シンポジウム「食」-禅に学ぶ-

2019.08.01

「禅の食」の根源は、仏教が2500年を超える歴史の中で積み重ねてきた「生命との向き合い方」に他なりません。食べることは生きること。今、未来につながる「食=生命との向き合い方」が問われています。

開 催 日 時:令和元年11月25日(月)13:00~17:00
会   場:東京グランドホテル内 曹洞宗檀信徒会館〈3階 桜の間〉
定   員:180人 申込不要・参加無料

プログラム

13:00 開会
13:10 Section1 曹洞宗と食:『典座教訓』を中心として
  -1、中国における典座の成立について
  -2、文亀本『典座教訓』について
  -3、『典座教訓』の出典註釈研究における成果
  -4、道元禅師在世当時における食の諸相
  -5、道元禅師以降の『典座教訓』の伝播と受容
            -中世・瑩山禅師より近代・戦前期にかけて-
  -6、戦後から現代における『典座教訓』の展開

15:10 Section2 曹洞禅×SDGs-食の未来-
  -1、SDGsの現在
  -2、現代日本における食の実態
  -3、海外の禅センターにおける食
  -4、曹洞禅から考える精進料理の可能性

16:40 質疑応答 全体まとめ

17:00 閉会

 

発表内容

Section1 曹洞宗と食:『典座教訓』を中心として

禅宗の修行道場において、調理全般を担当する役職を「典座(てんぞ)」といいます。道元禅師は、「典座」の重要性とその心構えについて、『典座教訓』を著して説かれました。宗学研究部門では、「道元禅師の総合的研究」の一環として、本書の註釈的研究に取り組んできました。その成果は『宗学研究紀要』にて随時発表してきましたが、本年度の掲載をもって完結を迎えることとなりました。この好機に際し、『典座教訓』を中心として、曹洞宗と「食」がどのように関わってきたかをテーマに研究発表を行います。発表では、註釈的研究の成果に留まらず、中国における典座の成立から、日本の近・現代に至るまでの幅広い時期・内容を取り扱います。

1、中国における典座の成立について(専任研究員 小早川浩大)

「典座」という用語は中国において成立する。その用例については、既に無著道忠撰『禅林象器箋』(1741序)にて紹介されているが、これによれば、同じ典座という役職名であっても、その役割については大きく2種類が存在するという。本発表では、これら先行研究に基づきながら、典座という役職が成立し、現在のような役職として定着するまで、その過程について整理・確認するものである。

2、文亀本『典座教訓』について(宗学研究部門 角田隆真)

曹洞宗総合研究センター宗学研究部門に設置された「道元禅師の総合的研究」と題した研究会では、平成24年度より9年をかけて「「典座教訓」の注釈的研究」を行った。本発表では、当研究の意義や目的および当研究において底本とされた文亀本『典座教訓』について、その概要を紹介する。

3、『典座教訓』の出典註釈研究における成果(宗学研究部門 新井一光)

当研究会の共同研究の具体的な成果を報告する。今回新たに参照した文亀本『典座教訓』を底本とするテキストの校訂作業を始めとする文献学的研究によって、従来の解釈とは異なる理解が得られた主要な個所について、説明する。

4、道元禅師在世当時における食の諸相(宗学研究部門 永井賢隆)

周知のとおり、われわれの食生活は時々刻々と変化している。飽食の現代日本では特にその変化を実感するのでは無かろうか。昭和期と現代(100年弱)ですら大きく異なることを実感される方も多いのではないかと思う。それは生活様式の変化や、調理法の確立、物流の発展など様々な要因によってなされたものであろう。と、するのであれば、現代の我々の食の実際が、道元禅師が生きた鎌倉期前半におけるそれと同義であるとは考え難い。当然のことであるが、火を起こすことも、水を汲むことも、手に入る食材も、その一つ一つが現代とは異なるのである。
本発表では鎌倉期における食されていた食材や調理法を紹介すると共に、身分による食の差について論考したい。

5、道元禅師以降の『典座教訓』の伝播と受容-中世・瑩山禅師より近代・戦前期にかけて-(宗学研究部門 秋津秀彰)

道元禅師以降、『典座教訓』・『赴粥飯法』が、どのように伝わり、受け入れられ、活用されてきたのかを通史的に概説し、現在における位置付けの源流を探ることを目的とする。本発表では、曹洞宗の発展の基礎を築いた、太祖瑩山紹瑾禅師から、中世・近世、そして近代戦前期まで(鎌倉・室町・江戸時代~昭和初期)を取り扱う。

6、戦後から現代における『典座教訓』の展開―特に宗門外での動向について―(宗学研究部門 澤城邦生)

本発表では昭和20年代から令和元年における『典座教訓』の敷衍について報告していく。検討領域は多岐にわたるが、曹洞宗内と宗外の動向に分け考察する。主に後者に注目し、給食業界や教育界における『典座教訓』の取り上げられ方について出来得る限り掘り下げていく予定である。

 

Section2 曹洞禅×SDGs-食の未来-

現在における「禅の食」は、食材を吟味して美しく調理された菜食の「精進料理」として認識されることがほとんどです。しかし、その本質は仏教が2500年以上かけて志向してきた「生命のあり方」とその「尊厳」にこそあります。知られるように、フードロスや食育など、「食」に関する諸問題は、未来にもつながる重要な課題です。それは、単に「食料」という物質・物量的な認識だけではなく、「食=生命をいただく」という精神的な領域においても観念されなければなりません。Section2では、SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)などを含め、海外や日本における現況を俯瞰的に把握した上で、「禅の食」の意義を深く思考し、未来につながる禅の精神を探求します。

1、SDGsの現在(専任研究員 清野宏道)

2015年9月、国連加盟国(193)の全会一致承認をもって採択されたSDGsは、達成されるべき国際目標として広く世界に浸透しつつある。理念である「Leave No One Behind(だれ一人残さない)」など、SDGsを追求すると、驚くほど仏教の考え方や曹洞宗の教えに重なる部分がある。発表では、SDGsの現在を見つめながら、仏教・曹洞禅とのつながりを考えたい。

2、現代日本における食の実態(専任研究員 久保田永俊)

日本人の食生活は多様化、欧米化し、自宅での食卓の様子も多様化している。近年、共働き世帯が増え、家事、育児における時間短縮という「時短」化が進み、料理にかける時間も利便性重視した傾向にあるように思う。食事において加工食品を利用する、いわゆる「外部化」が増加傾向にある。こうした現代日本の食の実態(ワークライフバランスの変化や、食事バランスの崩壊、お惣菜などの外部化、消費者の消費動向など)をふまえ、私たち一人ひとりが、どんな取り組みができるのかを考え、提案していく内容としている。

3、海外の禅センターにおける食(副主任研究員 南原一貴)

食文化や生活習慣などが日本と異なる海外の禅センターでの食事について、アメリカ合衆国とヨーロッパ(オランダ王国、フランス共和国)の常住型の禅センターでの実例をもとに報告する。

4、曹洞禅から考える精進料理の可能性(教化研修部門 久保田智照・西田稔光・深澤亮道)

現在のわが国において、注目を集める機会が多い「精進料理」。
しかしその存在が広く知られる一方で、実は「精進料理」自体にはっきりとした定義は存在しておらず、非常に曖昧な概念として通用している状態にある。本発表では曹洞禅の立場から、あらためて「精進料理」について検討していく。

 

特別協賛(50音順)

・こまきしょくどう~鎌倉不識庵~
・公社)シャンティ国際ボランティア会
・全国曹洞宗青年会
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・公財)仏教伝道協会
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野村アグリプラニング&アドバイザリー(株)

 後援

・公財)全日本仏教会