【International】目標8 働きがいも経済成長も

2021.11.04
ハワイ島 ヒロ大正寺

今回はSDGs目標8のテーマである「働きがいも経済成長も」についてお話しいたします。このテーマでは全ての人がディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を実現することを目指しています。これは「働く人の権利が適切に保護され、十分な収入を生み出し、自己の成長、働きがいを感じることができる仕事」のことを指します。

世界にはまだまだ男女や人種の違いによって自分が希望する仕事に就くことができない人、または低い給与にも関わらず、長時間働かなければならない人々が大勢います。この問題を解決するためには企業ごとの努力が必要不可欠です。どうすれば皆が気持ちよく働けるかを考え、男女問わず平等に働けるような環境を作り、勤務時間の短縮、給与をあげるなどの工夫をしていかなければなりません。

また、働く私たち一人一人がいかに「周りの人のことを思いやること」ができるかが重要になるのではないでしょうか。もし、あなたの会社の上司がいつも部下に対して思いやりを持った行動ができる人であれば、部下であるあなたの意見を受け入れ、無理をさせてまで長時間働かせるようなことはしないでしょう。また、もしあなたと一緒に働く仲間が周りに気を遣うことのできる人であれば、あなたへ励ましの言葉をかけてくれたり、時には仕事を分担して定時で仕事が終われるよう協力したりしてくれるかもしれません。「周りの人のことを思いやる」というのは、仏教で「同事」と言われる大切な修行の一つです。

道元禅師はこの「同事」について、「同事といふは不違なり」と説かれました。これは「同事というのは違わないこと」という意味になりますが、相手と自分とが違わないこと。つまり、自分中心に物事を考えるのではなく、常に「相手の立場になって物事を考えていく」ことが大切であると説かれました。皆さんは、普段の生活の中で周りの人の立場になって物事を考えることができていますか?これは、日頃から意識して行わないと難しいかもしれません。

日曜礼拝に参加する子どもたちと(右端筆者)

現在、私が活動しておりますのは、そのような相手の立場になって物事を考える「思いやりの心」を育む取り組みです。これは実際に、仕事をしている人に対するものではなく、将来仕事に就く子どもたちに対して、お寺で心の勉強をする機会をもうけ、仏教の教えを通して人間性の成長を促す取り組みを行っております。

私が居住しているハワイの曹洞宗寺院では、日本のお寺が行う坐禅会や法事などの活動に加え、お寺がハワイの人々に受け入れてもらえるように、キリスト教文化の習慣を取り入れた「日曜礼拝」を昔から各寺院で行っております。私が赴任しておりますハワイ島ヒロ大正寺では、毎週日曜日の朝9時から日曜礼拝を行っております。お寺の檀信徒が集まり、一緒に1分間坐禅をし、般若心経を唱え、仏教の歌をウクレレの音に合わせて歌い、最後に私が法話を行います。

基本的に、大正寺の日曜礼拝は子どもたちを主とする活動でありますので、子どもたちでも楽しく参加できるプログラムを僧侶や日曜礼拝を運営するメンバーとともに考え、開催しております。子どもたちやその家族の方々は、日系アメリカ人三世・四世が殆どでありますので、プログラムはすべてを英語で行います。法話ではお釈迦さまの教え、道元禅師の教え、瑩山禅師の教えなどを紹介し、実際にその教えをどう日常生活に活かしていくかを話し、仏教が子どもたちの日常生活に溶け込んだものになるよう努力しております。

メンバーとウクレレを弾いて歌う筆者

この日曜礼拝に毎週通うことにより、子どもたちは自然とお寺の出入り口で、自分から仏さまに向かって手を合わせたり、自発的に人に挨拶をしたり、30分~1時間程の日曜礼拝の間、静かに椅子に座って一生懸命僧侶の話を聞くことができるようになります。子どもたちがこの日曜礼拝を通して周りの人に対して敬意を払い、思いやりを持って行動する「同事」の力が養われていくことを願っています。

さらに、SDGs目標8のテーマは、ディーセント・ワークを実現するだけではありません。児童労働や失業者の増加も大きな課題です。私はこのテーマの理解を深めていくなかで「世界には約1億6000万人もの子どもたちが学校にも行けず労働を強いられている」という事実を知り、非常にショックを受けました。世界の貧しい国の中には、生きていくために、学校にも行けず毎日一生懸命農作業をしたり、重い砂を運んだりと、大人が行うような仕事をする子どもたちがいるのです。

また、世界には仕事がない失業者は約2億人以上、ワーキングプア(低賃金で働く貧困層)は、七億人も存在していると言われております。働きたくないのに働かなければならない、働きたいのに働けない、働いているのにそれに見合った給与を得ることができない。世界は国の経済状況や貧富の格差によって、多数の人々が満足に仕事を行うことができていない状況にあります。

ハワイでも失業率の増加は深刻な問題となっております。新型コロナウイルスのパンデミックが始まって以降、ピーク時では失業率が23%となり、約5人に1人が職を失っている状態にありました。ハワイは全米で最も失業率が高い州となっております。私の赴任している大正寺によく来られる日本人の知り合いの方は、日本人に特化してハワイの観光地を案内する観光業を営んでおりましたが、観光客の激減により会社が倒産し、日本に帰らざるを得ない状況となってしまいました。他にも私の身の回りには職を失った方がたくさんいます。

本堂で法話を行う筆者

これらの事実を踏まえた上で、SDGsの目標8「働きがいも経済成長も」に関しては、私たちが共に協力して解決しなければならない大切な問題であると実感いたしました。これは新型コロナウイルスの終息、または国や州のレベルでの経済支援策の実施や援助が大きな鍵となるのかもしれませんが、私たち個人にできることはないでしょうか? そう考えたとき、私たちにできることは、まず、一人一人がこの現状を理解するところから始めることではないでしょうか。また支援団体に寄付をしたり、身の回りで働くことができず、困っている人に対して親身になって話を聞いたり、どうすればうまく働けるか一緒に考えたりすることが肝要であります。

方法は様々ありますが、私たち一人一人が共に手を取り合い、誰もが助け合うことのできる世の中を作っていかなければなりません。それが仏さまの慈悲の姿であり、利他行の実践なのではないでしょうか。

皆が共に元気でやりがいを持って働き、共に笑顔で過ごせる、誰一人取り残さない明るい世の中になるように私も努めていきたいと思います。

合掌 

ハワイ国際布教師 ハワイ国際布教総監部書記 畑 辰昇 

 

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