【International】英語翻訳版『伝光録』出版にあたり

2018.07.10

平成8年に曹洞宗宗典経典翻訳編集事業が組織されて以来、平成13年8月には『曹洞宗日課勤行聖典』を、また平成22年1月には『曹洞宗行持軌範』を翻訳出版いたしました。そしてこのたび、太祖瑩山禅師が説示されました『伝光録』の英語翻訳版が完成し、出版の運びとなりました。
1960年代以降、日本国外において曹洞禅を実践する人々が増えていくなかで、道元禅師や瑩山禅師の主な著作は英語圏を中心にいくつかの翻訳が出版されましたが、その多くには注釈が少なく、十分な内容とは言い難いものでありました。禅センターにおける講義や大学などの授業において、曹洞禅を正しく伝え、広く展開し続けるには、原文の言語に忠実で、信頼のある学問的理解に基づき的確に翻訳され、可能な限り出典を明らかにする必要があります。このような状況により、本事業が組織され、今日まで継続されてまいりました。


この『伝光録』については、道元禅師の『正法眼蔵』とともに宗門の重要な宗典であり、釈迦牟尼仏よりインド二十八祖、中国二十三祖を経て、道元禅師、懐奘禅師に至る一仏五十二祖に単伝される悟道の因縁を取り上げて提唱説示されたものであります。宗務庁版『伝光録』が平成17年に刊行されたのを機に、これを底本として英語翻訳が開始されました。


翻訳作業はウィリアム・ボディフォード先生を主として、故ジョン・マクレー先生、サラ・ホートン先生らがそれに加わり、グリフィス・フォーク先生が編集長の任にあたられました。
翻訳編集作業では日本語の原文と英訳を一文ずつ確認し、必要に応じて修正を重ねていきました。英訳された仏教用語については、『伝光録』の本文中において、また可能な場合は翻訳作業中の『正法眼蔵』との間においても、一貫性を確かなものにするため標準化しました。
このことについてグリフィス・フォーク先生は次のように述べています。「翻訳者はまずは元のテキストを理解し、機械的な翻訳になってしまわないように注意を払って作業を行わなければなりません。いわゆる、言語学上の語彙の意味や文法をしっかりと把握する必要があります。文法をきちんと理解せずに、一連の言葉の手がかりをふまえて、原典の意味を直観的に捉えて翻訳することは、たとえそのような不正確な方法による翻訳が優雅で見栄えのある英文であったとしても、絶対にしてはいけません。元の日本語や、漢文の文章や一節が理解困難な場合に直面したとき、翻訳者はそれを理解することをあきらめ、そして機械的に英語に翻訳したり、単にそれらしき意味を推測し、英語に翻訳したりしてはいけません。」と。
また、多くの脚注を掲載し、その中には仏教の伝承的知識や有名な機縁などについての説明や、一般的でない仏教用語や教義についての解説、さらにこれまで明らかになっていなかった引用や文献についても、様々なデータベースを用いることで見つけ出し記載しております。


曹洞宗宗典経典翻訳事業では、組織されて以来、検索可能なデジタルテキストを研究ツールとして使用し、展開してきました。これには、1980年代半ばに始まった中国禅のテキストのデジタル化に努めたパイオニアであるウルス・アップ先生の力が大きく、この『伝光録』をはじめ、様々な出版物のデジタルページレイアウトや、翻訳者が共有し利用することができるオンラインデータベースの構築とメンテナンスなども担当されています。このデータベースには、曹洞宗の宗典や経典などに見られる16000件以上の専門用語が含まれており、各用語についての英訳が示されいます。また、それらはデジタル検索によって豊富な研究結果を包括しています。
英語翻訳版『伝光録』は本編と用語集の2冊組となっており、用語集では『伝光録』に出てくるすべての名称(人物、場所、文献)と、仏教や特に禅の専門用語などを集録し、原文において重要と認められる発想、隠喩、歴史的事項等について詳細な説明を掲載いたしました。
『伝光録』が翻訳され、出版されたことは、海外においても今後ますます興隆することに大いなる期待をするものであります。また、本事業の開始以来翻訳に着手しております『正法眼蔵』につきましては、本年度をもって全巻の翻訳が完了する予定であり、本年度より編集並びに校正作業へと移行し、出版に向け一意専心に努めてまいります。
今後とも宗典経典翻訳事業に対しましてご理解いただきたく、重ねてお願い申し上げます。

(国際課記)

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