々を対象とした参禅活動が活発になり、次第に社会へ浸透していきました。
アメリカには80を超える宗教諸派が混在しています。1970年代半ばには20万人だった仏教徒は、現在では約300万人と推定されており、アメリカの宗教のひとつとして受け入れられています。「仏教に何らかの重要な影響を受けた」というアメリカ人は約2500万人、驚くほどの数に上ります。
仏教が欧米社会で広範に普及するようになった理由はいくつか挙げられます。特に、自我の確立が現代教育の眼目とされながら、自我により構築された個人であるが故に苦悩もまた多し、という人間性の領域から超脱し、他者共同体、人類、生態系、地球や宇宙との一体感を確立する必要性が大きくなった現代において、仏教によってそれが可能となるものと、光明が見出されているからです。
ことに、「只管に坐ること」が人類の苦悩を最も簡潔に救済する根本的な実践法であるという理解がなされているのです。言葉を変えるならば、それは「仏陀や祖師方の教えを理屈なしに自覚させてくれる実践である」ということでもあります。
その様な理解認知の背景により、日本国外における曹洞宗の広がりは近年特に目を見張るものがあり、現在、曹洞宗の僧籍を有する者は800人、寺院・禅センターは500ヵ所を超えるまでになりました。日本の専門僧堂や宗立専門僧堂での安居を修了し、教師補任される僧侶が続々と生まれ、国際布教師の新規任命や海外特別寺院の登録なども増え、結制安居も修行されるようになりました。さらにこれから僧侶として歩もうとする、いわば宗侶予備軍の数もこれに従って増加の一途を辿っております。
この様な宗勢にともない、海外において、禅の後継者の育成が重要な要請、課題となってきています。
一仏両祖のみ教えに基づく曹洞禅が、なぜ欧米人の宗教心に浸透するのかを申し述べますと、「只管打坐・Just Sitting」は、1個の生命体は地球、宇宙の悠久の生命と連鎖した真理の体現であるという確固たる事実を、明晰に覚醒させる働きがあり、人間活動が本来あるべき姿を自覚することを促す力を内包していると捉えられているからです。また、私たちが恩恵に浴している高度に発達した21世紀の文明における最大の課題である、「持続可能な資源、環境、生態系を如何に保持していくか」についても、一仏両祖のみ教えの中に、その難題を基本的に解く“鍵”のありかを気付かせる、非常に現代的な言葉がいくつも見出せるとされています。
拙い経験ではありますが、私自身の30年ほどの国際布教生活から申し上げますならば、これを正しく伝える現地の宗侶を育成することが、宗門の国際布教の将来展望にとって、喫緊の重大事であると思量しております。日本国外において、曹洞禅は国家や地域の歴史、文化、気候、風土、生活習慣にそれぞれ順応しながらも展開されており、その多様性は曹洞禅の新しい相貌を顕すのではないかとの期待をもたせる、大きな魅力でもあります。現時点においては、仏祖単伝の正法、只管打坐、即身是仏、禅戒一如、修証不二の妙諦を正しく伝えることが肝要です。そして、宗侶として身に備えておくべき威儀即仏法、作法是宗旨を日常的に体現する基本進退や威儀などの共通事項を実践的に指導することも特に重要なのです。これらは、日本国外に展開する曹洞禅社会に対し宗門が遂行しなければならない責務とも言えるでしょう。
宗門の宗旨や伝統を現地の言葉で正しく伝え、綿密な行持を履践するための修行道場、それが天平山菩提心寺です。800年の伝統を誇る日本の曹洞宗にとって念願の大事でもある本事業が完遂すれば、宗門古来の行学を修することが可能となり、「行によって證入す」の正伝の仏法を世界各国へ伝える基盤を築くことに繋がります。
さらには、天平山菩提心寺完成の暁には、ここを拠点として多くの日本人僧侶や外国籍僧侶が往来することで様々な交流が可能となり、全世界に広がる曹洞禅の将来にとって、多様性に富む豊かな人材を輩出する有益性を生み出します。これは、世界に対し開かれた曹洞禅の無限の可能性を追求する、力強い宗門への変貌を遂げるきっかけを作り、大いなる財産となるものと確信しております。
宗門各御寺院さまにおかれましては、何卒この天平山菩提心寺建立事業の趣意をご理解いただき、物心両面にわたるご助力やご支援、ご加担いただけましたならば、これに過ぐる悦びはありません。何卒、ご法愛、ご協力を賜りますよう伏してお願い申し上げます。

(北アメリカ国際布教総監 秋葉玄吾 記)

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